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O plus E誌 2008年10月号掲載
 
アイアンマン』
(パラマウント映画
/SPE配給)
 
    (C) 2008 MVLFFLLC. TM & (C) 2008 Marvel Entertainment.  
オフィシャルサイト[日本語][英語]
[9月27日より日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開予定] 2008年6月26日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
   
(注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)
この躍動感と爽快感,本年度No.1の鉄人登場

 あー待ち遠しかった。ようやく,この映画を紹介できる時期になった。試写を観てから公開まで3ヶ月以上も経っている。何でこんなに待たせるのだと配給会社を罵りつつ,早く書きたい気持ちを抑えていた。文句なく,筆者の今年のベスト1である。エンターテインメントとして極上の逸品だ。原作は「スパイダーマン」「X-メン」「超人ハルク」などと並ぶマーヴェル・コミックのヒーローだが,日本ではあまり知られていなかった。この映画の公開で知名度は一気にアップすることだろう。
 この種の映画は,ヒーロー誕生までをいかに面白く見せるかが成功の鍵である。同時に,超能力や真の姿や彼を取り巻く環境も紹介しなければならない。『スパイダーマン』(02年6月号) は,遺伝子を組み換えた新種のクモに刺されたことで,驚異的な動体視力や跳躍力を得る過程を楽しく見せていた。『バットマン ビギンズ』(05年7月号)は,既によく知られたヒーローの原点に回帰した。両親を殺されたブルース少年が悪を憎み,ヒマラヤ奥地に武術修行に出かける様子までを描いて,骨太の新シリーズとしたのが大成功だった。
 さて,後にアイアンマンとなる人物の正体は,大富豪の息子で,巨大兵器産業の経営者,天才発明家であるトニー・スタークだ。彼がアフガニスタンで武装テロリスト集団に拉致されるところから物語は始まる。幽閉中に新型ミサイルを作るふりをして,飛行可能な戦闘用スーツMark Iを開発する(写真1)。最初からテンポが良く,この鉄製スーツを着て空を飛び,テロリストのアジトから脱出するまでを,わくわくしながら観てしまう。

   

写真1 幽閉された洞窟内で,限られた部品から飛行可能なパワードスーツMark Iを開発した。
さすが天才発明家!

   
 監督は,『ザスーラ』(05年12月号)のジョン・ファヴロー。俳優としては『恋愛適齢期』(03)『デアデビル』(03年4月号) に出演しているが,この映画ではスターク社長の運転手役で登場している。どうやら,俳優よりも監督としての才能の方が上のようだ。主演はロバート・ダウニーJR.だが,最初スチル写真1枚を見た時はヒュー・ジャックマンかと思っていた。そーか,『ゾディアック』(2007年6月号)でジェイク・ギレンホールと事件を追っていたあのヒゲ面の記者だ。この富豪発明家の方がセクシーで,ぐっと魅力的だ。
 助演陣は,美人秘書ペッパー・ポッツ役にグゥイネス・パルトロー,会社の幹部役員オブディア・ステイン役にジェフ・ブリッジス,気心知れた空軍中佐ローディ役にテレンス・ハワードというキャスティングである。中でも,ミス・ポッツのG・パルトローがとてもチャーミングだ。出世作『恋に落ちたシェイクスピア』(98)に勝るとも劣らない輝き方をしている。スターク社長ならずとも,この秘書に恋をしてしまいそうだ。スキンヘッドで登場するJ・ブリッジスは,『光の旅人/K-PAX』(02年4月号) 『シービスケット』(04年2月号) の善良な人物とはうって変わった役柄だが,存在感ある悪役を演じている。さすが,オスカー候補の常連だ。
 アフガン脱出後の次なる見せ場は,トニー・スタークが自宅の工房で,パワードスーツを再設計し,アイアンマン用のスーツとして完成させるまでの過程だ(写真2)。15歳でMITに入学し,首席で卒業したという天才である。科学者でなく,天才エンジニアという設定が嬉しい。ちょっとレトロな感じの彼のラボに,最新設備が揃っている様子も洒落ている。美人秘書だけでなく,この工房も欲しくなってしまう。「PC画面とリンクしたホログラフィック・ディスプレイ」「音声会話で制御できるロボット・アーム」「視線入力によるビジュアルアイコンの制御とメニュー選択」「ジャービスと呼ばれるインタフェース・エージェント」等,しっかりとした技術考証の上,少し未来の挑戦課題まで含めて描いているなと感じる。こういう映画に魅せられて,理系志望の青少年が増えればいいなと思う。
   

写真2 脱出後は自宅の工房で,しっかり設計し直してMark II, Mark IIIを完成させた。この工房がいい!

   
 赤と金色のMark IIIの完成後は,世界の平和のため悪と闘う「アイアンマン」が登場する(写真3)。このスーパーヒーローは超能力者ではなく,武術で鍛えた運動能力もない。自ら開発したスーツの力だけでスーパーパワーを発揮するという点が,他のヒーローとは違うところだ。手から火を吹き,爆発の中から高くジャンプし,戦闘機に追われながら飛ぶシーン,クライマックスでのアイアンモンガーとの闘いなどは,言うまでもなく,CG/VFXの産物である。VFXの担当は老舗のILMで,パワードスーツのデザインと実物試作は,スタン・ウィンストン・スタジオの担当である。いい出来だ。
 都市空間を飛翔する姿は,スパイダーマンやスーパーマンで見慣れたシーンのはずだが,何度観ても爽快だ。アイアンマンに変身する際の金属音も,スーツ表面の金属光沢も実に心地よい。これは『トランスフォーマー』(07年8月号) で磨いた技だろうか。CGと実物スーツの使い分けも,小道具やコンピュータ・モニタ画面のデザインも秀逸だ。さすがVFX界の老舗の味だと感じるシーンが次々に登場する。まさに匠の世界だ。
 去る6月,『ターミネーター』(84)や『ジュラシック・パーク』(93)を手がけたスタン・ウィンストン氏が,骨髄腫のため亡くなった。享年63(満62歳)。若過ぎる死である。SIGGRAPH2008では,彼の追悼セッションが設けられ,本作品のクリップもいくつか上映された。筆者は,6年前にモナコでの会合で軽食をとりながら,同氏と歓談したことがある。ダンディな紳士だった。「俳優を志したが,売れなかったので,SFXに転じた」と語っていたのが印象に残っている。合掌。
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写真3 完成後はスーツを身に着け,スーパーヒーローとして活躍する

(C) 2008 MVLFFLLC. TM & (C) 2008 Marvel Entertainment. All Rights Reserved.

   
(画像は,O plus E誌掲載分を一部差し替えています)
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