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O plus E誌 2006年9月号掲載
 
 
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スーパーマン リターンズ』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月19日よりサロンパス ルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開中]   2006年7月13日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
   
 
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X-MEN:ファイナル ディシジョン』
(20世紀フォックス映画)
      (c)2006 TWENTIES CENTURY FOX  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月9日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にて公開予定]   2006年6月29日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  最後にやって来たアメコミ2作は,甲乙つけ難い力作  
   「この夏真打ちは,最後にやってくる!!」というのが,配給会社が考え出したキャッチコピーだ。スーパー・ヒーローの中でも知名度No.1のスーパーマンが装いも新たに帰って来るとなれば,これくらいの表現は当然だろう。英雄の再映画化を取り上げるなら,対するマーヴェル・コミックスが生んだ英雄たち「X-MEN」シリーズの第3弾もまとめて語っておこう。米国での公開は逆順で,前者は独立記念日休暇,後者は5月末のメモリアル・デイ(戦没者追悼記念日)の週末という夏の2大ハイシーズンに公開され,いずれも期待通りの堂々たる興業成績を収めている。
 「スーパーマン」と言えば,1938年にコミックとして生まれたが,人気を不動にしたのは50年代から60年代にかけての30分TV番組だった。「弾よりも速く,力は機関車よりも強く,高いビルディングもひとっ飛び」「空を見ろ! 鳥だ。ジェット機だ。スーパーマンだ!」のセリフは,当時の少年なら世界中誰でも知っていて,今でも暗記しているに違いない。
 そのヒーロー作品が,大型娯楽作品として再映画化されたのは1978年のことで,『スター・ウォーズ』によく似たジョン・ウィリアムズのテーマ曲も,マーロン・ブランドが父親役で登場するのも話題になった。中でも驚きだったのは,主演のクリストファー・リーブはコミックから飛び出してきたかのような風貌で,これ以上のスーパーマン俳優はないとさえ思えた。彼が主演の長編シリーズは第4作『スーパーマン4/最強の敵』(87)まで作られた。後に彼は事故で下半身不随となり,2度とスーパーマンを演じることはなく,先年鬼籍の人となった。

 
     
  よくぞ選んだ,このスーパーマン後継者  
   なぜここまでの長い前置きを書いたかと言えば,この映画は,このスーパーマンの歴史と想い出を共有し,今でも前シリーズの映像が思い浮かんで来る観客(勿論,筆者もその1人)を対象に作られているからだ。主演は新人のブランドン・ラウス。よくぞまぁ,ここまで風貌も体形もぴったりの俳優を探してきたものだ。特に黒縁メガネのクラーク・ケントの時は,生き写しとしか言いようがない。まさに「スーパーマン リターンズ」だ。
 監督は『X-MEN』シリーズを降板して本作に回ったブライアン・シンガー。当然彼も大の『スーパーマン』ファンである。お馴染みのヒロイン,ロイス・レインは『ビヨンド the シー〜 夢見るように歌えば〜』(04)のケイト・ボズワースが演じる。知的な現代風女性の設定なのだろうが,筆者には前シリーズのマーゴット・キダーの方が魅力的に思える。かつてジーン・ハックマンが演じた仇敵レックス・ルーサーを,スキン・ヘッドにしたケビン・スペイシーが演じる。これはハマリ役だ。
 スーパーマンは,自分の生地クリプトン星の消滅を信じられず,5年間地球を離れて宇宙のはてまでその存在確認の旅をしていた。その間に,ロイスは結婚して1児をもうけ,レックス・ルーサーは裁判で無罪となり,再びスーパーマンの力を奪おうとする。という設定だが,スーパーマンの秘密が北極や水晶の棒に隠されていることなど,観客は前シリーズの1作目,2作目を観ていることを前提にしているかのようだ。
 前シリーズ第1作も特殊視覚効果賞でオスカーを得ているが,この約30年間でVFXが非常に進歩したことは言うまでもない。以下,その要点である。
 ■ タイトルバックの宇宙が素晴らしく,音楽もサラウンド方式の威力を感じさせる。まさに技術の進歩を実感できる美しいシーンだ。ここだけでも一見に値する。
 ■ スーパーマンの飛行シーンは,勿論グリーンバックにワイヤー吊りで撮影されたものだ。背景のNYの街並みの描写の精緻さは,さすが『スパイダーマン』シリーズで腕を磨いたSony Pictures Imageworksだけのことはある(写真1)。他にRhythm & Hues,Framestore CFC,Frantic Filmsなどが参加している。
 ■ 何でもCGというわけでなく,大がかりな撮影とデジタル技術がうまくミックスされているようだ。写真2のトウモロコシ畑のジャンプシーンは,クレーンカメラによる大がかりな宙吊り実写映像から,巧みにCG映像にすり替わっている。
 ■ 一方,写真3の雲,ジェット機,シャトルは,全部CGだろう。写真4はCG製の背景に模型の船を合成したと見受けられる。写真5は文字通り模型の町で,映画中でも模型として扱われていたが,いいデキだった。
 
     
 

写真1 やっぱり,颯爽と空を飛ぶシーンが嬉しい!

 
 
 
写真2 高くジャンプした後は,CG製スタントの出番   写真3 機体は勿論,雲も火炎も全部デジタル製だろう
 
 
写真4 北極も海から観た景観がことさら素晴らしい   写真5 映画中でも模型として描かれるこの町は圧巻だ
 
 
(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
 
     
  これで完結かと思わせるほどの重厚さ  
 

 もう1本のこれが3作目となる『X-MEN』は,3年おきの製作で,副題は「ファイナル ディシジョン」(原題はThe Last Stand)である。 日米とも何やらこれが最終作と思わせる営業戦略だろうが,エンディングを観る限り,まだまだ続けても良い仕掛けになっている。
 監督は『ラッシュアワー』(99)『レッド・ドラゴン』(03)のブレット・ラトナー。ヒュー・ジャックマン,ハル・ベリー等の主要な配役は同じで,新しいキャラクタが増えた分,配役も増えている。
 物語は,前作で死んだはずのジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)は別の人格として蘇生し,X-MENたちと敵対する。一方,ミュータントの超能力を奪ってしまう新薬「キュア」が発明され,その争奪戦をめぐり,X-Menたちと宿敵ブラザーフッドと人間が三つどもえの大戦争状態へと突入する。
 前2作に比べると,物語も複雑で重厚さも増しているが,VFXに関してもそれに負けずに多彩になっている。以下,その要点である。
 ■ 物語が20年前に遡った際,プロフェッサーX(パトリック・スチュアート)もマグニートー(イアン・マッケラン)が若い風貌で登場する。特殊メイクにしても何か変だなと思えば,これはデジタル処理による若返りであった。この技術があれば俳優は歳をとらない。
 ■ VFXは,Moving Picture Co., Framestore CFC, Cinesite Europe, Weta Digital, Kleiser-Walczak等に分散発注にされ,互いに競い合わせている。写真6のように,クルマが宙に浮くシーンなどはスケールの大きさを感じさせる。中でも圧巻なのは,金門橋が破壊され,浮き上がってアルカトラズ島まで移動するシーンだ。勿論,橋はCG製だが,少し驚くシーンに仕上がっている。スチル写真が提供されないのが残念だ。
 ■ 各ミュータントの超能力がCG/VFXで描かれることはいつも通りだ。写真7はパイロが出す火炎をアイスマンが氷結ビームで闘っている様である。その一方で,新しいキャラのエンジェルの羽は,背中に取り付けるモードが主力であるかと思えば,窓から飛び出した瞬間にCG製の羽に差し替える作業を施している。いつすり替わったのかは全く分からない(写真8)。
 ミュータントの精神的葛藤や3者入れ乱れての駆け引き等,ストーリーも複雑になり,単純な明解な娯楽大作から一歩踏み出そうという意欲が感じられる。この一本だけで,映画の醍醐味を堪能できる味付けだ。
 その点では『スーパーマン リターンズ』も同様で,いずれ劣らぬ力作だ。スーパーマンが人々の苦難を一身に背負って地球を守ろうとする姿勢に少し感動し,いかに人々に愛されていたかが伺える。まるで,これではイエス・キリストの再来たる受難者だ。その一方で,「5年間の不在を待てなかった最愛の彼女は,既に結婚していた」という設定は,その一方がスーパーマンであることを忘れれば,そのまま男と女の心の機微を描いたシリアス・ドラマとしても鑑賞に堪える。
 では,なぜいずれも☆☆☆評価でないかと言えば,ちょっと立派過ぎて戸惑ってしまうからだ。数十年来のファンは,もっとスカッとした単純明快な活躍譚を期待していたからと言うしかない。

 
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写真6 ブラザーフッドの攻撃で車も空に舞い上がる   写真7 パイロの火炎とアイスマンの凍結ビームの戦い
 
 
写真8 新登場のエンジェルは一見してワイヤー吊り
 (c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved.
 
 
   
   
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