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O plus E誌 2013年10月号掲載
 
 
ウルヴァリン :SAMURAI』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2013 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [9月13日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開中]   2013年8月26日 東映試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  日本を舞台にした外連味たっぷりのX-メン外伝  
  人気の 『X-Men』シリーズの最新作で,これが6作目である。突然変異で超能力を得た奇形人種ミュータントたちの中でも,ヒュー・ジャックマンが演じるウルヴァリンは中心的存在であるので,彼が前面に出るのに不思議はなかったが,ポスターやスチル写真(写真1)を見て驚いた。「SAMURAI」がついていたので,日本に関係した物語であることは予想できたが,このどぎつい和風アクション・シーンは『キル・ビル Vol.1』(03)にそっくりではないか。本作の原題は単なる『The Wolverine』であり,「SAMURAI」もなければ,「X-Men」ですら付されていない。ウルヴァリンだけが日本を舞台に活躍するスピンオフ作品のようだ。
 
 
 
 

写真1 『キル・ビル Vo1.1』を彷彿とさせる和風テイストのアクション

 
  マーヴェル・コミックの「X-Men』シリーズの映画化作品は,『X-メン』(00年10月号)を皮切りに,約3年おきに登場し,3部作で一応の大団円を迎えた。4作目は予想通りビギニングもので,ウルヴァリンことローガンとその兄が人体改造で超能力を得て戦う 『ウルヴァリン:X-MEN ZERO』(09年9月号)だった。原点回帰路線はそれで終わらず,5作目の『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』(11年7月号)は,X-Menチームの総帥プロフェッサーXと敵側の指揮者マグニートーの若き日を描いていた。次はどう来るのかと思ったら,「X-メン外伝」とでもいうべき形で登場した訳だ。メインストリームを外すなら,エスニック路線に徹し,極東の小国を舞台にするのもアリである。
 物語は,現代から始まり,カナダの山中で隠遁生活を送っていたローガンが,第2次世界大戦中に助けた日本人兵士の願いで,東京に連れて来られる。かつての青年兵士が,今は大富豪の実業家・矢志田(ハル・ヤマノウチ)になっていて,余命僅かという設定である。回送シーンとしての大戦時の長崎の模様と60余年後の現代が交錯するが,不老不死のウルヴァリンはほとんど歳をとっていない。その彼が,ある陰謀から超能力を奪われる危機に瀕し,ギャング一味たちと戦う物語である。シリーズ中の時間関係は,ウルヴァリン誕生の4作目よりは後だが,2作目で死んだジーン・グレイ(ファムケ・ヤンセン)がローガンの悪夢に再三登場するので,確実に2作目よりも後の時代として描いていることになる。
 監督は,『17歳のカルテ』(99)『3時10分,決断のとき』(09年8月号)のジェームズ・マンゴールド。ウルヴァリンの鉤爪と日本刀で渡り合うのは,矢志田の息子「シンゲン」役の真田広之(写真2)。『ラスト サムライ』(04年1月号) でトム・クルーズと対戦していたのを思い出すが,今やすっかり国際スターだ。この映画で大きな役割を占める日本人女性は2人で,ローガンと恋仲に落ちるマリコ役のTAOと,サポート役のユキオ(女性の名前らしくないが)役の福島リラが抜擢されている。ともにニューヨークで活躍する日本人モデルらしいが,英語力を重視しての起用なのだろう。
 この3人の起用法は,日本を舞台とした『007は二度死ぬ』(67)での丹波哲郎,浜美枝,若林映子を思い出す。もう半世紀以上前の作品だが,東京の中心地と九州を巡るのも,忍者が登場するのも似ている。ユキオには未来予知能力があるという設定だが,彼女は,今後ミュータントとしてX-Menに加わるのだろうか? そのルックスは,『バベル』(07年4月号)『パシフィック・リム』(13年8月号)の菊地凛子を思い出すし,『キル・ビル Vol.1』での栗山千明にも似ている。これがハリウッド好みの日本人女性ということなのだろう(写真3)。
 
 
写真2 今回は日本刀で,鉤爪と対決   写真3 これが,ハリウッド好みの日本女性像?
 
  他のX-Men仲間が登場せず,ウルヴァリンの能力も失われつつあるというので,CG/VFXの出番は他作品よりも若干少ないが,その分,肉体的なバトルに重きがおかれている。以下,日本の描き方も含めた感想である。
 ■ 洋画に登場する日本の屋敷は,奇妙奇天烈か不気味な小道具で飾られ,呆れることが多いが,本作は装飾面では許せる範囲だった。富豪・矢志田の邸宅は,ちょっとないほど広いなと感じるが,装飾・調度類に大きな違和感はなかった。彼の葬儀会場が,芝・増上寺というのも妥当だし,近隣の東京タワーやプリンスホテルもしっかり写っている。ところが,敵の襲撃に遭い,葬儀会場からローガンとマリコが脱出してからが不自然だった。増上寺のすぐ先が秋葉原(写真4)では変だし,上野駅から駆け乗った新幹線の行き先が長崎というのもあり得ない。しかも,その新幹線車内が,木目模様のインテリアや赤いシートでは興醒めである(写真5)。ハリウッド映画の真骨頂はリアリズムなのだから,日本の観客の目も意識し,もう少し正確に描いて欲しかったところだ。
 
 
 
 
 
写真4 秋葉原万世橋上でのロケ風景
 
 
 
 
 
写真5 新幹線車内のセット。座席は赤くないはずなのに…
 
 
  ■ 危険を察知したローガンは車外に飛び出し,新幹線の屋根の上で敵とのバトルを繰り広げる。何と,この新幹線の屋根は真っ平らで,パンタグラフも架線も何もない(写真6)。それがあると邪魔でバトルを描けないのは分かるが,それならトラックやバスの屋根の上で設定すれば済むことだ。ただし,VFXを駆使したこのバトル自体の描写はよくできていて,3D効果も悪くなかった。シリーズ初の3D作品であるが,本作も最近のメジャー作品同様,2D→3D変換によるフェイク3Dであった。映画全体の3D効果は,可もなく不可もなくだと言えよう。
 
 
 
 
 
写真6 新幹線の屋根がこんな真っ平らな訳はない(これも勿論合成シーン)
 
 
  ■ ウルヴァリンの超能力が減じて行くので,鉤爪の爽快感は前々作ほどではないが,それでも随所に登場するVFXシーンは上質だった。冒頭のカナダ山中で遭遇する熊(写真7),長崎での戦時中の爆撃(写真8),ドクター・グリーンの顔の変形,終盤登場する真の敵シルバー・サムライ(写真9)等々は明らかにCG/VFXの産物だと分かる。生身の人間業と思えない忍者の動きも上々で,実写とCGのバランスもいい。VFXの主担当はWeta Digitalだが,他にRising Sun Pictures, Iloura, Halon Entertainment, Shade VFX,Method Studios等々が参加している。
 
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写真7 まずアニマトロニクスの熊で試してから,CGモデルに置き換えたらしい
 
 
 
 
 
 
 
写真8 昭和20年8月,原爆投下時の長崎のシーン
 
 
 
 
 
 
 
写真9 これが終盤に登場するシルバー・サムライ(その正体はすぐに想像がつくが)
(C) 2013 Twentieth Century Fox Film Corporation All Rights Reserved
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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