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O plus E誌 2011年7月号掲載
 
 
X-MEN:ファースト・ジェネレーション』
(20世紀フォックス映画)
      X-Men Character Likenesses TM & (C) 2011 Marvel Characters, Inc.
TM and (C) 2011 Twentieth Century Fox Film Corporation

 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月11日よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー公開中]   2011年6月8日 20世紀フォックス試写室(東京)
 
         
   
 
マイティ・ソー』

(パラマウント映画)

      TM & (C) 2010 Marvel (C) 2010 MVLFFLLC
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [7月2日より丸の内ルーブルほか全国ロードショー公開予定]   2011年5月24日 GAGA試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ルーツ探索も終盤の盛り上げも楽しめる佳作
 
 

 前々号,前号では,一般的評価が高くないVFX多用作を2本ずつまとめて論じ,精一杯CG/VFXの観点からの援護射撃を行なった。当欄ならではの「思いやり」である。今月は違う! いずれもアメコミの映画化作品であるが,VFXが一級であるだけでなく,作品としての出来も素晴らしく,堂々たる傑作である。片やマーヴェルコミックが誇る『X-MEN』シリーズの5作目であり,もう1本も同じくマーヴェルの異質のヒーロー『マイティ・ソー』の初映画化作品である。1本ずつ語ってもネタは尽きないが,いずれ劣らぬ意欲作であることを強調したいため,今月も2本まとめて語ることにした。
 まずは,既に公開中の『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』だ。先月号に間に合わなかったとはいえ,当欄としては,この作品はスキップして済ます訳には行かない。CG的にも大力作である。本シリーズは,他シリーズと同様,主要キャスティングはほぼそのままで3作目までを作り,一応の大団円らしい充実したエンディングでまとめていた。4作目は予想通り原点帰りで,中心的存在のウルヴァリン1人に焦点を当て,ヒュー・ジャックマンの魅力と鉤爪の威力を堪能できる西部劇風の秀作であった。
 さて,5作目の本作はといえば,X-MEN勢揃いの現代に戻るのかと思えば,更なる原点帰りだそうだ。配役の中に,ウルヴァリン=ヒュー・ジャックマンもなければ,ストーム=ハル・ベリーの名前がない。何と物語は,X-MENチームの総帥プロフェッサーXと敵対するブラザーフッドの指揮者マグニートーの若き日まで遡っているらしい。待てよ,2人のその姿は3作目の回顧シーンで観たはずだったが……。あれは,VFXによる顔面処理で20年前を少しだけ描いたに過ぎず,今度は2人の少年時代まで遡り,ミュータントとしての超能力に目覚める時代にまで遡るようだ。
 これまできっちり3年おきの製作・公開であったが,前作からはまだ2年しか経っていない。監督・主演ともに重複しないので,期間短縮も可能であったようだ。意外だったのは,まだ3D化を志向せず,2D版だけで通してきたことである。監督は,痛快作品『キック・アス』(10年12月号)でヒットさせたばかりのマシュー・ヴォーン。共同脚本も担当している。製作陣に,2作目までの監督を務めたブライアン・シンガーが加わっているのが嬉しい。このコンビには期待できる。
 プロフェッサーXことチャールズ・エグゼビア役は『つぐない』(08年4月号)のジェームズ・マカヴォイ。対するマグニートーことエリック・レーンシャー役には,マイケル・ファスベンダーが抜擢された。これが初の大役だが,J・マカヴォイよりも存在感があり,本作でブレイク確実だ。若きミュータントたちには,ミスティーク(写真1),エマ・フロスト,ビースト(写真2)といったお馴染のキャラが登場するが,いずれも新キャスティングである。

   
 
写真1 少女時代のミスティーク
 
   
 
写真2 こちらは,パワーに目覚めたビースト
 
   
 

 まず冒頭は1944年のポーランドの収容所のシーン。他作品でも何度も見かけたシーンであり,ここでエリックの念力パワーが炸裂する。既視感溢れるオープニングで,つかみとして上手い。エリックとチャールズの超能力の芽生えを描いた少年時代はわずかで,物語の中心は1950年代から1960年代前半で,彼らがミュータント仲間を集め,人類との共存か敵対かの選択に至るまでを克明に描く。エリックと行動を共にするミスティークがなぜ常時青い肌のままの姿でいるようになったか,チャールズが下半身不随になった経緯や学園を創設するに至った心境までが描かれ,しっかりシリーズとしての一貫性も保たれてる。プロフェッサーXがやがて禿げることまで暗示するサービスには,笑ってしまった。
 CG/VFXは,各ミュータントの超人パワー紹介程度からスタートし,前半はまだ入門編だ(写真3)。徐々にCGの比率がエスカレートするのは,能力のアップも示唆している。皮膚を瞬時に高硬質ダイヤに変身させるエマ・フロストや,ミスティークが何度も人間の姿との間を往復する描写も嬉しい(写真4)。1950年代のオックスフォード大学周辺,ソ連モスクワの赤の広場の描写も秀逸であるし,アラル海号や他の船の描写もCGの産物だろう。VFXは全1,150ショットで,Digital Domain, Rhythm & Hues, MPC, Cinesite, Weta Digital,Luma Pictures等の有力スタジオが参加している。

   
 
写真3 前半は各々の超人パワーの紹介で,VFXも入門編
 
   
 
 
 
写真4 超硬ダイヤの肌に変身したエマ・フロスト
X-Men Character Likenesses TM & (C) 2011 Marvel Characters, Inc. All rights reserved. TM and (C) 2011 Twentieth Century Fox Film Corporation. All rights reserved.
 
   
 

 その実力を遺憾なく発揮したVFXシーンが終盤に待っていた。1962年のキューバ危機の海戦シーンである。エリックが潜水艦を海中から引き上げ,浜辺に移動させるシーンが圧巻だ。ソ連軍のミサイルを反転させるシーンもすごい。CG描写の精緻さよりも,ビジュアル化のアイディアやカメラワークが評価できる。スチル写真が全く提供されないのが残念だが,予告編の最後の部分で見られるのが救いだ。よくぞここまでの映像化をと感心したが,特筆すべきは,そのプレビズにはThe Third Floorを初め,6社も参加していることだ。

   
  神話世界とスーパーヒーローの見事なフュージョン
 
 

 一方の『マイティ・ソー』は,同じマーヴェル・エンターテインメントの提供作品だが,こちらは直接マーヴェル・スタジオが製作し,マーヴェル初の3D作品との触れ込みだ(ただし,2D→3D変換による擬似3Dに過ぎない)。前述の『X-MEN』や,『スパイダーマン』『アイアンマン』に比べると日本での知名度は低いが,コミックへの初出は1962年で,複数のコミックに登場するスーパーヒーローらしい。満を持しての映画化で,今後人気シリーズに育てようという意欲が感じられた。お軽いポップコーン・ムービーではなく,主人公の内面的成長や心の葛藤を描いてドラマ性を高め,大作としての風格をもたせる最近の路線に添った企画である。
 原題は単なる『Thor』で,「ソー」と発音するが,北欧神話での同名の神「トール」に由来している。出身は,宇宙のかなたの星ではなく,神々の国アスガルドの王オーディンの息子として生まれ,最強の戦士として育っていたが,次第に傲慢で粗野な行動が目立ち始め,父である王から地球へと追放される。地球上では,天文学者ジェーン・フォスターと知り合い,次第に心を奪われ,人々のために持ち前の強大な格闘能力を発揮するという設定である。武器は魔法のハンマー「ムジョルニア」で,これを手にした時,ソーのパワーが出現する。
 監督は,『ヘンリー五世』(89)のケネス・ブラナー。シェークスピア俳優であり,監督としても芸術性の高い作品を生み出してきた彼が本作のメガホンをとるのは意外だった。重厚な作品にしたいという製作陣の思いが感じられる。主演のソー役に抜擢されたのは,クリス・ヘムズワース。まだ27歳とは思えぬ大人びた風貌だ。最初,この武骨なルックスはアメコミのヒーローらしくないと感じたが,上半身裸になった途端,その堂々たる肉体に痺れた(写真5)。重そうなハンマーを手にした赤いマントの甲冑姿はさらに恰好よく,なるほどこれはヒーローだ(写真6)

   
 
写真5 惚れ惚れするような立派なマッチョ振り
 
   
 
写真6 ムジョルニアを手にしたこの姿が英雄マイティ・ソー
 
   
 

 相手役のジェーンには,またまた登場のナタリー・ポートマン。まだ『ブラック・スワン』(11年5月号〕の印象が強過ぎて,この役のイメージが掴めなかったが,後半は『スター・ウォーズ』シリーズのアミダラ姫を思い出させるヒロインぶりだった。敵役は,王位を争う弟のロキで,英国演劇界の若手トム・ヒドルストンを配している。ブラナー監督との相性も抜群のようで,本作を格調高いものにしている。主人公ソーを護衛する三銃士の1人ホーガンとして浅野忠信が登場するというので期待したのだが,さほど登場場面が多くなく,少し残念だった。続編での活躍を期待しよう。
 冒頭から,オーロラ,竜巻,山々の壮大な描写に,VFX満載の映像が登場する。多数の兵士,壮大な城(写真7)と,明らかに『ロード・オブ・ザ・リング』を意識した壮大な映像表現で,アスガルドは思いっきりファンタジーの世界であることを印象づける。敵対する氷の王国ヨナンハイムの描写(写真8)も秀逸で,こちらは『ライラの冒険 黄金の羅針盤』(08年3月号)を思い出した。 この氷の国に登場するクリーチャーや敵の攻撃にもCG表現は頻出する。氷の描写も宇宙の星々も綺麗で,美術担当者のレベルの高さを感じた。

   
 
 
 
写真7 前半の見どころは,神々の国アスガルドの威容
 
   
 
写真8 こちらは敵対する氷の王国ヨナンハイムの光景
 
   
 

 話の前提となるアスガルドとヨナンハイムでの前半が長くかつ重い。神々の王オーディン役にアンソニー・ホプキンスを配したことから,ギリシャ史劇を思わせるような風格を醸し出している。あるいは,彼の起用は,1978年版の『スーパーマン』におけるマーロン・ブランドを意識してのものだろうか。このキャスティングは,本シリーズの幕開けにとって,大成功と言える。
 ソーが地球上にやって来た中盤以降,物語のテンポは上がり,俄然面白くなる(写真9)。ロキが送り込んだ数々の宿敵のうち,大型ロボット・デストロイヤーの破壊力(写真10)が凄いだけに,これを倒して誕生するマイティ・ソーは実にカッコいい。これぞ,スーパーヒーローの誕生場面だ。終盤の神々の国での戦い,地球と結ぶ虹の橋の描写もユニークかつ素晴らしい。1,300以上に及ぶVFXの主担当は,本作もDigital Domainで,他にBUF, Fuel VFX,Luma Pictures,Legacy Effects, Whiskytree, Evil Eye Pictures等の名前が並ぶ。およそVFX多用作とは縁がなかった監督が,いかに彼らとコミュニケーションしたのかが興味深い。 
 神話の世界とスーパーヒーローもののバランスの良さを感じた。5作目を数える『X-MEN…』のような制約なしに作れたためだろう。続編が楽しみだ。

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写真9 遠方から迫り来る異変。この後の描写が圧巻。
 
   
 
 
 
写真10 デストロイヤーの破壊光線は流体力学計算の産物
TM & (C) 2010 Marvel (C) 2010 MVLFFLLC. All Rights Reserved.
 
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分の一部を削除・追加しています)  
   
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