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O plus E誌 1999年9月号掲載
 
 
『マトリックス』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
(c) 1999 Warner Bros, AllRights Reserved www.whatisthematrix.com/japan password: neo2199
       
      (1999/7/30 ワーナー試写室)  
         
     
   『スター・ウォーズ エピソード1/ファントムメナス』を物足りなく感じたSFXファンにとって,待ってましたと言いたくなるような映画だ。米国公開はイースター・シーズンと言うから,こちらが先だったのだが,日本では順序が逆転して9月公開の予定である。
 脚本・監督・製作のウォシャウスキー兄弟とやらは馴染みは薄いが,主演のキアヌ・リーブスは『スピード』の痛快アクションで覚えている人も多いだろう。『スターウォーズ…』ブームの陰に隠れていたが,ここに来て前人気も急上昇だ。大口孝之氏の「本年度のベスト」という声を聞いて,早速業務用試写会に出かけたのだが,事前登録してあったはずが,満員で入れなかった。取材陣が予想外に多かったためで,ワーナー映画も慌てていた。
 『ブレードランナー』や『ターミネーター』ファン必見で,仮想と現実の倒錯したサイバーパンクの世界を描いてあるという。サイバースペースを原典に立ち戻って論じてきた筆者としては,これは是非とも公開前にO plus E誌上でご紹介するしかない。編集部に締切を延ばしてもらって,もう一度試写 会に出向いた。
 聖書とギリシャ神話とサイバーパンク小説をもとに,哲学思想とポップカルチャーを総動員,ルイス・キャロルとウィリアム・ギブスンの融合というふれ込みだったが,それほど難解ではない。キャスティングも絶妙で,人物もよく描けている。相手役トリニティのキャリー=アン・モスも,案内人モーフィアスのローレンス・フィッシュバーンも実にいい。モーフィアスと主人公ネオのトレーニングシーンでは,むしろオビ=ワン・ケノービとルーク・スカイウォーカーの師弟関係を感じてしまう。ここでも,『スター・ウォーズ エピソード1』のお株を奪ってしまっている。
 前半は少しだるく感じるが,後半のテンポとノリが抜群だ。4ヶ月の特訓を受けたというキアヌ・リーブスのカンフーが様になっている。大口氏が「屈指の出来」と評したヘリコプターの爆破シーンは,なるほど見せてくれる。これぞ特撮だ。「絵作りが気持ち良かった」という杉山知之氏の感想も的を得ていると感じられた。
 圧巻は,何といっても付写真3に示す空中浮遊して格闘するシーンだ。もちろんワイヤーによる宙吊りでの撮影だが,ネオとエージェント・スミスの周りをカメラがスパイラル状にぐるっと回転する。これは,一体どうやって撮ったんだと不思議がるのが普通である。
 映画『コンタクト』やジーンズのTVコマーシャルにも,似たテクニックは使われたらしいが,これほど長く印象的なカットは無論始めてである。種明かしは,ムービー・カメラを移動させたのではなく,スチル・カメラを多数台用意し,プログラムに従ってシャッターを切ったという。
 120台のキヤノンEOS2を螺旋状に配置させ,各々のレンズ部分だけ残して周りをクロマキー用の緑色の壁で隠した。この空間中での演技が,コンピュータ・シミュレーションに従って1/500〜1/1000秒のシャッタースピードで撮影された(写真(a))。このマシンガン撮影による多数の静止画から,レンズ部分をディジタル処理で消して必要なコマを選ぶことにより仮想カメラワーク(フローモーションと呼ばれている)を生み出しているのである。
 
 
(a)レンズ部だけが覗いている120台のスチルカメラを前にワイヤーで宙吊り演技   (b)フローモーション処理で制作した空中格闘シーン
(c) 1999 Warner Bros, AllRights Reserved www.whatisthematrix.com/japan password: neo2199
 
 では,クロマキー合成される背景はというと,これもカメラのスパイラル回転に絶え得るクオリティでなければならない。ここに多数枚の実写 画像を用いるImage-Based Rendering手法が用いられている(写真(b))。こういう使われ方は,IBR研究を進める我々にとって,喜ばしい限りだ。
 この他に,ネオがビルの屋上から屋上へとジャンプするシーンでは,眼下に迫る地上シーンに実写 ベースのIBR手法(View Morphing)が使われていたようだ。一昨年のSIGGRAPH参加者なら,UCバークレーが作ったFACADE(エレクトロニック・シアターで上映)の強烈な印象を覚えていることだろう。いかにも映画向きのIBR手法だと思ったが,もう実際に使っているのは,さすがにハリウッドだ。
 この種のVFXをもっともっと見たいと思ったが,腹八分目のこれくらいで良いのかも知れない。少なくとも物量 作戦の『スター・ウォーズ エピソード1』よりも印象はずっと鮮烈である。ディジタル処理は多ければいいってものではない。
 スカッとした思いで見終わったら,出口の扉のところで映画評論家の水野晴郎氏を見かけた。「いやぁ〜『マトリックス』って本当に面 白いですねぇ」とは言ってなかったが,顔にはそう書いてあった。
  ()Dr.SPIDER(田村秀行)&Yuko(若月裕子)
[(株)MRシステム研究所]
 
   
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