head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
 
title
 
O plus E誌 2008年8月号掲載
 
 
purasu
インクレディブル・ハルク
(コロンビア映画
/SPE配給)
 
      (C) 2008 MVLFFLLC. TM & (C) 2008 Marvel Entertainment.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [8月1日よりスバル座ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2008年6月30日 SPE試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  再映画化で超人の描写は向上,パンツの謎も判明!?  
 

 2番目はマーべル・コミックが原作のアメコミ・ヒーローの活躍譚で,CGでも新境地を開拓している。というと,話題の『アイアンマン』かと思う読者も少なくないだろうが,残念ながら,これがそうではない。この夏ソニー・ピクチャーズ配給のスーパーヒーローものは3本もあり,アメリカでは『アイアンマン』『インクレディブル・ハルク』『ハンコック』の順だったのに,日本公開はなぜかこれが『インクレディブル・ハルク』『ハンコック』『アイアンマン』の順となる。配給元の営業方針なら止むを得ない。とてつもなく面白い『アイアンマン』を,筆者も早く書きたくてウズウズしているのだが,これは10月号までお預けだ。
 さて同じマーべル・コミック原作の『インクレディブル・ハルク』だが,決して『アイアンマン』の添え物ではなく,こちらはこちらでしっかりとしたエンターテインメント大作である。『超人ハルク』と題したTVアニメで本邦でも多くのファンを得ていたし,むしろヒーローの知名度ではこっちの方がずっと上だ。既にアン・リー監督で実写映画版『ハルク』(03年8月号)が作られているが,それと区別するためか,本作はコミックと同じ原題『Incredible Hulk』が使われ,そのままカタカナ表記にしたものを邦題にしている。
 アン・リー版は,エリック・バナとジェニファー・コネリーが主演で,変身したハルクはILMがCGで描いていた。さほど世評は高くなかったが,超人に変身することへの心の葛藤を繊細に描いた作品として,筆者は高い評価を与えている。それをあえて再映画化するからには,物語もハルクの描写も向上していて欲しいものだ。
 本作の監督は,フランス出身のルイ・レテリエ。ジャン=ピエール・ジュネやリュック・ベッソンに可愛がられ,『トランスポーター』(02)や『トランスポーター2』(05)でヒットを飛ばした俊英である。大量のガンマ線を浴びてハルクに変身する科学者ブルース・バナーは,筆者のお気に入りの演技派エドワード・ノートンが演じる。同僚の科学者で恋人だったベティ・ロスには『アルマゲドン』(98)のリヴ・タイラー,その父親のロス将軍にはベテランのウィリアム・ハートという布陣だ。
 怒りを感じると緑色に変身し(写真1),巨大化して超人パワーを発揮するという大前提は同じだが,そこに至る過程がアン・リー版とは少し違う。前作では父親が施した人体実験で,幼児期からその因子をもっていたブルース・バナーが,照射されたガンマ線が契機となって怪物化するが,本作ではロス将軍率いる軍の「スーパー兵士計画」の犠牲となって怪物化する。軍の追跡網をくぐっての逃避行や超人化を制御しようとする科学的分析の下りは,なかなか見応えがある。原作がアメコミである制約を除けば,十分,単独のサスペンス・アクションとして通用する出来映えだ。E・ノートンの演技は一級だし,ロス将軍の頑固者振りも板についている。強いて難を言えば,リヴ・タイラーでは知的な科学者には見えない。その点では前作のJ・コネリーの方が適役だった。
 思えば,アメコミ・ヒーロー譚をシリアスなドラマとして描こうとする傾向は,前作のアン・リー版がその走りだった。ただの痛快丸かじりの物語ではなく,よりシリアスに,かつリアルに描こうとするのが,最近のスーパーヒーローものの流行と言える。本作では,血清の遺伝子工学的な分析,科学者の実験室の描写などにもリアリティを持たせているのが印象的だった(写真2)

 
     
 
写真1 緑の目はハルクへの変身の予兆   写真2 リアリズム追求は,こうした実験室風景にも
 
     
   さて,CG/VFXの話題である。主担当はRhythms & Hues社で,Hydraulx,Soho VFX,Image Engineなども参加している。ILMが多層の筋肉モデルを採用したハルクのCG描写は当時としては出色だったが,まだアニメ風のコミカルな動きを残していた。5年を経た本作では,動きも皮膚の表現も一段とリアリティを増している。動きは今やMoCapデータをベースとしているのは勿論だが,怒りの度合いに応じた皮膚の着色具合,筋肉の微妙な動きの表現にも凝っていて,2.6mのハルク(写真3)や3.3mの敵役アボミネーション(写真4)の描写は迫力があった。ブルースがハルクに変身する過程での,肌から血管が浮き出る表現も素晴らしい(写真5)
 最後に面白い着眼点を1つ上げておこう。TVアニメで育った若い世代から聞いた話がある。肥大化してハルクになるのはいいとして,服は破れてもなぜパンツが破れないのか不思議だったと言う。洋の東西を問わず,この疑問は共通だったのだろう。その謎は本作中で解き明かされる。観てのお楽しみだ。
 
  ()  
     
 
写真3 一段とリアルさが増したハルクは2.2m   写真4 対するアボミネーションは身長3.3m
 
 
 
 
 
 

写真5 徐々に皮膚から浮き上がって来る血管はCGで描いた

 
 

(C) 2008 MVLFFLLC. TM & (C) 2008 Marvel Entertainment. All Rights Reserved.

 
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
   
<>br