head
title home 略歴 表彰 学協会等委員会歴 主要編著書 論文・解説 コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
title
 
O plus E誌 2007年1月号掲載
 
 
007/カジノ・ロワイヤル』
(MGM映画&コロンビア映画
/SPE配給)
       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月1日よりサロンパスルーブル丸の内ほか全国松竹・東急系にて公開中]   2006年11月20日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  新ボンド登場で原点復帰,とにかく素直に面白い!  
 

 シリーズ21作目,いよいよ6代目ジェームズ・ボンドの登場だ。しかも,イアン・フレミング原作小説の1作目である『カジノ・ロワイヤル』でのリニューアルである。『エクソシスト ビギニング』(04)や 『バットマン ビギンズ』(05年7月号) のヒットにならって,誕生秘話,原点回帰で新シリーズに弾みをつけようというねらいのようだ。「ジェームズ・ボンドが007になるまでの物語」が売り文句だが,これは正しくない。彼は冒頭15分くらいで殺しのライセンス「00(ダブルオー)」を得てしまうから,残りは「ボンドが007になっての初仕事」と言った方が正確だ。
 最近のファンは知らないだろうが,約40年前に全く同名の『007/カジノ・ロワイヤル』(67)が製作されている。本家MGMのシリーズが唯一映画化権をもっていなかったために,ピーター・セラーズが007を演じるギャグだらけのパロディ作品がコロンビア映画で作られてしまった。皮肉にも,MGMが買収されて,そのコロンビア映画(ソニーピクチャーズ)の傘下に入ったため,かつての汚点をはらすべく,原作に忠実な力作としての再登場となった。こういうリメイクなら大いに歓迎だ。
 5代目ボンドのピアース・ブロスナンが好評だっただけに,6代目ボンドの人選は難航し,ヒュー・ジャックマン,コリン・ファレル,オーランド・ブルーム,ジュード・ロウらの名前も上がっていた。ルックスでは,有力候補のクライヴ・オーウェン(『キング・アーサー』『トゥモロー・ワールド』等)が似合っていると思ったのだが,選ばれたダニエル・クレイグは金髪・碧眼でおよそボンドらしくなかった。どうしてどうして,実際には,タフでクールで躍動感溢れる若い007を見せてくれ,大満足だった。隣の初老のおじさんが「スティーブ・マックイーンにジェームズ・ボンドをやらせたみたいやなぁ」とつぶやいていた。なるほど,ショートヘアもルックスも似ているし,何よりもスピードあるアクションがそう思わせる。エヴァ・グリーンが演じるボンドガールと向かい合った時のクールでセクシーな表情は,『華麗なる賭け』(68)でフェイ・ダナウェイと対峙したマックイーンを彷彿とさせる。意図的に挿入したオマージュではないかとさえ思えてくるくらいだ。
 新シリーズでも,上司のMにジュディ・デンチを残してくれたのが嬉しい。Qやマネペニー嬢はまだ登場しない。監督は,前シリーズの初回作(第16作目)『007/ゴールデンアイ』(95)のメガホンをとったマーティン・キャンベルの再登板だ。かつてのリニューアルを手がけただけに,007シリーズのエッセンスを良く理解し,かつ旧シリーズからの脱皮にも成功している。脚色に,前2作を担当したニール・バーヴィス&ロバート・ウェイドに加えて,いま最も油が乗っている脚本家ポール・ハギスが参加していることも大きな成功要因だろう。
 原作に忠実であるが,時代は1950代や60年代の冷戦時代ではなく,現代に設定されている。ボンド・カーのアストンマーチンも新型のDBSやDB5だし,携帯電話が縦横無尽の役割を果たしている。非現実で奇妙な小道具(武器)はなく,毒を盛られたボンドを蘇生させるのにAED(自動体外式除細動器)が使われていた。最近ビルや学校でよく見かける,心停止の救命装置だ。
 大きな見どころは,死の商人ル・シッフル(マッツ・ミケルセン)と渡り合う,国家予算1500万ドルを賭けたカジノでのポーカー・ゲームのシーンだ。その緊迫した場面を盛り上げるべく,アクション・シーンもしっかり3つの見せ場がある。『M:i:III』(06年7月号)の新しいアクション感覚とスケールは,「007シリーズ」を超えたかと思ったが,見事に再逆転し,お釣りがくるくらいの出来映えだ。
 各誌で「VFXを使用しない生身のアクション」と報じられているが,そんなことはない。本物のアクションも相当激しいし,クリス・コーボルトが担当する現場でのSFXも多用されているが,それをアシストする形でCG/VFXもその役割を十分果たしている。VFX担当は,Peerless Camera Company,Framestore CFC,Moving Picture Co.等のロンドンSOHO地区のスタジオで,英国が誇るこの名物シリーズゆえに力が入っている。
 まずは,マダガスカルの建築現場で爆弾男を追ってのアクション・シーンだ(写真1)。近い距離での構図は生身の対決でも,目も眩むような高層部の鉄骨やクレーンの上の追跡シーンはデジタル処理抜きではとても実現できまい。実際,スクリーンを観ているだけでも,身がすくみ,足が震える観客も少なくないに違いない。
 2番目はマイアミ空港での迫力あるチェイス・シーンだ(写真2)。大半は本物のアクションだが,衝突や爆発を補強するのはインビジブルVFXの役目である。大きな新型旅客機が実在する訳はないから,これはCGか模型の出番(あるいはその併用)に違いない。
 最後は,ヴェニスで家が壊れて水没して行くシーンだ。本当の町並みの中の1軒が沈んで行くとしか見えないが,写真3に示すように,実物大や大きな模型の家を建ててブルーバックで撮影し,デジタル合成して描いたシーンである。いずれも上質で,どこがVFXの産物かはまず分からない。どの場面も,PreVizでしっかり事前に可視化してデザインされたことは間違いない。
 とにかく,理屈抜きに面白い。シリーズ最高傑作の1つだろう。それでも強いて欠点を上げれば,中盤以降が少し長過ぎる。あと10分ほど短ければ,もっと引き締まっただろう。

 
  ()  
   
 

写真1 建設現場の鉄骨上の追跡・対決シーンとその撮影風景

 
 
 
写真2 空港でのチェイス・シーンは大迫力   写真3 水没する家は,精巧な模型を作ってデジタル合成
 
   
(このWebページは,本文も画像も雑誌掲載を拡張しています)
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
<>br