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O plus E誌 2014年7月号掲載
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   『300 <スリーハンドレッド>~帝国の進撃~』:残念だ。2つの意味で,大変残念だ。前作は,フランク・ミラーのグラフィックノベルを,ザック・スナイダー監督がCG/VFXをフル回転して実写映画化した大意欲作品で,たった300人で100万人のペルシア帝国軍と戦ったスパルタ戦士達の物語だった。首や腕が飛び,大量の死体が積み上げられるのだが,モノトーンに近い新感覚映像は全く残虐さを感じさせず,爽快感すら覚える傑作だった。本作は,その遺志を継いだギリシア連合軍がペルシア帝国に立ち向かう続編であるが,CG大作ラッシュの今月号の中で,メイン欄にアサインできず,こうして短評でしか語れないのが残念だ。前作のDNAを引継いだ上で,予想通り3D化された続編だが,ボリュームアップはしているものの,もはや新鮮さは薄れている。暗い画面,延々と続くバトルの映像,敵と味方との区別もつき難く,むしろ凡庸に感じてしまう。活劇として結構面白いのだが,前作を凌ぐ何かが感じられなかったのが,2番目の残念だ。
 『渇き。』:先に試写を観た面々から「今年一番の衝撃の映画だ」と聞いていた。なるほど衝撃的ではあるが,心地よい驚きではなく,不愉快になるほどの劇薬だ。「このミステリーがすごい!」大賞受賞作「果てしなき渇き」の映画化作品で,サスペンスミステリーという位置づけだが,全編狂気と暴力のオンパレードで,「クソ○○」「ぶっ殺してやる!」という汚いセリフが何十回も登場する。本作を激賞する評論家もいると予想するが,筆者はこの映画の価値を認めない。監督は『告白』(10)の中島哲也。監督としては,一度はこの種の映画を撮ってみたかったのだろう。主演の役所広司はじめ,豪華出演陣も皆熱演だが,彼らもこんな役柄を演じたかったのだろうか。 音楽は知っている曲が多かったが,選曲の趣味もいいとは言えない。そもそも,大した意味もなく表題に「。」を入れる軽さが嫌だ。観客無視の,単なる賞狙いの映画としか思えないのが残念だ。
 『ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂』:1953年登山家エドモンド・ヒラリーとシェルパのテンジン・ノルゲイによるエベレスト初登頂を再現したドキュメンタリー作品である。登攀時の16ミリフィルムによる記録映像と,新たにエベレストとニュージーランドの山岳部で撮影した3D映像をミックスして構成しているが,色調合わせや編集が見事で,構成上の違和感を全く感じない。必要に応じて,2人の俳優に演じさせた映像を挿入しているが,この2人が実在のヒラリーとノルゲイにそっくりであるのに驚く。彼らがセリフを語ることはなく,本人を含む英国登山隊の当時のインタビュー音声や,両名の息子たちの現代の証言音声が印象的だ。勿論,結果は分かっているのだが,自然の猛威と戦いながら偉業を達成した瞬間に,素直に感動する。これが実話の重みだ。最近は商業公募隊が組まれ,毎年何百人が登頂すると聞いても,やはり最初に成功することは偉大だと,改めて感じてしまう。
 『her 世界でひとつの彼女』:今月はSF映画のラッシュだが,本作も異色のSFラブストーリーである。主人公(ホアキン・フェニックス)が,携帯端末にインストールした最新の人工知能型OSシステムに恋してしまう物語で,本年度アカデミー賞では,5部門にノミネートされ,脚本賞を受賞した作品だ。前述の『トランセンデンス』より徹底していて,この人工知能は姿すら見せず,声だけの登場だ。エイミー・アダムス,ルーニー・マーラ,オリヴィア・ワイルドといった実在の美女をさておいて,声だけで主人公を魅了するのだから,ある意味では凄い。敢えて名を伏せておくが,洋画ファンならすぐに誰だか分かるセクシーな声だ。監督・脚本・製作は,鬼才スパイク・ジョーンズ。映画の終了直後に,ある女性ライターが「やっぱり,彼は根っからの文系男子やわぁ」と感激していたが,理系男子の筆者は全く感動できなかった。これほどの自然言語対話が可能なエージェントに,可視化されたGUIが備わっていないことに不自然さを感じてしまう。理系の業だろうか。
 『オールド・ボーイ』:原作は日本製の同名コミック(作:土屋ガロン,画:嶺岸信明)だが,このハリウッド映画化作品の前に,カンヌ国際映画祭でグランプリを獲得した韓国版(04年11月号)があった。理由不明のまま長期間監禁され,妻殺しの罪を着せられた男の壮絶な復讐劇がテーマである。監禁期間は,原作では10年,韓国版では15年だったが,本作では20年とエスカレートしているし,結末も毎回変わっている。ただし,主演のジョシュ・ブローリンの風貌は原作の主人公に似ているし,結末も原作に近い。終盤で明かされる衝撃の事実もアクションも水準以上の出来映えで,本作だけを観れば,十分入場料分は楽しめる映画に仕上がっている。ただし,韓国版の衝撃が強過ぎた。残念ながら,それを超える作品にはなっていない。
 『観相師-かんそうし‐』:時代は15世紀半ば,朝鮮王朝内の壮絶な覇権争いを描いた歴史ドラマで,韓国での昨年の大ヒット作品である。主演は『JSA』(00)『グエムル−漢江の怪物−』(06)の名優ソン・ガンホで,人相を観ただけで性格から寿命までを言い当てる「天才観相師」を演じている。物語の骨格は実在のクーデターらしいが,それに「観相」が大きな役割を占めていたというのは勿論フィクションだ。都の芸妓に誘われ,弟をマネージャーとして観相業を始め,宮中の要職に就くまでの前半の物語が,抜群に面白い。コメディ・タッチで,ちょっとワクワクする展開だ。後半は,権謀術数渦巻く生真面目な政治ドラマで,激動の歴史に翻弄され,己の無力さを知る主人公の姿が少し痛々しい。残虐で野心に満ちた首陽大君の謀反が成功し,王位を奪うのが史実とあらば止むを得ないが,朝鮮王国の歴史に興味のない外国人観客には,創作に徹し,もっと違った結末で楽しませてくれても良かったかと感じた。
 『呪怨 -終わりの始まり-』:かつて全世界を絶叫させたJホラーの代表作『呪怨』シリーズの最新作だ。その第1作目は,多少の怖さでは驚かない筆者でも最も怖いと感じたほどだ。ハリウッド・リメイク版『JUON/呪怨』(05年3月号)ですら,相当怖かった。本作は「再誕」と称しているように,続編ではなく,シリーズを再構築するリボーンのようだ。監督・脚本も清水崇でなく,落合正幸に替わっている。このシリーズを名乗る以上は,相当な覚悟が要るだろう。かつての熱烈ファンは,かなり目が肥えていて,前作並みの恐怖を求めてしまう。さりとて,従来路線から逸脱するのは危険性が伴う。その結果,既視感のある,あの家の「階段と2階」を再現し,佐伯伽椰子,佐伯俊雄を登場させるという無難な路線で再登場した。『学校の怪談』シリーズも担当した監督だけあって,伽椰子と俊雄の霊は小学校にも出没する。ホラーのツボを心得ていて,そろそろ来るなと思うところで,しかと怖がらせてくれる。悪くない。
 『ダイバージェント』:本作も100年後の世界を描いたSFアクションだが,短評に回さざるを得なかった。米国の人気作家ベロニカ・ロスのデビュー作「ダイバージェント 異端者」の実写映画化作品で,シカゴを舞台に荒廃した未来社会を描く。16歳の時,5つの共同体のいずれに属すか性格診断で分類されるが,いずれにも該当しない「異端者」には,ある特殊能力が備わっているという設定だ。政府から抹殺されようとする主人公の少女トリスを演じるのは,シァイリーン・ウッドリー。『トワイライト』『ハンガー・ゲーム』の両シリーズに味をしめたライオンズゲート社が,ヤングアダルト路線でヒットを狙ったことは明白だが,主演女優がさほど魅力的ではない。助演陣も今イチだ。両シリーズと同様,いやそれ以上に演技は稚拙,アクションも単調,美術セットにもチープ感が漂っている。VFXの見どころは,前半,ミラー効果で多数のトリスが登場するシーンだけだった。既に続編の製作が決定しているようだが,どこまで巻き返せるのだろうか?
 『ジゴロ・イン・ニューヨーク』: NYを舞台にした小粋なコメディで,ウディ・アレンとジョン・タトゥーロのコンビと聞けば,監督と主演だと思うのが普通だろう。本作は,J・タトゥーロが監督・脚本で,ジゴロ役での主演も務める。何と,W・アレンはその相棒のポン引き役での出演だけだ。とはいえ,本作のアイディアが気に入って共演を決め,散々口出ししたというから,存在感のある個性的な演技は,自分でつけたに違いない。前半の洒落っ気満開の快適なテンポは,まさにW・アレン節とも言えるし,コーエン兄弟調とも言える。中盤以降の大人のラブストーリーのヒロインは,ジョニー・デップ夫人として知られた(最近,別れた)ヴァネッサ・パラディ。かつては小悪魔的な魅力だったが,本作では清楚で美しい未亡人役が良く似合う(相変わらず,すきっ歯が気になるが…)。ジャズの名曲中心の挿入歌の選曲も素晴らしく,幸せな気分になってくる。
 『パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト』:現代では作曲家としてその名が知られているが,副題が示す通り,超絶技巧のヴァイオリン奏者でもあったイタリア人音楽家の破天荒な人生を描いている。素晴らしい音楽映画で,ヴァイオリンの音色をこれほど美しく感じたことはない。主演男優の指さばきが実に見事で,本当に弾いているとしか見えなかった。この野性的な風貌のイケメン男優の名は,デイヴィッド・ギャレット。何と,本物の技巧派ヴァイオリニストで,これが俳優デビュー作という。ロックとのクロスオーバーも試みる意欲的アーティストで,まさに「現代のパガニーニ」だ。彼と恋に落ちる若きシャーロット役のアンドレア・テックも,その美しいソプラノが地声だという。2人が恋仲となり,駆け落ちを試み,やがて引き裂かれるのは実話である。この男女の実年齢が,52歳と16歳であったことにも驚いた。何ともはや,劇的な人生だ。
 『好きっていいなよ。』:同名の少女コミックの映画化作品で,原作者(葉月かなえ)も監督(日向朝子)も女性である。当然想定観客層も若い女性たちであろうから,どう考えても筆者らの世代が観るべき映画ではない。ところが,あまりにベタな題名とピンクのポスター,人気絶頂のボーカル・グループOne Directionの楽曲が主題歌というので,少し興味をそそられた。青春時代を想い出してときめく何かか,最近の若者の心情を理解する手掛かりがあるかと思ったからである。そう期待したのだが,やっぱり駄目だった。高校生生活でのいじめや友人関係,恋愛ごっこだけを描いたお手軽映画で,登場場面もほぼ校内とバイト先だけだった。いくら等身大の物語とはいえ,大人社会との軋轢も人生にとっての重大事を語ることもない。こうした高校生が大学生になっても,関心事は就活だけになるのだろう。経済低成長,少子高齢化の日本の未来は明るくない。
 
   
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