head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD/BD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
 
title
 
O plus E誌 2012年9月号掲載
 
 
アベンジャーズ』
(ウォルト・ディズニー映画)
      TM & (C) 2012 Marvel & Subs.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月14日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開中]   2012年7月24日 ディズニー試写室(東京)
       
   
 
プロメテウス』

(20世紀フォックス映画)

      (C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [8月24日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー公開中]   2012年7月23日 東映試写室(大阪)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  3.5次3Dブームを代表するVFX大作の揃い踏み  
  先月号で紹介できなかった夏のSF大作2本をまとめて紹介する。一方はスーパーヒーロー勢揃いの超娯楽大作,他方は思索的なディープSFとジャンルは少し違うのだが,至るところでライバル視され,広報宣伝合戦も白熱化している。ただし,共に3D上映の威力も活かしたCG/VFX大作であることは間違いない。
 公開は,北米でも日本でも『アベンジャーズ』『プロメテウス』の順である。伝統あるVFX専門誌Cinefexも甲乙付けられなかったのか,何と130号(2012年7月号)の表紙は,2種類用意されている(予約購読の筆者には,プロメテウス版が届いた)。Webページでは,表紙画像が時間とともに切り替わる。それほどのライバルであり,2作とも3D映画3.5次ブーム(後述)の代表作としてVFX史に残る作品だと思われる。
 当欄で,2本を括った上で『アベンジャーズ』を前にした理由は,カラーページを観れば分かるだろう。同数の8枚を掲載したが,後から来た『トータル・リコール』の画像を押し込むのに,横長の『プロメテウス』のページの方が好都合だったからに過ぎない。
 
 
  ヒーローの個性と出番に配慮した脚本に拍手!  
  アイアンマン,超人ハルク,マイティ・ソー,キャプテン・アメリカ等,マーヴェル・コミックのスーパーヒーロー達の勢揃いである。昨年公開の『マイティ・ソー』(11年7月号)『キャプテン・アメリカ/ザ・ファースト・アベンジャー』(同10月号)の中で,本作の製作・公開が予告されていたし,その2本は本作に向けての予選リーグのような存在だったとも言える。未見の読者は,その2本と『アイアンマン1 & 2』をDVDで観てから,映画館に足を運ぶことをお勧めする。その方が面白さも倍増する。
 上記3名は従来と同じ俳優が演じているが,ハルクだけは新キャストのマーク・ラファロを配している。加えて,1枚看板ではないが,『アイアンマン2』で顔を見せたブラック・ウィドウ(スカーレット・ヨハンソン)が再登場し,弓の名手ホーク・アイ役で今売れっ子のジェレミー・レナーが加わる。敵役は,ソーの義弟のロキで,引続きトム・ヒドルストンが悪役振りを発揮する。豪華キャストで,出演料が心配になるくらいだ。
 この種のオールスター顔見せ映画は大味で,ストーリーも散漫と相場が決まっているが,米国公開以降,批評家からも観客からも,もの凄い高評価を得ている。それに比例して,興行的にもメガヒットを記録中である。なるほど,映画の前半を観ただけで,よく出来た脚本で,各ヒーローの個性を引き出していると感じる。最後まで観て,改めて出番の配分や,盛り上げ方から結末のつけ方まで上手いものだと感心した。
 以下,VFXを中心とした見どころである。
 ■ VFXの主担当はILM,副担当にWeta Digital,前作でソーを担当したDigital Domainの他,Scanline VFX, Legacy Effects, Luma Pictures, Hydraulx, Fuel VFX等が参加している。エンドロールでCG/VFXクリエータ達の名前が延々と続くだけあって,質・量ともに,このお祭り映画に相応しい出来映えだ。勿論,3Dで観るだけの価値も十分ある。
 ■ まずは,洋上から大型空母が空中に浮揚し,これが地球を守るため緊急招集された彼らの基地となる(写真1)。連続して試写を観ると,プロメテウス号と混同してしまうが,こちらの方がずっと大きい。それでいて,これまでの物語のファンを意識しての細やかな配慮もある。アイアンマンことトニー・スターク社長の工房での描写(写真2)は毎度楽しみであり,筆者のお気に入りの秘書ミス・ポッツの出番があるのも嬉しい。
 
 
 
 
 
写真1 海面から浮上する大型空母が,彼らの基地
 
 
 
 
 
写真2 本作でも,ビジュアルインタフェースは斬新
 
 
  ■ やや地味な存在は,キャプテン・アメリカ(写真3)。だろうか。武器も能力も少し劣るゆえか,壊れた母艦の修理を手伝うなど,健気でいじらしい。目立ちたがりはアイアンマンだが,その分,やや出番も多く,最後まで敵と戦って責任を果たしている(写真4)。そして,ハルクが目茶苦茶強かったのには仰天した。
 
 
 
 
 
写真3 地味なキャプテン・アメリカも精一杯の活躍
 
 
 
 
 
写真4 最後まで奮戦する目立ちたがりのアイアンマン
 
 
  ■ VFXの目玉の1つは,NYの街の描写だ。ビル1つずつをモデリングし,交通標識や看板のテクスチャ画像を用意してあり,昼夜を問わず,どのアングルからでも描ける。昼間シーンは,敵の襲撃シーンで何度も登場する。夜景の描写には,ビルの各部屋に異なった照明を与え,それを飛行するアイアンマンに映り込ませている(写真5)。でも,待てよ。ここまで書いてから気がついたが,『アメイジング・スパイダーマン』(12年7月号)でも同じようにNY市街地の夜景を作っていたではないか。製作・配給が違い,VFX担当も異なるとはいえ,同じマーヴェル作品なのに,何たる無駄かと思う。
 
 
 
 
 
写真5 夜のNYにそびえるスターク・タワー(左)。アイアンマン(右)に映り込む各部屋の灯りまで,すべてCG製。
 
 
  ■ VFXのもう1つ目玉は,ハルクの肌の表現だ(写真6)。筋肉質の男性(レスラー?)の身体にグリーンのペンキを塗り,その筋肉の動きを克明に記録し,参考にしたという。その上,ILMが専用のシェーダーを開発して臨んだだけあって,一見して今までより優れた皮膚表現だと感じた。終盤登場する金属製の怪物(写真7)は,魚のようにクネクネと移動する。その質感表現もILMの得意技だ。『トランスフォーマー』シリーズで慣れた目にも,この動きや反射表現は好い出来だと感じた。
 
 
 
 
 
写真6 ハルクの皮膚の質感表現には,最新技術を投入
 
 
 
 
 
写真7 終盤登場のこの金属製怪獣の動きに注目
TM & (C) 2012 Marvel & Subs.
 
 
  『エイリアン』の監督ならではの深遠なSF大作  
  一方のオリジナル脚本による『プロメテウス』は,人類の起源を探りに宇宙の彼方まで行くという,久々にディープなスペースSFである。ずばり『2001年宇宙の旅』(68)の壮大さと『エイリアン』シリーズのホラー性を併せもった大作と考えてよい。
 監督は,『エイリアン』第1作(79)の監督であり,『ブレードランナー』(82)も手がけたリドリー・スコット。『グラディエーター』(00年7月号)『キングダム・オブ・ヘブン』(05年6月号)などの歴史スペクタルでもVFXを十分に駆使した同監督が,改めて宇宙船やエイリアン表現に最新CG技術をどう使うのかが見ものだ。
 主演の女性科学者エリザベス・ショウ博士役に,ノオミ・ラパス。名前に聞き覚えはあったが,映像を観ても『ミレニアム』シリーズの主演女優だとは分からなかった。あの鼻ピアスのリスベットの異様なメイクから,この素顔はとても想像できない。さして美人ではないが,相変わらずタフな演技だ。シリーズ化が予想される本作では,第2のリプリーを彷彿とさせる。アンドロイドの「デヴィッド」役に美男男優マイケル・ファスベンダー。本編中に『アラビアのロレンス』(62)の映像が流れ,デヴィッドがピーター・オトゥールの髪形を真似るくだりがあるが,なるほどよく似ている。監督のちょっとしたお遊びだ。女性監督官メレディス・ヴィッカーズ役のシャーリーズ・セロンは,『スノーホワイト』(12年7月号)に引続き,驚くほどの美しさだ。
 2089年にスコットランドで3万5千年前の古代洞窟壁画が発見され,そこには地球外に知的生命体が存在するサインが記されていた。そして2093年,巨大企業ウェイランド社が莫大な資金を投じた宇宙船プロメテウス号は,人類の起源の謎を解くため,未知の惑星へと旅立つ……,という物語設定である。このテーマの解釈,『エイリアン』シリーズとの関係,続編での展開を巡って,既に様々な論議があるが,以下,当欄はいつものようにVFX中心の解説に留める。
 ■ まず冒頭から,白い蝋人形のような大男の登場する(写真8)。無言で神秘的な描写は,多分に『2001年宇宙の旅』を意識してのものだろう。彼が微生物(?)に侵され,粉々に崩壊する様,DNAが欠け落ちるシーンは,CGならではの表現であり,3D上映も大いに意識した描写になっている。本作のVFX主担当は,MPCである。
 
 
 
 
 
写真8 冒頭から登場する不気味な「エンジニア」
 
 
  ■ 小物のデザインも3D向きで,ルービックキューブ状のプロジェクターが,洞窟壁画を投影する(写真9)。惑星上で遭遇する砂嵐も勿論CG表現だが,3D上映用にパーティクルを描き加えているという(写真10)。その一方で,プロメテウス船内は,21世紀末にしてはレトロなタッチだ。観客のデジャヴを意識して,意図的にそうしたのだろうか? 宇宙服も平凡だが,ヘルメットは少し斬新なデザインだ(写真11)。これだけで古くさいスペース・オペラとは一線を画していると感じる。
 
 
 
 
 
写真9 3万5千年前の古代壁画を,こうやって表示
 
 
 
 
 
写真10 惑星上で遭遇する大砂嵐もしっかり 3D 表現
 
 
 
 
 
写真11 宇宙服は今イチだが,ヘルメットが印象的
 
 
  ■ 赤い光を放って洞窟内を飛び回る球体は,通信機能をもったレンジファインダーだ(写真12)。技術的な背景のあるデザイナーを起用していることが伺える。近い将来,ラジコン操縦型なら作れるかと感じた。そうして観測した幾何形状データの表示には,立体ホログラムのオンパレードだ。圧巻は全周型の天球儀で,その美しさに息を呑む(写真13)。半球型デスクトップ・タイプ(写真14)も印象的で,いずれもFuel VFX社の産物である。その他の場面でも,透明表示が再三登場する(写真15)。最近どのSF映画でもこの種の(半)透明表示とタッチ操作が流行だが,実用的には,この種の空中透明表示は,実に使い難いのだが……。
 
 
 
 
 
写真12 赤色光を発する球形3Dレーザースキャナー
 
 
 
 
 
写真13 最大の見ものは,天球儀を表示する大ホログラフィックディスプレイ
 
 
 
 
 
写真14 こちらは,やや小型のホロテーブル
 
 
 
 
 
写真15 こちらは地球儀(左)。CGパワーによる透明表示全盛で,この2枚は写真2と見比べたくなる。
(C) 2012 TWENTIETH CENTURY FOX
 
 
  ■ もう1つ頗る印象的なのは,エイリアンを身籠もったショウ博士の帝王切開手術シーンだ。こちらは,ロボットアームによる切開,摘出,縫合の慌ただしさと凄まじさに息を呑む。この手術シーンのVFXや各種エイリアンはWeta Digitalが担当している。
 ■ クライマックスからエンディングに向けて,大きなスケールのVFXで描かれている。本作の場合は,このスケール感が大正解だと感じた。そして,続編への期待と余韻を残し,物語は驚きのラストを迎える。
 
  ()
 
 
 
 [付記]
 これだけ褒めておきながら,『アベンジャーズ』は第2ランクの☆☆+評価なのかと言われてしまうだろうが,これはあくまで『プロメテウス』と比べての相対評価である。観客動員数では『アベンジャーズ』の圧勝だろうが,SF映画史に残る作品として『プロメテウス』の方を高評価にせざるを得なかった。
 この夏の大作5作品では,『ダークナイト ライジング』>『プロメテウス』>『アメイジング・スパイダーマン』>『アベンジャーズ』>『トータル・リコール』の順になる。
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
     
<>br