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O plus E 2021年3・4月号掲載
 
 
ワンダヴィジョン』
(マーベル・スタジオ
/Disney+配信)
      (C)2021 Marvel
 
  オフィシャルサイト [日本語][英語]    
  [1月15日よりDisney+にて独占配信中]   2021年3月5日 Disney+の映像(全9話)の視聴完了
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ポストコロナ時代に影響を与えるキラーコンテンツ  
  メインコーナーの3作目は,他の2作のような劇場公開映画ではなく,Disney+で独占配信中のTVシリーズである。NetflixやAmazon Prime等でのオリジナル独占配信作品は,劇場未公開,TV未放映であっても,2時間前後の映像作品は「映画」に,30〜60分の複数話は「TVシリーズ」に分類されている。
 当欄では,従来TVシリーズは重視してこなかった。元来TV番組は自分が録画していない限り,好きな時間には観られない。また時間当たりの製作費は大作映画とは比べ物にならず,CG/VFXの利用度も低かった。その両面で,当欄で紹介する価値はなかった訳である。
 ところが,有料の配信サービスで長期間ずっと観られるようになり,しかも高額の製作費をかけた話題作が作られるようになって,状況は一変した。コロナ禍でVFX大作が軒並み公開延期になったこともあり,昨年は当欄でVFX多用作を5シリーズも紹介した訳である。
 本作はそのレベルに留まらず,ポストコロナ時代の映像業界のあり方を変えてしまうだけのパワーを秘めている。その最大の理由は,映画興行界のビッグネームMCU (Marvel Cinematic Universe)の一部をなす作品,即ち,今後の他の映画本編に影響を与える内容だからである。加えて,大ヒット作『アベンジャーズ/エンドゲーム』(19年Web専用#2)の3週間後から物語は始まるという触れ込みだ。これを見逃す訳には行かない。
「ワンダヴィジョン」というのは,シンセゾイド(人造人間)のヴィジョンと恋人である超能力者のワンダ・マキシモフのペア名称である。2人は「アベンジャーズ」のメンバーで,過去4作に登場している。『…/インフィニティ・ウォー』(18年Web専用#2)でヴィジョンはマインドストームを巡る大きな役割を果たすが,サノスによって破壊された。ワンダもサノスの「指パッチン」で消滅するが,『…/エンドゲーム』で他メンバーとともに復活する。MCUでは一貫してワンダはエリザベス・オルセンが,ヴィジョンはポール・ベタニーが演じていて,本作でもこのキャスティングは踏襲されている。
 本シリーズは29〜47分の全9話から構成され,2021年1月15日に最初の2話が配信開始された。その後は毎週金曜日に1話追加となり,3月5日配信の最終話で完結している。シリーズが始まり少し驚いたのは,時代設定が現代ではなく,1950年代であり,モノクロ映像であったことだ。舞台はNJ州の架空の町「ウェストビュー」で,ワンダとヴィジョンは新婚家庭を築いている。これがかつてのシットコム形式のコメディとして描かれたことも,話題を集めた。あっという間に60年代,70年代へと時代描写は進行し,アベンジャーズとの関係は一体どうなるのか,次週が待ち遠しかった。まさにキラーコンテンツと呼ぶに相応しい出来映えであった。
 以下,(若干のネタバレを含むが)各話の進行に従って,CG/VFXの使われ方を概観する。
 ■ 1950年代を想定した第2話までは,ほぼモノクロ画面だった。途中から,突如としてオモチャのヘリ等がパートカラーで登場する。次第にカラー化して行く途中には写真1のような中途半端な色付けもあり,色ずれもある。勿論,意図的な表現で,当時の性能の悪いカラーTVを彷彿とさせる。この回ではCG/VFXは使われていないように見えるが,そんなはずはない。ワンダがスーパーパワーで上司夫妻をもてなすシーンは,色々な事物が急に出現したり,高速移動したりする。
 
 
 
 
 
写真1 次第に色づいてくるが,少し色ずれも
 
 
  ■ 第3話から完全にフルカラー化し,ドタバタ劇の部分でCG/VFXの産物と思しきシーンも増加する。家庭内で2人が空中浮揚するシーン(写真2)は,当然ワイヤーアクションだろう。全編を通じて,ワイヤー操作は多用されていると感じられた。この段階までで気になったのは,ヴィジョンの頭部の描写方法だ。会社での勤務中以外は,赤い顔で,頭部に金属部分が露出した人造人間のルックスである(写真3)。すべてCG表現であっても不思議でないし,この程度なら,顔面を着色するメイクと,金属片込みのカツラを被ることでも対処できる。全編での登場頻度が高いこと,表情の豊かさから,「顔面着色メイク+頭頂部はCGで上書き」だろうと予想しておく。
 
 
 
 
写真2 随所で見られるワイヤーアクション
 
 
 
 
 
 
 
写真3 ヴィジョンの頭部に注目。これはメイクか,CGか?
 
 
  ■ 第4話からS.W.O.R.D.(知覚兵器観察対局)が登場し,ウェストビューの監視が始まる。ヘリ形状のドローンや本部内のTableTopディスプレイはCG/VFXの産物だが特筆するほどのものでもない。第5〜7話で現在の世界に登場したワンダが超能力を発揮するシーン,彼女が作り上げた「ヘックス」の境界等は,VFXのオンパレードだが,TVレベルの品質に過ぎなかった。
 ■ そして第8, 9話で物語はMCUと完全に繋がり,魔女アガサがワンダの敵として立ちはだかる(写真4)。CG/VFXパワーもほぼ全開となる(写真5)。既に予告のスチル写真で見ていた白いヴィジョンは一体何者なのかと気になった(写真6)。これはさすがに白塗りメイクでなく,CG製だろう。最終話のクライマックス・バトルは正に劇場用大作レベルだった。本シリーズのCG/VFX担当には,Digital Domain,Rise Visual Effects Studios,ILM, LUMA, MR. X, capital T, MONSTERS ALIENS ROBOTS ZOMBIES, Lola Visual Effects, Weta Digital, Cantina Creative等がクレジットされていた。
 
 
 
 
写真4 紫色のオーラ光線を放つ魔女アガサ
 
 
 
 
 
 
 
写真5 エピソードが進み,VFXも本格化。ワンダが炎に包まれ(上),ヴィジョンの身体が壊れ始める(下)。
 
 
 
 
 
写真6 この白いヴィジョンは,一体何なのか? これは最終話のお愉しみ。
(C)2021 Marvel
 
 [付記]
 上記本文の執筆時には間に合わなかったが,その後「マーベル・スタジオ アッセンブル」なるドキュメンタリー・シリーズがDisney+で配信されている。その「シーズン1 第1話」は『ワンダビジョンの裏側(The Making of WandaVision)』 だった。DVDだと付いている特典映像を,ネット配信ではこの形で提供してファンを増やそうという企画である。MCU作品に関するメイキング映像がこうした形で観られるのは嬉しいことだ。
 CG/VFXに関するメイキングを期待したのだが,それは殆どなく,映画制作全体に関する普通のメイキングだった。中でも,第1話,第2話のシットコム部分で,スタジオに一般観客を入れての撮影風景は楽しかった。特撮に関しては,かなりワイヤーアクションを多用していることがよく分かる。
 本文で言及したヴィジョンの頭部は,ポール・ベタニーが顔全体を赤く塗り,スキンヘッド(あるいは,そう見える同色のカツラを着けて)で演技しているシーンが何度も登場する。51分辺りでは,俳優の顔はほぼそのままで,耳を消し,頭頂部はCG製の金属部を上書きしている様子が描かれている。ほぼ当欄での予想通りであった訳だ。
 興味深かったのは,モノクロ映像の場面で,顔面を赤く塗っていてもそうは見えないので,むしろ紫色に塗ってモノクロ化したという下りである。最終話の派手なVFXシーンの解説がなかったのは,少し残念だった。
 同じMCUもので,『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』(全6話)が3月19日から配信開始されている。こちらは第1話からCG/VFXぎんぎんで,ファルコンの飛翔シーンがたっぷりある。
 
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  (O plus E誌掲載記事を加筆し,画像も追加しています)  
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