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O plus E誌 2010年3月号掲載予定
 
 
 
プリンセスと魔法のキス』
(ウォルト・ディズニー映画)
 
      (C)Disney Enterprises, Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [3月6日よりTOHOシネマズ スカラ座ほか全国ロードショー公開予定]   2010年2月15日 角川試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  煌めく光と音楽,気迫溢れるミュージカル・アニメ  
   ディズニー・アニメも『チキン・リトル』(05年12月号)以降は,すべてフルCG化したのかと思ったら,伝統のセル調アニメが復活した。ひたむきに夢を追う女性とカエルの姿に変えられた王子とのラブストーリーでミュージカル仕立てというから,これはディズニー・アニメ十八番の出し物である。ところが,ヒロインのティアナが黒人女性で,これはアニメ史上初のキャスティングだという。ハリケーン禍に見舞われたニューオリンズを舞台にしているのも,弱者に配慮したアメリカ映画の営業政策と言えなくもない。
 ディズニーがピクサーを買収したが,ピクサー社長のエド・キャットマル氏とクリエイティブ面の総帥ジョン・ラセター氏が,Walt Disney Animation Studioの社長とChief Creative Officerも兼務し,本家の再生を依頼されたことは何度か書いた。その体制下で製作された『ボルト』(09年7月号)はフルCGかつ3D映像の最先端を走る半面,ストーリーはディズニーらしさを強調した佳作であった。次はどんな手で来るのかなと思ったら,2Dの手書きアニメーションの復活である。「両社で同じことをしていても仕方がない。手書きかCGかは表現方法の違いであって,肝心なのはストーリーである」という強い主張が感じられる。
 監督は,秀作『リトル・マーメイド/人魚姫』(89)『アラジン』(92)のジョン・マスカーとロン・クレメンツのコンビである。ディズニー・アニメの復活を告げる2作を生み出したものの,後年『ヘラクレス』(97)『トレジャー・プラネット』(02)なる凡作にも関わっている。その時期のディズニー作品は,CG化の波に追われ,企画が安易で混迷を極めていた。結論を先に言えば,この映画は気迫のこもった一作で,彼らの手書きアニメの伝統を消すまいとの想いが伝わってくる。サービス精神も旺盛で,97分にここまで詰め込むかという感じすらする中身の濃さである。
 物語は,グリム童話の「カエルの王子」にヒントを得ているが,1920年代のニューオリンズが舞台だ。表現力の上ではもはや3D-CGには敵わないので,キャラクターだけが伝統の手書きであり,背景描写の大半はCGを導入している。いや,人物の衣服ですら,一部は3D-CGでデザインされている(写真1)。一方,ニューオリンズの街や森の描写には,基本は3D-CGでモデリングしながら,随所に手書き絵画のタッチを加えている(写真2)。水面の映り込みなどは絶品だ(写真3)。もはや,手書きのキャラは,ディズニーらしさを強調するシンボルに過ぎない。王子のルックスは誰もが想像する王子様であり,ジャズを愛するワニは『ピーター・パン』(53)でフック船長を襲うワニを誇張し,楽しいキャラに仕立てている。
 
   
 
写真1 ドレスも部屋の調度も3D-CGで描写
 
   
 
写真2 1920年代のニューオリンズが舞台
 
     
 
写真3 この構図や水面の映り込みなどは絶品
 
 
 
   当初は,その手書きキャラと背景のCGとの強引な合成にやや違和感を覚えるが,すぐに解消する。色合いの調整が巧みで,両者が見事に溶け込んでいる。表現上目立ったのは,光の使い方の上手さだ。室内の何気ない仄かな灯,街の灯(写真4),蛍が舞う様は序の口で,画面全体が光輝くシーンも多用されている(写真5)。ちょっとやり過ぎだよと感じるほどだ。    
   
 
写真4 何気ないシーンも光の使い方がうまい
 
   
 
 
 
写真5 こんなシーンが,いや,もっと光輝くシーンが何度も登場
(C)Disney Enterprises, Inc. All rights reserved.
 
   
   その煌めく光と見事にマッチしているのが,ジャズあり,ブルースあり,ゴスペルありのゴージャスな音楽である。音楽担当はピクサー作品でお馴染みのランディ・ニューマンで,ご当地ニューオリンズ育ちというのもぴったりだ。これまでのどのディズニー・アニメよりもミュージカルとしての完成度は高い。音楽に合わせて多数の動物たちが踊る様は,『ファンタジア』(40)や『ファンタジア2000』(00年2月号)を彷彿とさせてくれる。
 この作品は,ゴールデングローブ賞に続き,アカデミー賞長編アニメ部門の5作品にノミネートされている。立派ではあるが,オスカーを獲るのは,やはりピクサーの『カールじいさんの空飛ぶ家』(09年12月号)だろうなと思う。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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