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O plus E 2019年Webページ専用記事#5
 
 
マレフィセント2』
(ウォルト・ディズニー映画 )
      (C)2019 Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [10月18日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2019年10月7日 TOHOシネマズ梅田(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ワクワクするファンタジーだが,結末が何とも残念  
  題名通り,アンジェリーナ・ジョリー主演のダーク・ファンタジー映画『マレフィセント』(14年7月号)の素直な続編である。もう5年も経つので,そのおさらいから始めよう。前作を未見なら尚更で,この続編を観てもさっぱり分からないので,DVD等で予習しておくことをオススメする。
 かつての名作アニメを次々と「実写+CG」でリメイクしているディズニー映画だが,この前作は少し様相が違った。元は名作『眠りの森の美女』(59)だが,オーロラ姫に呪いをかけた敵役マレフィセントを主役にし,彼女の視点から描かれた物語に仕立てていた。「翼のある妖精」の彼女は,人間の恋人ステファンに裏切られ,背中の大きな翼まで切り取られる。失意の彼女は,野心で隣国の王となったステファンの娘オーロラが眠りにつく呪いをかける。この設定だけは『眠りの森の美女』と同じだが,自分のムーア国で養母としてオーロラ姫を育てるという展開が全く違う。さらに,オーロラ姫の眠りを解く「真実のキス」の主は,彼女に恋したフィリップ王子ではなく,愛しい養娘を案じるマレフィセントのキスだったというオチがついていた。即ち,マレフィセントは悪役ではなく,心優しい養母なのである。A・ジョリーが実際に多数の孤児を養子にしているので,それを知っている観客がニヤリとする粋な脚本であった。マレフィセントというキャラ自体,欧州の民話にはなく,ディズニー・アニメで創作された存在なので,どのようにも変形しても平気な訳である。
 さて,続編である本作は,製作年に連動して,5年後の妖精たちのムーア国から始まる。16歳だったオーロラは21歳になっていて,既にマレフィセントから女王の座を譲られている。前作に引き続きエル・ファニングが演じているが,彼女の実年齢もオーロラと同じだ。前作はいかにも少女だったのに,身長も伸び,すっかり大人になったなと感じる(写真1)。そこに,隣国のフィリップ王子(ハリス・ディキンソン)が現れて再度求婚するが,今回はそれをあっさりと受入れてしまう。「おいおい,5年後に再会したばかりで,こんな草食系男子の求愛に応じるのかよ」とツッコミたくなるが,そうしないと物語が始まらないから,我慢することにしよう。
 婚約が成立し,王子の両親からアルステッド城での晩餐会に招かれ,養母マレフィセント同伴で参加する。そこで諍いが生じ,罠に嵌められ,激怒したマレフィセントは席を立つ。城から飛び立った空中で,鉄製の弾で襲撃され,海中へと沈む。その結果,擬似母子間の絆,信頼関係にひびが入るが(写真2),邪悪な敵と戦いながら,この絆をいかに取り戻すかが物語の骨格である。ディズニー映画だから,結末がバッドエンドであるはずはないが,傷ついたマレフィセントがいかにして復活するかも見どころとなっている。
 
 
 
 
 
写真1 エル・ファニングは,オーロラ姫と同じく21歳
 
 
 
 
 
写真2 罠にはめられた養母との信頼関係が危機に
 
 
  監督は,前作のロバート・ストロンバーグから,『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(17年7月号)のヨアヒム・ローニングに交替している。ノルウエー人監督で,当欄では漂流映画『コン・ティキ』(13年1月号)を絶賛している。
 出演者では,上記3人の他,カラスのディアヴァル役のサム・ライリー,小妖精トリオ(イメルダ・スタウントン,ジュノー・テンプル,レスリー・マンヴィル)も続演している。新登場の助演陣は,アルステッド国のジョン王(ロバート・リンゼイ)とイングリス王妃 (ミシェル・ファイファー),鳥人たちの穏健派コナル(キウェテル・イジョフォー),過激派ボーラ(エド・スクライン)等が,重要な役割を担っている。この中で,誰が敵役かはポスターや予告編からも容易に分かるだろう。
 本作は,徹底した箝口令が敷かれ,事前情報が殆どなく,さらに公開直前まで解説記事の掲載も制限されていた。その方針に従って,極力ネタバレ情報は避けながら,当欄の視点から,CG/VFXの見どころを記す。
 ■ 映画は,伝説の森の夜景から始まり,妖精のキノコや植物が盗まれるシーンが映る。後の物語の伏線である。続いて,妖精たちが棲むムーア国の光景に変わり,少し大人になったオーロラ姫が生き生きとして暮している。前作の監督ロバート・ストロンバーグがデザインしたもので,そのままディズニーランドのアトラクションで使えそうな夢一杯の世界だ。彼は元々美術監督であり,2度オスカー受賞しているだけのことはあると感じる出来映えだった。本作でも,この世界観を踏襲していて,前作で登場した動植物も再登場するので,既視感がある。ただし,CG/VFXの使い方やカメラワークは本作の方が数段上である。残念なのは,この充実したオープニング・シーケンスからも,他の優れた美術シーンからも,CG/VFXを活かしたスチル画像が殆ど提供されないことだ。
 ■ A・ジョリー演じるマレフィセントはと言えば,大きな翼を拡げた姿が圧巻で,「やっぱり,主役は私よ」と言わんばかりの存在感である(写真3)。前作よりも,この翼がかなり大きくなっていると感じた。試写会後に調べてみたら,前作では早々に翼が切り取られ,終盤のラストバトルでようやく彼女の背に戻ったので,大きく広げるシーンは殆どなかった。それもあってか,本作では一回り大きくして,威圧感を与えるポーズを多用している。この大きさとなると当然翼はCG表現であり,ワイヤーアクションでの飛翔シーンにも翼だけ合成されていると思われる。
 
 
 
 
 
写真3 一段と大きくなった翼に圧倒される
 
 
  ■ ムーア国以外でも,本作の美術デザインは相当優れている。アルステッドの街は歴史を感じさせつつも,洒落た作りになっている。アルステッドの城の外観はディズニーのシンデレラ城をさらに豪華にしたゴシック風の建築物で,メインホールの威容にも圧倒される。勿論,すべてを美術セットとして用意した訳ではない,かなりの部分はCG/VFXで置き換えられているが,どこからがそうかは簡単に見分けられない。中盤での見どころは,海中の沈んだマレフィセントが助けられ,運ばれる「ダーク・フェイ」の世界である。彼女と同族だが,人間に追われた翼をもつ鳥人たちの居住地であり,ある島の地下の洞窟に存在している。この洞窟のビジュアルも,かなり魅力的なデザインになっている。かなりしっかりデザインされている。先住の少数民族への虐待,民族間対立の醜さは,さながら青少年たちへの政治的メッセージとも受け取れる。そこまで考えなくても,本作は終盤近くまでワクワクする展開であり,見慣れたはずのファンタジーの中でも,かなりレベルが高いと感じた。物語の語り口が素晴らしく,美術と音楽が見事に融合していた。
 ■ アルステッドの地下の工房で,妖精を分解する秘薬,鉄の弾丸,それを発射する新型のボウガンが開発されていた。この実験室の美術セットも見ものの1つだ。極め付きは,妖精や鳥人を滅ぼすための「赤い粉」である。クライマックスのバトルで散布されて空中に舞う,この赤い粉が美しい。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(18年1月号)の終盤で,旧式戦闘機が巻き上げる赤い砂塵を思い出した。おそらく,同作の影響を受けて,鮮やかな赤にしたのだろう。本作のCG/VFXの主担当は,前作に引き続きMPCで,副担当はMill Film社だけという,最近の大作としては珍しい2社体制だ。3D変換はDNEGの3D部門,プレビズはThird Floor社が担当している。
 ■ ワクワクする中盤の展開の後,鳥人たちがアルステッド城を攻めるクライマックスもしっかりCG/VFXに支えられている。少し遅れて,マレフィセントが大きな翼を広げて参戦する姿は,まさに千両役者登場だ(写真4)。ファンタジーものよりは,アメコミヒーローの登場に近い演出である。ここまでは最高点をつけるしかないなと思っていたのだが,その後がいけない。いくらファミリー映画のディズニー作品とはいえ,ここまでお子様向きの結末にするとは思わなかった。しかも,歯の浮くようなセリフ,恥ずかしくなるほど安直な後始末が延々と続くが「画竜点睛を欠く」とは真逆で,余計な目をいくつも描き込んだため,一気に作品全体の価値が下ったという典型だろう。惜しい,全くもって惜しい! 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 真っ黒な翼になって再登場。空中の赤い粉にも注目。
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