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O plus E誌 2016年3月号掲載
 
 
ザ・ブリザード』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月27日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2016年2月1日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  好く出来た海難事故映画で,CGの使い方も及第点  
  寒波到来で極寒の日にはおよそ観たくない題の映画だ。かと言って,真夏の上映も変だから,やはりこの時期の公開しかないのだろう。「ブリザード」の定義を調べたら,1つは,極地,特に南極大陸でよく起こる地吹雪とある。もう1つは,北米(カナダや米国北東部)での暴風雪,猛吹雪の意味だそうだ。本作が扱うのは,後者の冬季の現象で,それも海上での猛吹雪とそれに伴う高波だ。高い山でも猛吹雪によく遭遇するが,それは本作の2週間後に公開となる邦画,短評欄の『エヴェレスト 神々の山嶺』を観て頂こう。
 実話で,1952年2月18日の未明,米国マサチューセッツ州ケープコッド沖で起きた海難事故から,生存者を救出する物語だ。先月号の『白鯨との闘い』に登場するナンタケット港は,この岬の南約50kmにあるというから,ほんの目と鼻の先,時代的には約150年後の出来事である。米国沿岸警備隊(コーストガード)史上,最も勇気ある救出活動だそうだ。勿論,筆者は知らなかったが,米国民も詳細を知っている人はそう多くなく,この映画でその英雄的行動が広く知られ,改めて称賛を浴びることだろう。
 大型船の事故を描いた大作映画と言えば,『ポセイドン・アドベンチャー』(72)と『タイタニック』(97)を思い出す。本作で事故に遭遇するのは大型タンカー「SSペンドルトン号」だが,さほど大きな船ではない。むしろその救出に向かうのが,12人乗りの小型木製救助艇で,乗組員はわずか4名だというのに驚く。当然,風速40mの最大級ブリザードが引き起こす高波,荒海の表現には,CG/VFXが目一杯使われている。
 嵐の海の表現の嚆矢となったのは,『パーフェクト ストーム』(00年8月号)だ。流体力学を駆使したCG表現は見ものだったが,作品的にはどうしようもない駄作であった。それから15年余,CG技術は飛躍的に進歩したので,もはや大嵐や巨大な高波の表現にはさほど驚かない。その点では,『ノア 約束の舟』(14年7月号)も褒めたのだが,本作の方が必然性があり,使い方が遥かに上手い。現時点での最高水準だと評価出来る。
 監督は,クレイグ・ギレスビー。豪州出身の中堅監督で,高名ではないが,『ミリオンダラー・アーム』(14年10月号)で,エンタメ作品の演出は上手いなと感じた。主演の小型救助艇船長に『スター・トレック』シリーズのクリス・パイン。こちらは宇宙船の船長ではなく,見事に1950年代の男に化けている。その恋人ミリアム役は,ホリデー・グレンジャー。『シンデレラ』(15年5月号)で意地悪な姉の1人を演じたように,さほど美人ではないが,実在の船長夫人によく似ている。彼らのラブロマンスは添え物かと思ったが,結構,物語に深みを与えている。SSペンドルトン号側で活躍するのは,一等機関士役のケイシー・アフレック。ベン・アフレックの弟だが,相変わらず演技は彼の方が上だ。
 実話で4人が表彰されたと分かっているから,救出劇は成功したに決まっている。それでもハラハラドキドキ,かなり好く出来たディザスター映画だと思う。
 以下,当欄の視点からの評価である。
 ■ まだ64年前の出来事であり,沿岸警備隊側にも救出された32名の中にも生存者はいるので,当時の事故や救出の様子は,しっかり史実に基づいてリアルに描かれているに違いない。SSペンドルトン号の船上や船内はセット撮影だろうが,とりわけ船内の再現やカメラワークが素晴らしい(写真1)。3D上映も計算した船内の作りや構図になっている。一方の小型救助艇36500は,勿論実寸大の船(写真2)が作られ,CGと併用されている。何と,この小型艇36500が現存していて,出航時と救出しての帰還時には,本物を使ったという。
 
 
 
 
 
写真1 亀裂が入り,タンカーを人手で操舵する
 
 
 
 
 
写真2 暴風雨の中を進む沿岸警備隊の小型救助艇
 
 
  ■ SSペンドルトン号の外観の大半はCGで描かれている(写真3)。当初スチル写真を見て,何か小さな船だなと思ったが,これは溶接部分に亀裂が生じ,前半分が沈没した後の,後部だけの姿だった(写真4)写真5で見ると,真っ二つに割れた部分は,船内までしっかりとCGで描かれている。一方の小型艇36500が,砂洲によって生じる高波に挑むシーン(写真6)が延々と続くが,当然,ここの小型艇はCGによる描写だ。この高波を乗り越えるシーンが圧巻で,本当に実話かと思ってしまう。半分になったSSペンドルトン号を意図的に浅瀬に乗り上げ,座礁させるシーンが,もう1つの見せ場だ。
 
 
 
 
 
写真3 嵐の海で遭難したタンカー,SSペンドルトン号
 
 
 
 
 
写真4 真っ二つに割れたタンカーの後部が漂流
 
 
 
 
 
写真5 裂けた断面から,船内の様子がよく分かる
 
 
 
 
 
写真6 砂洲の高波に向かう救助艇は勿論CG製
(C) Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 映画全体として言えば,様々な状態の波の表現が秀逸だ。雷鳴,吹雪,雪道,雪の港の描写も,ハイレベルだ。CG/VFXの主担当はMPCで,プレビズも社内で行なっている。他には,Mr. X, Inc.,Legend FXも参加し,2D→3D変換はLegend 3Dが担当している。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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