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O plus E誌 2011年8月号掲載
 
 
 
 
『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART2』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
 
      (c) 2011 Warner Bros. Ent.
Harry Potter Publishing Rights (c) J.K.R.
Harry Potter characters, names and related indicia are trademarks of and (c) Warner Bros. Ent.

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [7月15日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2011年7月8日 なんばパークスシネマ[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  「これが,最後」に相応しい堂々たる完結編  
  いよいよ,待ちに待った最終編だ。街には「これが,最後だ。」のポスター(写真1)あちこちに貼られていて,完結ムードが高まっている。2001年末から始まった本シリーズも,8作目で終了する。原作小説の7巻目を前後編に分けたのは正解だったが,PART1から8ヶ月は待たせ過ぎで,せめて3ヶ月後に観たかったところだ。原作本の完結からは,既に4年が経過している。
 
   
 
写真1 街のあちこちで,このポスターを見かけた
 
   
  監督は,第5作目以降,シリーズの半数を担当しているデイビッド・イェーツ。主人公のハリー・ポッター(ダニエル・ラドクリフ)はじめ,親友のロン(ルパート・グリント),ハーマイオニー(エマ・ワトソン)のトリオは,従来通りのキャスティングで,今更言うまでもないだろう。初演から10年も経ち,3人ともすっかり大人の俳優になった。回想シーンを含め,助演陣の懐かしい顔ぶれも勢揃いである。
 物語の焦点はただ一つ,主人公ハリーと宿敵ヴォルデモート卿の最後の対決をいかにして迎えるかだ。死を賭したハリーの決意により,魔法界を二分する戦いが始まるというが,こんなシリーズで主人公が死んでしまい,悪が生き残る訳はない。いかにしてハリーがヴォルデモートを倒すか,その過程で何人もの犠牲は出るのか,戦いの後,その後の彼らはどう描かれて大団円を迎えるのかだと言い換えてもいいだろう。
 最終編の気分の高揚は特有のものだ。『ロード・オブ・ザ・リング/王の帰還』(04年3月号) 『スター・ウォーズ エピソード3/シスの復讐』(05年7月号) の時にもこの高揚感を覚えたが,物語の推移に感情移入して行く気分は少し違う。両作品では,あらゆるものを巻き込んで一気呵成に結末に向かう躍動感があった。音楽が緊張感を高め,全観客の目をスクリーンに釘付けにし,監督が意図した通りの加速度で物語世界に没入させて行く感じであった。本作の趣きは少し違う。PART1を受け,さらにじっくりと描き込んで,迫り来る対決の恐怖を肌で感じさせるという方針のようだ。この音楽が素晴らしい。荘厳で,優美で,壮大なスコアの中に,お馴染のテーマ・メロディも巧みに配置されている。
 それでも,前半に派手なアクションを入れ,一度観客のテンションを高めておくという最近のパターンは踏襲している。ここで登場するのが,巨大なドラゴンである(写真2)。ウクライナ・アイアンベリーというらしい。これが出てこなくては困る。前作のスチル画像集の中にあったのだが,PART1では遂に登場しなかった。そうか,PART2の前半の見どころだったのか。ドラゴンという存在自体は珍しくもないが,火を吹く姿も飛翔するシーンも素晴らしい出来映えだ。
   
 
 
 
写真2 前半のVFXの見どころは,巨大なウクライナ・アイアンベリー種のドラゴン
 
   
  このドラゴンを除くと,VFXの1つずつは目立たないが,静かに物語を支え,トータルでかなりの分量になっている。光や炎の使い方が上手い(写真3)。気品があり,物語を引き締めている。どこまでがセットで,どこをCGで強化したのか,全く分からないインビジブル・ショットも数多い。ほぼ全編に登場するヴォルデモートの鼻のない表情は,特殊メイクとVFXの併せ技だ(写真4)。一見何気ないが,各カットで丁寧な処理が加えられている。ハリーの幻想シーンとして登場するキングスクロス駅は美しいし,ホグワーツ魔法魔術学校が燃え落ちる光景も素晴らしかった。そして,クライマックスは2人の対決シーンである(写真5)。杖からの魔法パワーだけで,華やかさはないが,それだけに凄みがある。
   
 
写真3 地味だが,じっくり描き込んだVFXシーンの連続
 
   
 
写真4 個性的なルックスの「あの人」が全編に登場
 
   
 
 
 
 
 
写真5 最後は勿論この2人の対決。杖だけが武器で,派手な演出はないが,それだけに一層緊迫感が漂う。
(c) 2011 Warner Bros. Ent. Harry Potter Publishing Rights (c) J.K.R.
Harry Potter characters, names and related indicia are trademarks of and (c) Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.
 
   
   このVFX担当スタジオの筆頭はDouble Negativeに戻り,盟友MPC, Cinesite,Framestoreが脇を固めている。以下,Baseblack, Rising Sun Pictures, Lola VFX, Tippet Studioの順にクレジットされている。既に本欄で何度も書いたが,DN社を中心としたロンドンSOHO地区のVFX各社の実力は,この10年で飛躍的に向上し,今や押しも押されぬ存在となった。今振り返って見れば,4作目まではILMが主担当であり,初期はSPIWやR&Hも名を連ねていた。それが3作目あたりから英国勢の参加比率が増え,5作目からはDNが主軸となり,やがてILMの名が消えた。英国VFX業界の発展を支えて来たのが本シリーズであったし,同業界の成長とともに本シリーズも風格と気品が増したとも言える。
 そうだ,大事なことを書き忘れていた。シリーズ最終編にして,初めて3D作品として作られている。事前発表しておきながらPART1の3D公開は見送られ,PART2のみが3D映画として日の目を見た。それからも分かるように,2D撮影後に3D変換したフェイク3Dである。待たせただけあって,3Dの効果を感じるシーンが随所に登場する。「2D→3D変換」の技術向上もなかなかのものだと感心することも事実だ。それでいて,どう見ても2台のカメラで撮影したリアル3Dだと見受けられるシーンもあった。全体としては,3Dで観ても悪くないが,2Dでも楽しめる堂々たる完結編である。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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