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O plus E誌 2011年7月号掲載
 
 
 
 
『ナニー・マクフィーと空飛ぶ子ブタ』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)
 
 
      (C) 2010 Universal Studios.

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [7月2日より有楽町スバル座他全国ロードショー公開予定]   2011年6月3日 東宝東和試写室(大阪)    
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  低年齢層のファミリー映画だが,CG描写は座布団2枚  
  渾身のVFX大作が2本続いた後は,対象年齢層がぐっと下がるファミリー映画を紹介しておこう。とはいえ,こちらもVFX的には十分見応えのある一作で,実に可愛い,心温まる映画である。
 原題は『Nanny McPhee Returns』もあれば,『Nanny McPhee and the Big Bang』とも書かれている。「Return」というからには前作があったのかと調べたら,2005年製作の英国映画『Nanny McPhee』(邦題は『ナニー・マクフィーと魔法のステッキ』)が出て来た。本邦では,2006年4月15日に公開されているようだが,実をいうとこの映画には全く記憶がない。魔法使いの映画にCGが登場しない訳はないのだが,ほんの少しだけ使われていたのだろうか。地味な扱いで公開され,当欄は注目していなかったのだろう。
 「ナニー」とは「乳母」の意で,魔法を使う「マクフィーばあや」が主人公である。原作は,クリスチアナ・ブランド作の児童文学「マチルダばあや」シリーズだそうだ。腕白で聴き分けのない子供たちに,人生の大事なことを1つずつ躾けて行くという教育的配慮のファミリー・ファンタジーである。その主人公の名を変えた脚本を書き,個性的なメイクを施して自ら主演したのは,『ハワーズ・エンド』(92)『いつか晴れた日に』(95)のエマ・トンプソン。主演女優賞と脚色賞の両部門でオスカーを得た才女が,よほどこの原作を気に入ったのだろう。前作の共演は,『英国王のスピーチ』(11年3月号)で今年オスカー男優となったコリン・ファースで,妻と死別し,7人の子供を育てる父親役を演じている。予告編ビデオで見る限り,5年前はまだ若く,『ブリジット・ジョーンズの日記』(01)とその続編(04)のマーク・ダーシー役でブレイクした頃のイメージを残している。
 さて,5年後に製作された本作は,再びエマ・トンプソンが脚本・主演を担当し,ナニー・マクフィーのキャラ設定や子供たちの教育という物語骨格はそのままで,監督や共演の性別が入れ替わっている。監督はカーク・ジョーンズから,女性監督のスザンナ・ホワイトに,共演は『ダーク・ナイト』(08年8月号) 『クレイジー・ハート』(10年6月号)で好演したマギー・ギレンホール。本作では,第2次世界大戦下の英国が舞台で,出征した夫の帰りを子供たちと待つ農家の主婦役だ。
 女性目線のファミリー映画とはいえ,その平板な寓話ぶりには驚いた。悪ガキたちは,少しの説教でいとも簡単に良い子になってしまうし,悪役がまるで悪役らしくない。低年齢層向けの映画とはいえ,ここまで物語のレベルを下げる必要はあるのかと思うが,この種の映画はそれを覚悟して観るしかないのだろうと途中で諦めた。かくなる上は,CG/VFXの使い方を熟視するだけだ。
 果たせるかな,CGは満載で,楽しい使われ方だった。以下,その見どころである。
 ■ ファンタジーらしい味付けの美術セットが素晴らしい。古き良き英国の田園地帯を再現し,夢を感じさせてくれる明るい映像である。遠景は様々なVFX加工が施されているのだろうが,そこに木の葉が鳥のように舞い,竜巻が生じる様は,勿論CGでの描写だ。ナニー・マクフィーが魔法を駆使する農場の収穫シーンなどは,アイディア賞ものだ。
 ■ 農場ゆえにヤギ,牛,豚などの家畜動物が次々と登場するが,どれが本物でどれがCGかは,一見しただけでは見分けがつかない。出色は可愛い子象で,これはどう観てもCG の産物だろう(写真1)。副題にも登場する子ブタたちは,実物とCGを巧みに使い分けているようだが,表情変化があるまではCGだと気がつかない(写真2)。最大の見せ場は,空飛ぶシーンでなく,シンクロナイズドスイミングのシーンだった(写真3)。会場は大爆笑で,ついで大拍手となった。座布団2枚進呈だ。
 
   
 
写真1 CG製アニマルで出色なのは,この可愛い子象
 
   
 
 
 
写真2 表情変化があるまで,どれが本物でどれがCGか判らない
 
   
 
写真3 会場は大爆笑。勿論,これは全部CG製。
 
   
   ■ 戦闘機やそこから投下される爆弾,飛行船や戦時下のロンドンの様子も卒なく描かれている。VFX担当は英国CG界の大手Framestoreだから,どの時代のロンドンも手の内に入っている。ネルソン提督像やライオンまでも動かして見せるのはご愛嬌だし,陸軍省のビルは風格すら感じる。市街地でのサイドカーの爆走や空飛ぶ光景も楽しかった。ナニー・マクフィーの相棒であるカラスのエーデルワイスもCGならではのキャラ設定で,風船のように膨らむのには驚いた(写真4)。ここまで童話を自由自在に映像化できるなら,児童文学のあり方自体が変わって来ても不思議ではない。もはや絵本作家という職業が成り立つのかとすら思うこの頃だ。  
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写真4 風船のように膨らみ,空高く舞い上がる
(C) 2010 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
 
   
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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