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O plus E誌 2012年4月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『STAR WARS エピソード1/ファントム・メナス 3D』:創造力よりも商才に長けたG・ルーカス監督は,エピソード1からの3部作製作の前に,旧3部作をほんの少し手直ししただけの特別編公開で荒稼ぎした。味をしめて,今度はシリーズ6作品を順に3D化し,また関連グッズも売りまくる気らしい。そうと分かっていながら,観ざるを得ないのがSWファンの悲しい性である。問題は,シリーズ随一の駄作エピソード1が,3Dのお色直しで,どの程度魅力的に化けられるかだ。3Dと言っても一からリアル3Dで撮り直せる訳がなく,「2D→3D変換」に頼らざるを得ない。ただし,変換技術は進歩しているし,たっぷり手間ひまをかけているに違いない……。という前提で,3D試写に臨んだのだが,結果は無残だった。立体感をどう演出しようが,ヨーダをCGに差し替えようが,駄作は駄作である。テンポが速過ぎ,CGオブジェクトが多過ぎ,その上,ジャー・ジャー・ビンクスがうるさ過ぎる。3Dを全く想定していない構図だったのが不幸で,立体感も付け焼き刃の域を出ない。2日後に上述の『センター・オブ・ジ・アース2』を観たが,その威力の差は歴然だった。
 ■『僕等がいた 前篇&後篇』:月刊少女漫画誌に連載の人気コミックで,TVアニメ化され,そして映画化,というお決まりパターンである。これが単なる東宝配給作品なら食指は動かなかったのだが,アスミック・エース共同配給というので,少しは大人の観賞に堪える作かと期待した。北海道・釧路から東京の大学に進学してくる若い男女たちの青春映画である。少女コミックを韓流映画の味付けで映像化し,思いっきり引き伸ばしたという印象だ。ヒロイン(吉高由里子)の高校生時代の笑顔は,若き日の宮崎美子を思い出させるし,社会人メイクではチェ・ジウにも似ている。彼女視点の物語であることは止むを得ないが,想いを寄せる男性2人をしっかり繋ぎ止める構図は,『トワイライト』シリーズの日本版とも言える。前後篇連続で観たが,十分1本に収められる程度の中身だ。後篇は,何度ももう終わりかと思わせながら,まだ延々と続く。監督は『ソラニン』(10)の三木孝浩。会社の営業方針に沿って,若者に2回分の入場料を払わせるよう仕込んだ腕は評価できる。
 ■『マリリン 7日間の恋』:実話である。マリリン・モンローにこんなエピソードがあったとは,世界中が興味津々だ。1956年,ローレンス・オリヴィエ監督・主演の映画『王子と踊子』に出演のためロンドンを訪れたM・モンローの,撮影の舞台裏,演技への苦悩,若き第3助監督との短期間の恋が描かれている。原作は,その恋のお相手自身の回顧録だ。本作を,当時と同じスタジオやホテルで撮影して,英国の名優陣(ケネス・ブラナー,ジュディ・デンチ等)が緊迫感を醸し出しているのが心憎い。マリリン役のミシェル・ウィリアムズの地顔はさほど似ていないが,金髪と赤い口紅とほくろとで,MMに見えてしまう。いや,観客が自ずとそこにM・モンローの幻影を見てしまうと言うべきか。この演技でオスカー・ノミネートは少し点数が甘いが,それもマリリンへの郷愁と愛着がなせる技だったのだろう。
 ■『僕達急行 A列車で行こう』:徹底して鉄道マニアのための映画である。首都圏の各種電車とJR九州管内を走る現役の列車が30~40種類登場する。登場人物の姓や名も,小町,小玉,北斗,天城,いなほ,あずさ等,全部列車名であり,外国人労働者役でアクティ,ユーカリまでが出て来る。マニア垂涎の贅沢な鉄道模型まで現われ,さほど鉄ちゃんでない観客まで鉄道ファンにしてしまいそうな勢いだ。その添え物のように男性2人(松山ケンイチ,瑛太)のコメディ・タッチの物語がついている。この2人の会話は,まるでホモのようで,気味が悪い。NHK大河ドラマの平清盛役でゴツイ感じの最近の松ケンに,この役はしっくりこない。昨年暮に急逝した森田芳光監督の遺作というので,点数を甘くしたかったのだが,やはり添え物に過ぎなかった。
 ■『テイク・シェルター』:大災害の悪夢に悩まされ,避難用シェルターを作リ始める主人公(マイケル・シャノン)の狂気を描く上質のサイコ・スリラーだ。予知夢という点では『ファイナル・デスティネーション』シリーズの要素もあるが,印象としては『メランコリア』(12年3月号)に近い。主人公には予知能力があるのか,単なる妄想なのか,先が読めない展開に目が離せない。やがて彼に感情移入し,自分は正気なのか,精神異常なのか,これもまた悪夢なのか,自問自答したくなる場面が,少なくとも3度ある。妻(ジェシカ・チャステイン)からシェルターの扉を自ら開けるよう促された時,精神科医に入院しての集中治療を勧められた時,そしてラストである。この結末はアリだとしても,エンドロールに流れる曲の歌詞が余計だ。中盤以降のテンポをもう少し速くし,この曲がなければ,満点を与えたと思う。監督は,これが長編2作目となるジェフ・ニコルズ。この監督の次回作には注目だ。
 ■『スーパー・チューズデー 正義を売った日』:今年は4年に一度の米国大統領選の年であり,表題はその予備選挙の天王山となる多数の州での集中投票日のことである。その選挙戦の舞台裏,有力候補陣営の虚々実々の駆け引きの模様を,社会派ドラマ好きのジョージ・クルーニーが監督し,自ら大統領候補役も演じている。イケメンで遣り手の候補者役はよく似合っていた。主人公は,その選挙参謀チームの切れ者で,ライアン・ゴズリングが演じている。熾烈な情報操作や陰謀など,本当に舞台裏はここまでやっているのかが関心事だ。この稿は,まさに今年のその開票日(日本時間で3月7日水曜日)に書いているが,劇中では3月15日であったから,想定は4年後なのだろうか。このタイムリーな企画の映画が,3月31日(土)公開なのが惜しい。どう調整してでも,あと数週間早めるべきだっただろう。
 ■『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』:副題通りの素晴らしい感動作だ。「ヘルプ」とは,米国南部で白人家庭に雇われていた黒人メイドのことで,日本人の感覚なら,むしろ「ヘルパー」だ。1960年代,まだ人種差別が堂々と横行していた時代に,その過酷な労働条件と理不尽な差別の実態を,1人の若い白人女性が取材し,勇気をもって出版する過程を描いている。意地悪な白人夫人達は皆美人で明るいが,その容姿も衣装も,現代から見ると何と滑稽なことか。これが,ほんの半世紀前の実情であったことに嘆息する。オクタヴィア・スペンサーがオスカーを得たように,助演陣の活躍ばかりが話題になったが,主演のエマ・ストーンもなかなかの好演だと思う。脚本も衣装も音楽も素晴らしい。舞台はミシシッピー州だが,当時この州で育った白人のエルヴィス・プレスリーが黒人のように歌ったのだから,さぞかし保守層の大人は眉をひそめたことだろう。
 ■『アーティスト』:言うまでもなく第84回アカデミー賞で作品賞・監督賞・主演男優賞等,5部門でオスカー得た話題作である。サイレントからトーキーへと大変革を迎えたハリウッド映画製作業界の模様を,フランス人監督がフランス人俳優を使って撮った仏映画であることが感慨深い。さらに,この時代を象徴するがごとく,(最後の少しを除いて)ほぼ全編をモノクロ,サイレント,旧4:3スタンダード・フォーマットで描いたというのが大いなる関心事だ。物語は,サイレントに拘り,次第に落ちぶれて行くスター男優と,トーキーの時流に乗って売り出す新人女優のシンプルなラブ・ストーリーだ。そのシンプルさを古いフレーム内で表現したことで,改めて「映画とは,ストーリーとは」を考えさせられる記念碑的な一作となった。筆者は,まず『サンセット大通り』(50)を想い出したが,懐かしのサイレント名画へのオマージュも多数鏤められている。
 ■『裏切りのサーカス』:この「サーカス」とは曲馬団でも円形広場でもなく,英国諜報部のことだ。原作は,実際にMI6局員の経歴を持つ英国人ミステリー作家ジョン・ル・カレの「Tinker Tailor Soldier Spy」で,諜報部員ジョージ・スマイリーを主人公とする人気シリーズの一作である。筆者も若い頃からかなりのミステリー・ファンであったが,どうもこのル・カレは好きになれなかった。物語の設定にリアリティはあるものの,スパイ間の駆け引き,心理戦が中心で,盛り上がりにかけるからだ。よって,映画として一気呵成の展開にならない怖れを感じていたが,本作はぎりぎりセーフの合格点であった。英国を代表する俳優陣の個性的な演技は見応えあり,プロットも水準以上だ。本作で,アカデミー賞主演男優賞候補となったゲイリー・オールドマンはといえば,悪くはないが,絶賛するほどでもない。この名優がこの役を演じれば,当然これくらいにはなる。
   
   
   
  (上記のうち,『テイク・シェルター』はO plus E誌には非掲載です)  
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