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O plus E 2019年Webページ専用記事#1
 
 
移動都市/モータル・エンジン』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給 )
      (C) Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月1日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2019年2月5日 東宝試写室(大阪)
       
   
 
アリータ:バトル・エンジェル』

(20世紀フォックス映画)

      (C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月22日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2019年2月4日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)]  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  ビッグネームが製作し,CG/VFX満載のSF大作が2本  
  ものすごいCG/VFX多用作2本がやって来る。それも,『ロード・オブ・ザ・リング (LOTR)』(01〜03)『ホビット』(12〜14)両シリーズのピーター・ジャクソン監督と,『タイタニック』(98年2月号)『アバター』(10年2月号)のジェームズ・キャメロン監督が手がけたSF大作だという。当欄にとっては,何をおいても語らなければならない作品だ。隔月刊の狭間で,本誌掲載できないのが残念だが,紙幅制限のないWebページ専用記事で,じっくり長めに解説することにしよう。
 配給会社も両監督の名前を表に出しているので,それぞれが監督した映画なのかと思っていたが,どちらも製作・脚本担当であり,監督は若手に任せている。とはいえ,ビッグネームのご両人ともにしっかり内容に関わっているようだ。この約15年間のVFX発展史を象徴し,かつ新しいトレンドへの転換点と感じられるので,その点を語っておきたい。共にCG/VFX主担当は,ニュージーランドのWeta Digital社であるので,同じ土俵の上で比較して論じることができる。
 
 
  15年超の実績を活かした大鑑巨砲主義のVFX  
  米国での公開順で,まずは英国の作家フィリップ・リーヴが2001年に発表した小説「移動都市 (Mortal Engines)」を原作にしたSFファンタジーからである。原作は「Hungry City Chronicles」シリーズの1作目であり,2006年までに続編3作が発刊されている。
 「移動都市」って何だろうと思ったが,秋口から登場していた予告編によると,文明が荒廃した未来で,ロンドンを蒸気機関で稼働する大きな移動式建造物にして,そこに人々が住めるようにしたらしい。EUからの離脱で迷走する英国は,ついに行き場をなくしてジプシーのように世界を徘徊するまでに成り果てたのかと思えてしまった。中国版の表題は『掠食城市』であり,小さな移動都市を捕食してリサイクルし,その住民を奴隷化することを指しているらしい。そーか,ついに英国はEU外の小国を食い物にしてしか生きて行けないように成り下がったのか……(笑)。
 監督は,これが初監督作品となる若手のクリスチャン・リヴァーズ。高校卒業後すぐにP・ジャクソン組に入り,これまで彼の監督作品でストーリーボード・アーティスト,VFXスーパバイザーを務め,『キング・コング』(06年1月号)でアカデミー賞視覚効果賞を受賞している。当然,何を見せてくれるのか,当欄からの期待は大であった。
 米国での公開は昨年の12月14日だったが,その興行成績を見て,少し驚いた。初公開週は当然1位だと予想されたのに,何と5位スタートであった。1億ドル超の製作費をかけたというのに,週末興収750万ドルでは辛い。IMDbの観客評価も高くないし,Rotten Tomatoesの批評家評点はたった27%である。自分が試写で本編を見終るまで他人の評そのものは絶対見ないことにしているが,興収ランキングは目に入ってくるので,気にならざるを得ない。一体,何がそこまで評価を下げたのか,当欄としては,それも考えながら本作をじっくり観ることにした。
 結論を先に言おう。Tomatometer 27%などという低い評価になるような映画ではない。4部作の1作目なので,色々な用語が出てきて,その世界観を理解するのが少し面倒だが,語り口は分かりやすく,物語展開には素直に付いて行ける。嫌われたとしたら,類似作品が多く,まとめてその不満の捌け口となったのではないか。約1ヶ月前に公開された『ファンタスティック・ビーストと黒い魔法使いの誕生』(18年11・12月号)もひたすら暗い作品だった。『LOTR』以来,同じような構図で,ただスケールだけ大きく見せかけた映画が多過ぎる。それでいて,原作の知名度が低く,監督がP・ジャクソンではない若手だというので、遠慮なく低評価を与えやすかったのではないかと思う。
 物語は,現在から100年後の2118年に「60分戦争」が勃発し,世界の大半は廃虚と化したという設定だ。残された希少な資源を,移動都市同士が弱肉強食で奪い合う戦いを続け,1600年後の3718年頃が舞台となる時代設定である。38世紀であるが,もうこれくらいの未来となると,25世紀でも,30世紀でも何も変わらない。問題は,相も変わらず荒廃した地球を描いた「ディストピア」ものの多さであり,映画ファンは辟易しているのではないかと想像した。
 主人公は,地上の支配者である巨大移動都市ロンドンに反旗を翻した孤高の少女へスター・ショウで,アイスランド出身のヘラ・ヒルマーがこの主役に抜擢されている。ポスター等では赤いスカーフで顔の下半分を隠しているので,ほぼ全編この姿かと思いきや,前半であっさりと脱ぎ捨てる。その下は醜い刀傷の残る顔で,以降はずっとそのままで登場する(写真1)。元が美形のせいか,意外と気にならず,次第に魅力的に見えてくる。彼女と恋に落ちるのは,ロンドン内で出会った歴史家見習いのトム・ナッツワーシー(ロバート・シーアン)で,原作小説の主人公はむしろ彼である。敵役は,世界の破綻をロンドンの指導者サディアス・ヴァレンタインで,『LOTR』シリーズで半エルフのエルロンド役であったヒューゴ・ウィーヴィングが演じている。P・ジャクソン組の常連であるが,余りに存在感のある典型的な悪役過ぎることが,この映画を新しく感じさせない原因の1つとも感じた。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 (上)顔の下半分を隠していたのは初めだけ,(下)醜い刀傷の跡は次第に見慣れてしまう
 
 
  以下,当欄の視点での低評価の原因分析と,それを撥ね除け擁護すべく,筆者が選んだ見どころの紹介である。
 ■ まずは映画冒頭で流れるユニバーサル映画のロゴ映像が,いつもの明るい地球ではなく,無惨に荒廃した姿だった。時々ある変則ロゴだが,本作では殊更これが気になった。続いて,巨大な建造物内部にある町が変形し,移動を開始するモードに入る様が描かれる。まるで『トランスフォーマー』シリーズのロボット戦士達の変身を観ているようだが,これを町全体でやるのだから少し驚く。これが移動都市ロンドンだということらしい。『ハウルの動く城』(04)の巨大版だと思っていたが,外観はそれを遥かに凌ぐ醜悪さだった(写真2)。その意味では。『レディ・プレイヤー1』(18年3・4月号)のコロンバス市街地にも『DESTINY 鎌倉ものがたり』(18年1月号)の「黄泉の国」にも似ている。頂上部にセントポール大聖堂があり,建物正面部にはユニオンジャック模様が描かれ,両脇にはトラファルガー広場のライオン(三越のライオンだとも言える)が鎮座している。とにかく巨大で,幅1,500m,奥行き2,500m,高さ860mでデザインされている。どうせなら,後部にはタワーブリッジやビッグベンも配して欲しかったところだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 移動都市ロンドンの威容。頂上にはセントポール大聖堂があり,
正面にはユニオンジャックが描かれ,両脇をトラファルガー広場のライオンが配されている。
 
 
  ■ この圧倒的な迫力のロンドンが,小移動都市を追いかけて荒野を疾走する様は,『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(15年7月号)を彷彿とさせてくれる。こうした数々の既視感は,偶然ではなく,意図的な演出だろう。原作の知名度が低いので,馴染みのあるシーンから始め,物語への関心を集めようとしたのかと受け取れる。ともあれ,オープニング・シーケンスは快調で,この巨大移動都市の描写に魅せられる。捕食される側の小さな昆虫都市も丁寧にデザインされていて(写真3),荒れ地を走る車輪の動きもきちんと計算されている(写真4)。公開されているメイキング映像で見ると,ほとんどがCG描写であり,実写パートの方が少ないと思えてしまう。巨大都市の通過後に残されたタイヤ跡もセットとCGの巧みな合成と思われる(写真5)
 
 
 
 
 
写真3 車輪で動く移動都市をしっかりとデザイン
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 小さな移動都市を追いかけて捕食するロンドン。
このチェイスの描写が生々しく,リアリティを感じる。
 
 
 
 
 
写真5 巨大都市の移動後に残された跡の描写が見事
 
 
  ■ 最も褒めるべきは,全編を通じての美術デザインの統一感である,ロンドンの外観や都市内部だけでなく,中盤以降に登場する空中都市エアヘイヴンの外観(写真6)と内部,赤い飛行船のジェニー・ハニヴァー号(写真7)も同じテイストでデザインされている。改めて,Weta Workshopの造形センスの良さを感じる。そのデザインを引き継いで,関連会社のWeta Digital社がCGで描写するのだから,呼吸がぴったり合っている。広大なシーン,激しいバトルシーンは人物以外,ほぼすべてCG/VFX描写だ(写真8)。いや,そうしたシーンの人物もかなりの部分はデジタル描写だろう。
 
 
 
 
 
写真6 空中に浮かぶ都市エアヘイヴン。これもいい出来だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 後半活躍するのは赤い飛行船のジェニー・ハニヴァー号
 
 
 
 
 
 
 
写真8 人物以外はほぼすべてCGで描写,いや人物もCGだ
 
 
   ■ 中盤までがそうであれば,ラストバトルはもっと大掛かりだと想像したが,予想通りだった。終盤,新たな狩り場を求めるロンドンは,高さ約1,800mの城壁に囲まれた静止都市シャングオを侵略しようとする(写真9)。この城壁を巡っての攻防は,『LOTR』シリーズを思い出す。『LOTR』3部作すべてでVFXスーパバイザーを務めたC・リヴァーズ監督にとっては,お手のものであり,同シリーズを上回る物量作戦で描いてみせている。この15年超のVFX技術の進歩を考えれば,これくらいは出来て当たり前に思えてしまう。大艦巨砲主義とも言えるこの描き方が,少し古く感じられてしまうのかも知れない。
 
 
 
 
 
写真9 右奥に見えるのが,静止都市シャングオの高さ1,800mの城壁
 
 
   ■ もう1点触れておかなければならないキャラクターがいる。倒れた兵士の身体と機械で作られた人造人間のシュライク(写真10)である。ちょっと『ターミネーター』シリーズのT-800の金属骨格に似ている。頭部も身体もCGで描かれているのだが,動きが滑らかなのは,俳優スティーヴン・ラングの挙動をWeta Digitalお得意のパフォーマンス・キャプチャして描いているからである。この単体を見れば,十分満足できる出来映えなのだが,次項の『アリータ:バトル・エンジェル』を観た目には,むしろもの足りなく感じてしまった。
 
 
 
 
 
写真10 へスターを育てた人造人間のシュライク。ターミネーターT-800の躯体を思い出す。
(C) Universal Pictures
 
 
   ■ 大笑いしたのは,38世紀の地球で古代神として祭られているご神体だ。ユニバーサル映画随一の人気キャラであるが,ここに登場するとは思いも寄らなかった(それが何かは,観てのお愉しみとしておこう)。この遊び心が全編で貫かれていれば,もっと楽しめる映画になっていたと,少し残念だ。 
 
  同じくダークな未来を描いたSFだが,映像は斬新  
  もう1本の『アリータ:バトル・エンジェル』の米国公開は『移動都市…』の2ヶ月後の今年2月14日だったが,本邦では逆に1週間早く公開される。公開日が近づくとともに,SNS等でもかなり盛り上がってきた。原作が我が国の木城ゆきと作画のコミック『銃夢(ガンム)』で,1990年から1995年まで「ビジネスジャンプ」に連載されたSF格闘漫画で,1993年にアニメ化されたという。これをあのジェームズ・キャメロンが実写映画化することを熱望し,20年来の計画がようやく実現されたというだけで大きな話題である。目下,2020年12月から年1作のペースで公開される『アバター2〜5』の4作を製作中であるため,本作のメガホンは『シン・シティ』シリーズのロバート・ロドリゲスに託したという。
 盛り上がりは,配給会社の話題作りゆえの現象だ。元来,コミック&アニメとしてはさほどのヒット作ではなく,筆者の周りの現役大学生に尋ねたら,誰もこの原作を知らなかった。1997年以降に誕生した学生にとっては,既に連載が終わっていて,年長者からの話題作という言い伝えもなかったようだ。筆者はと言えば,まず絶対に読まないジャンルの作品というか,むしろ大嫌いなジャンルに属する。その実写版をここで紹介するのは,ただただJ・キャメロンが手がけるからには,それなりのものがあるはずだとの確信からである。いやむしろ,信仰心ゆえだと言っても過言ではない。
 こちらも結論を先に言えば,その信仰心を裏切ることはなく,教祖様が製作した作品に外れはなかった。こちらもディストピアものであり,未来の暗い世界でのバトルには個人的興味は湧かないのだが,やはりSF映画の未来を感じさせる映像作品に仕上がっている。
 そのせいか,配給会社も気合いが入っていた。大阪での完成披露試写は,狭い試写室内ではなく,シネコンのIMAX スクリーンでの3D上映だった。驚いたのは,観客全員へのお土産として,主人公のキャラクター人形(写真11)が配られたことだ。クリアフォルダやシール程度は貰ったことはあるが,こんなのは初めてだ。デザインを担当したWeta Workshopブランドで売られているMade in New Zealand製品である。帰ってから調べたら,正規輸入品は5,980円もする(2日後,ヤフオクに2,900円で出品されていた)。『ボヘミアン・ラプソディ』(18年Web専用#5)の思いがけないメガヒットで大儲けした20世紀フォックス社は,そのご祝儀としての大盤振舞いのつもりか,2匹目の泥鰌を狙っての広報宣伝なのか……。意欲満々であることは感じられた。
 
 
 
 
 
写真11 Weta Workshop製のキャラクター人形が配られた
 
 
   閑話休題。本作の主人公は並外れた戦闘能力をもつ女性サイボーグのアリータである。時代は約500年後の世界で,地球上には天空に浮かぶユートピア都市「ザレム」と,そこから排出された廃棄物が堆積した屑鉄町の「アイアンシティ」の2つに分断されていた。その支配される側の町に住むサイバー医師のイド博士が,ある日屑鉄の山から,少女の頭部だけを見つけ出す。彼女はサイボーグであり,博士によって機械の身体を与えられる。やがて,自らが約300年前の没落戦争中に作られた「最強兵器」であることを知り,2つに分断された世界の秩序に立ち向かう……。
 CG製のアリータをパフォーマンス・キャプチャで演じるのは,ローサ・サラザール。脇役であるが,『ダイバージェントNEO』(15年10月号)『メイズ・ランナー2:砂漠の迷宮』(同11月号)『メイズ・ランナー:最期の迷宮』(18年5・6月号)に出演しているから,SFアクション映画の常連である。サイボーグの彼女と恋に落ちる若者ヒューゴ役に抜擢されたのは,キーアン・ジョンソン。これまではミュージカル舞台やTVドラマで活躍してきた有望株である。助演陣には,クリストフ・ヴァルツ,ジェニファー・コネリー,マハーシャラ・アリら,大スターの名前が並ぶ。てっきり,C・ヴァルツが敵役かと思ったが,意外なことに彼がアリータを見守るイド博士であり,J・コネリーがアリータを破壊しようとする悪役一味の1人だ。
 以下,当欄の観点での見どころの紹介である。
 ■ まず冒頭のファンファーレ付きのロゴ映像だが,こちらはダークな「26th CENTURY FOX」となっていて笑えた。まさに対抗意識丸出しの両作品である。本作では女性主人公の顔に傷はないが,公開されたスチル写真で話題になったのは,その目が異様に大きかったことである(写真12)。原作に忠実に大きくしたとのことだが,なるほど原作もこれくらいの大きさだ(写真13)。これはコミックやアニメでは標準的な大きさで,フルCGの『アナと雪の女王』(14年3月号)のエルサやアナはもっと大きい。ネット上で活躍するバーチャル・タレントもしかりだ。本作のアリータの目を大きく感じ,気味が悪いのは,髪や眼球や肌が余りにリアルであるためで,本物の人間の顔と比べてしまうのだろう。実物に近づいた時に感じる,所謂「不気味の谷(Uncanny Valley)」と呼ばれる現象である。
 
 
 
 
 
 
 
写真12 スチル写真で見ると,確かに異常に目が大きい
 
 
 
 
 
写真13 なるほど原作コミックでも大きいが,これくらいは当たり前
(C)木城ゆきと/講談社
 
 
   ■ 肌も唇もリアルであるためか,主演女優の顔で目だけ入れ替えているとの推測記事もあったが,それは全くの誤りである。写真14で分かるように,Facial Capture技術を駆使して,R・サラザールの顔の表情演技のデータをフルCGのアリータにマッピングしている。『LOTR』シリーズのゴラム,『アバター』のナヴィ族,『猿の惑星』シリーズのシーザー等の表情描写でも使われていた手法だが,本作のアリータはほぼ人間の顔であり,その見事な肌の質感表現ゆえに,目の大きさが気になる訳だ。CGデータにマッピングするなら,女優の実際の目の大きさは無関係なはずだが,演じるR・サラザールの目は普通よりかなり大きい。やはり,経験上その方が表情をより正確に写像しやすいのだろうか。それだけを考えるのなら,この役はアマンダ・セイフライドかエマ・ストーンの方が適役だったと思う。
 
 
 
 
 
写真14 『アバター』で実証済みのFacial Captureを利用。演じた女優の目も結構大きい。
 
 
   ■ アリータの身体はイド博士の機械の身体を与えられるので,全身がCG製である(写真15)。このボディ復元シーンがビジュアル的に良くできていて,見応えのあるシーケンスであった。こうしたボディを何度か変え,アクション・シーンをこなして行くにつれ,目の大きさは全く気にならなくなった(写真16)。カメラを引いた位置でのアクション・シーン中ではこれくらい大きな目の方が表情が読み取りやすく感じてしまう。加えて,次第に美形に感じるようになり,ヒューゴとのラブロマンスも自然に感じるようになる。この点でも,『移動都市…』とは好一対である。こういう表現ノウハウが蓄積され,演出上のプラスになるなら,本当に俳優の目や口だけを部分的にCGに差し替えることも頻繁に行われるようになるだろう。
 
 
 
 
 
 
 
写真15 博士によって,首から下は完全に新しいマシンに作り直された
 
 
 
 
 
 
 
写真16 アクションシーンが始まると,目の大きさは気にならず,かなり美形に見えてくる
 
 
   ■ CG/VFXの主担当がWeta Digitalであることは既に述べたが,『移動都市…』のように1社でほぼ丸ごと担当するのではなく,本作は副担当にFramestoreとDNEGの2社が配されていて,さらにRising Sun Picturesも参加している。この強力な制作体制から生み出させた最も魅力的なVFXシーンは,中盤に登場するモーターボールのシーンだ。原作の単行本3〜4巻に登場する格闘競技で,サーキット内で球を奪い合うバトルの様子が,J・キャメロンのお気に入りのようだ。スタジアムの威容もゲームの進行の描写も出色の出来映えである(写真17)。練りに練ったアクションデザインは,The Third Floor社によってしっかりプレビズされ,しかる後に本番撮影されている。ビデオゲームの進化は目を見張るばかりだが,「まだまだ大作映画のクライマックス・シーンには勝てない」「映画が最高峰で,ゲームは格下」と感じさせるシーンであり,本作を観て,ゲーマー達が目を見張ることだろう。
 
 
 
 
 
 
 
写真17 圧巻は大きな競技場でのモーターボールのシーン。ゲームファンの度肝を抜く大迫力。
 
 
   ■『移動都市…』のエアヘイヴンが外観だけなく,その内部も描かれているのに対して,本作の空中都市ザレ厶は下から見上げるだけで,この都市内の描写は全くない(写真18)。サイズ的には,ザレムの方が圧倒的に大きい設定となっている。下から見上げた描写は,異星人到来映画で描かれる巨大な宇宙船母船を思い出すが,まずまず平均的な出来映えだ。むしろこの空中都市からアイアンシティの描写が,壮大であり,映像的も新しさを感じる。何が新しく,何が魅力的なのかは上手く説明できないが,荒廃した都市であるはずのアイアンシティは,惚れ惚れとする出来映えだった(写真19)。アングルやカメラワークで,新しい時代の表現と感じてしまったからだろうか?
 
 
 
 
 
写真18 空中都市ザレムとそれを繋ぎ止めるための何本ものパイプライン
 
 
 
 
 
 
 
写真19 アイアンシティは荒廃した町なのに,なぜか魅力的に見える
 
 
   ■ 1つだけ欠点も指摘しておこう。敵対するハンター戦士たちは,各々独自の機械ボディを持ち,顔だけは実写俳優の顔を利用しているが,この顔の半数以上が不自然で,いかにも「取って付けたような顔」に見えてしまうことだ(写真20)。まだまだ改善の余地がある。一方,撮影・映像制作方法で驚いたのは,3D上映のためにStereo D社の「2D→3D変換」のFake 3Dを利用していたことだ。即ち,『アバター』で何度目かの3D映画ブームを巻き起こしたJ・キャメロンが,2台のカメラで撮影するReal 3D方式を捨て,擬似3Dの軍門に下ってしまったことを意味している。それだけ,Stereo D社の変換技術が優れており,もはやこれで十分と納得させられるレベルに達したからだとも言える。
 
 
 
 
 
 
 
写真20 顔だけがリアル過ぎるのが,少し気になった
(C) 2018 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
 
   ■ 本作は複数社体制とはいえ,Weta Digitalが同時期にこんなVFX大作を2本も手がけたことに感心する。『移動都市…』が『LOTR』以降15年の集大成的な感じであるのに対して,本作のVFXは,次の時代に繋がる胎動を感じさせてくれた。では,そこまで褒めておきながら,なぜ評価でないのかと言えば,それは『アバター2』以降にとっておきたかったからだ。個人的には,暗い未来ばかり描くことが不愉快で,もっと明るい未来を描いて欲しいとの想いも込めている。  
 
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