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O plus E誌 1998年2月号掲載
 
 
『タイタニック』
(20世紀フォックス/パラマウント映画)
 
(c) 1997 BY PARAMOUNT PICTURES AND TWENTIETH CENTURY FOX. ALL RIGHTS RESERVED.
       
         
         
     
   文句なしの超大作である。構想から5年,映画史上最高額の2億ドル(約260億円)の制作費をかけ,最新のディジタル技術を駆使しての上映時間,3時間9分である。正月映画でこれだけが入場料2,000円(他は1,800円)だが,元がかかっていると考えると割安だ。
 ハリウッドの大作主義にもほとほと飽きてきたと思ったが,同じ金をかけるのにもここまでくるとスゴイ。製作・監督・脚本は『ターミネーター2』『トゥルーライズ』のジェームス・キャメロン。彼のリアリティを求める完全主義が,実物大のタイタニック号をつくり,沈めることまでやってしまった。
 オリジナル設計図のコピーを入手して,長さが236m(本物は268m)の他は,幅も高さもほぼ原寸大のレプリカが製作された。船室の内装から,調度,カーペット,クリスタル・グラスにいたるまで,当時の模様を再現した。染料まで当時のものを復元したという。救命ボートももちろんタイタニック号と同じものを作り,ボートクルーへの操作方法を教え方まで真似た。何しろ半端ではない。
 そして,このレプリカを浮かべて沈没させるためだけのドックと巨大スタジオがメキシコに作られた。これだけで26億円かかっている。海底のシーンは,深海探査船をチャータし,片道2時間半かかる水深4000mの海底で水中ロケしたという。映画のためにそこまでやるのかと,ほとほと感心してしまう。さすがアメリカだ。ハリウッドだ。
 実物大のレプリカといっても,エンジンは積んでいないから海を航行できない。したがって,航海シーンや,それに関連して登場する船上の人物像はすべてCG映像である。この海面の描写は見事としかいいようがない。『ターミネーター2』の成功でディジタル合成の意義をいち早く証明したJ. キャメロンは,特撮スタジオ「デジタル・ドメイン社」を設立している。同社のもてる技術をフルに発揮したのがこの『タイタニック』である。このCGクリップのSIGGRAPH97 Electronic Theaterでの上映には,他の作品と比べてもひときわ拍手が大きかった。評者らと別の日の上映会では,観客はスタンディング・オベーションで大きな賞讃を贈ったという。これもアメリカならではのノリである。
 これだけ用意周到でありながら,いや,その完全主義ゆえに,予定の97年夏シーズンの封切りに間に合わず,クリスマス・シーズンまで公開が延期された。長さも25分縮められた。そのお陰で,アメリカで12月19日,日本で12月20日,時差を考えればほぼ同日公開ということになった。
 この間,11月1日からの東京国際映画祭で初上映されることになり,本国より先に日本で見せるのかという非難と不満の声も飛び出した。話題作りも満点に近い。日本での試写会も,11月8日午後の1回限りだった。この日は,岐阜での講演が入っていて,どうしても見に行けなかった。止むなく一般公開を待つしかなかった。となると,本号の締切りにギリギリである。冬休みで混雑具合が気になって,座席予約ができる日本劇場の特別席で観ることにした。生まれて初めてのスペシャル・シートである。(と併せて2人で6,000円。この付録を書くにも元手がかかっているのだ:-p)
 これだけの制作費と先端技術を投入しているが,大作にありがちなオールスター映画ではない。大スペクタクルのパニック映画でもない。ジャック(レオナルド・ディカプリオ)とローズ(ケイト・ウィンスレット)の激しいラブ・ストーリーである。
 そう聞かされて観てみたら,中盤から後半にかけては結構迫力のあるパニック映画に仕上がっている。船が2つに割け,沈没するまでのシーンは,まさにスペクタクル。ここだけでも観るに値する。それでいて,沈没後はまた悲しいラブ・ロマンスに戻る。そのバランスは絶妙である。
 フルCGの航海シーンは,事前知識のせいかすぐ見抜けたが,他の視覚効果がよく判らない。実写同志のディジタル合成もかなり手が込んでいるようだ。例えば,付写真1のうち,(a)は多様な合成が行われている。船は模型でディジタル処理を施され,背景はマット画,人物は手前の方が実写で,後の方はCGだという。あとは想像するしかない。完成した映画全体からすると,SFXの役割,中でもCGのウェイトはそう大きくない。それだけ実物大のタイタニック号の方が勝っている。
 やはり映画史に残る映画だろう。横長のシネスコサイズ一杯に復元されたタイタニック号の絵巻を,ビデオで観ては価値は半減するだろう。映画館で観てこそ,J. キャメロンの意図した世界に浸れるというものだ。  それにしても,こんな映画を作れるJ. キャメロンがつくづく羨ましい!
 
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Dr.SPIDER
 J. キャメロン監督は,ハイテクとヒューマン・ドラマの両立がやりたかったと語っていますが,成功していますね。R. ゼメキスの『フォレスト・ガンプ/一期一会』もいい映画だったけど,ヒューマン・ドラマの意味合いがだいぶ違うでしょう。

Yuko
こちらの方がずっと重厚ですね。先月の『メン・イン・ブラック』より好きです。
この悲しい恋の物語に涙しましたか。
それが,このシリーズをやっていると,細部に気を取られてストーリーは楽しんでいられないんです。仕事ですから(笑)。イルカやネズミはCGだな,傾いた船尾から滑り落ちる人はスタントマンで,真っさかさまに落ちるのはCG人間かな…なんて。
おー,さすがに目が肥えてきました。倒れる煙突もCGじゃなかったかな。SIGGRAPHで見た,やや不自然な船上のCGの人物像は,本編ではなかったことに気がつきましたか?
そういえば,どこへ行ったんでしょうね? あの時は,この程度か,まだあんまりリアルじゃないなと思いました。
CGキャラクタの動きを作っておいて,遠景の俯瞰シーンはこれを使い,近づくと実写の俳優に掏りかえたんでしょう。下敷きにするためのCG人間だったら,あれでいいわけです。
なるほど。確かにCGから実写(模型)へ,実写から実写へのつながりは見事でしたね。
ディジタル処理ゆえの技ですよ。
海底の沈没船のビデオ映像とレプリカの実写撮影とでは,カメラの種類やレンズの特性も違っているでしょうから,あんなにきれいに合わせ込めるのか不思議です。
そこは,ディジタル画像処理で幾何学的に歪めてから,両者を整合させることもできます。  
さすが,Dr.SPIDER(笑)。でも,あの海底シー ンは本物ですか? 明るく写りすぎていて,あれは水槽の中で撮ったように見えます。
本当に深海のタイタニックまで行ったみたいですよ。特注のカメラや,水圧に耐える照明システムまで新規開発したそうです。
第一級のCG技術がありながら,どうして海底まで行ったり,実物大の船まで作ったりするんでしょうか?
J. キャメロンは,やれるけどCGはまだ高すぎるといってますね。
船や調度に何十億円かけててもですか。
CGでも,1ショット10〜20万ドルだそうです。 それから,ブルーバックのクロマキー合成ばかりで演技するのは俳優にとっても辛いし,本当に同時代の船上にいると感じてこそ,素晴らしい演技力を引き出せるということのようです。
実際に沈んでゆく船の上で演じたのですから,演技もセリフも迫力はありましたね。
これまで,観客に見せる映像のリアリティ向上にディジタル技術が使われてきました。だけど,俳優が役に没入できる環境までトータルに考えると,CGばかりに頼っていられないということでしょう。これもまた進歩の一つなんだと思います。
 
   
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