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O plus E誌 2017年10月号掲載
 
 
猿の惑星:聖戦記
(グレート・ウォー)』
(20世紀フォックス映画)
      (C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月12日よりTOHOシネマズ日劇他全国ロードショー公開予定]   2017年8月28日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  新鮮味に欠ける続編だが,ドラマもVFXも一級品  
  リブートした新シリーズの3作目だ。猿たちを特殊メイクに頼らず,すべてCGで描いた本シリーズのレベルの高さは,過去2作『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(11年10月号) 『同:新世紀(ライジング)』(14年10月号)で論じた。毛並み,表情,動きのいずれをとっても,まさに職人技,芸術的と言えるレベルに仕上げてあり,VFX映画史に残る逸品であった。ドラマも重厚で,人間役の俳優の名演技を引き出している。本作もそのDNAを継承している。
 1968年に始まり,全5作品が製作された旧シリーズ以来,世界中に固定ファンがいるものの,アメコミもののような爆発的ヒットにはなっていない。もはや猿をCGで描くのも,猿が人間を支配する物語も当たり前と思われていて,新鮮味がないためだろうか。その意味では,前作に引き続き,リーダーのシーザーの指揮の下,猿と人間の戦いを描く本作は極めて地味だと言える。タイムラインが異なるので,同列には論じられないが,旧シリーズの4作目,5作目に当たる攻防を描いている。
 ぴったり3年毎の公開であるが,映画内での時代設定は,猿と人間との本格的戦闘開始から2年後だ。シーザー達は,森の奥深く,滝の裏側に秘密の砦を築いて身を潜めていたが,仲間の猿の密告により,冷酷非情な大佐が率いる軍の襲撃を受け,シーザーは妻と長男のブルーアイズを失う。彼は人間と戦いつつ,仲間を新たな安住の地へと移動させる策を選択するが,激しい怒りに燃え,自らは大佐への復讐の旅に出る……。
 ここでちょっと訂正しておきたい。サンフランシスコ郊外のミュアウッズの森は,シーザーの生まれ故郷であり,猿たちの棲息地であると思い込んでいた。よく考えたら,類人猿がいるのはアジアとアフリカだけであり,アメリカ大陸に猿は棲息していない。旧シリーズ第1作の衝撃のラストから,米国に猿が居ることを不思議に思わなくなっていた。前作を再点検すると,シーザーの呼びかけで,北米各地の動物園やサーカス,家庭内ペットの猿たちが集まったという。その後,繁殖が進んだとしても,写真1ほどの数に達するのかと思うが……。
 
 
 
 
 
写真1 前作から2年後,いよいよ全面戦争へ
 
 
  監督は,前作に引き続きマット・リーヴス。MoCapスーツを着てシーザーを演じるアンディ・サーキスを始め,モーリス,ロケット,コーネリア等の演者も続投なので,猿としての挙動は安定している(写真2)。新しい猿として,シエラ動物園にいた剽軽なチンパンジーの「バッド・エイプ」が加わる。癒し系の役どころだ。人間側では,敵役の大佐をウディ・ハレルソンが演じ,言葉を話せない少女ノバ役にアミア・ミラーが抜擢されている。オールド・ファンなら,この「ノバ」という名前が旧シリーズとの繋がりを暗示していることに気付くはずだ。
 
 
 
 
 
写真2 3作目ともなると,全く猿になり切った自然な演技に
 
 
  以下,CG/VFXを中心とした見どころである。
 ■ 冒頭シーケンスは,森の中での戦いから始まる。上からの俯瞰は3D演出効果を意識したものだろう。構図も戦いの描写も一級品だ。ただし,ステレオカメラでのリアル3Dでなく,本作から「2D→3D変換」を採用し,Stereo D とPrime Focusの2社が担当している。VFXの主担当は,従来通りWeta Digitalであり,プレビズはHalon Entaetainmentが担当している。
 ■ 主要な猿の演技は個別のパフォーマンス・キャプチャで収録し,その他大勢の猿の描写は蓄積されているDBから選んでの合成だろう。シーザーの表情は一段と深くなり,個人の憎悪,葛藤,聖戦の意味の重さが伝わってくる(写真3)。正に名演技だ。1人で敵の陣地に乗り込むシーザーの姿は,仁侠映画での健さんを彷彿とさせる。
 
 
 
 
 
 
 
写真3 怒り,悲しみ……,リーダーの苦悩が滲み出ている
 
 
 モーリスの補佐ぶりも名助演と言える。
 ■ CG/VFX技術も進化している。前作は雨中で,シーザーの顔面から滴り落ちる水滴の表現が絶品だったが,本作は雪の中での表現へと進化している(写真4)。屋外の雪の中でのパフォーマンス・キャプチャも成功させている(写真5)。最大の見ものは,終盤の大雪崩の見事な描写だ。雪原での雪の落下現象を相当観察して,CGでの描画に繋げたものと思われる。オランウータンのモーリスの体毛の描写も更に進化し,少女ノバと絡み合うシーンも印象的だった(写真6)。 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 前作は雨,本作は雪の描写がポイント
 
 
 
 
 
写真5 雪の中でのパフォーマンス・キャプチャ
 
 
 
 
 
 
 
写真6 モーリスと少女ノバの絡みも見どころの1つ
(C) 2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
 
  ■ 前半はロードムービー,後半は刑務所からの脱出劇として好い出来だった。その刑務所のデザインも秀逸だ。退化が始まっている人間の挙動が前作以上に醜悪であり,鳴り響くアメリカ国歌も滑稽に聞こえる。SF映画としての新鮮味はないが,ドラマとしてはシリーズ最高作だと評価しておきたい。さて,今後このシリーズはどうなるのだろう? シーザーの長男ブルーアイズは死んだが,次男コーネリアスは遺児として生き残った。    
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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