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O plus E 2019年Webページ専用記事#1
 
 
スパイダーマン:スパイダーバース』
(コロンビア映画 /SPE配給 )
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月8日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2019年1月31日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  鮮烈,斬新…,一見に値する新感覚のフルCGアニメ  
  あらすじやスチル写真を一瞥しただけの印象で中身まで決めつけてはいけないし,皆が絶賛している娯楽作品の場合は,やはりそれだけのことはある。もう20年近くも当欄で新作映画の紹介&評価をしておきながら,こんな当たり前のことを,本作で改めて思い知らされた。カンヌ等の映画祭の受賞作品は一部の批評家だけが褒めていることが多々あるが,CGアニメのような大衆向け作品で評価が高い(観客動員数ではない)場合,それなりの理由がある。
 あの「スパイダーマン」のCGアニメ版が公開されると知った時,大して期待しなかった。SWシリーズでは,CGアニメのスピンオフ作 『スター・ウォーズ/クローン・ウォーズ』(08年9月号)が作られ,そこそこの出来だったが,それは新3部作EP1〜EP3終了の3年後のことだった。一方,「スパイダーマン」は,マーベル・コミックから正規の配給権を得ているソニー・ピクチャーズで3度目のシリーズが始まり,まだその1作目『スパイダーマン:ホームカミング』(17年8月号)が作られたばかりである。それも,本家マーベル・スタジオが製作に関わり,『アベンジャーズ』シリーズとの相互乗り入れも果たしたというのに,何を今更アニメ版を……の感があったからである。まがい物と言わないまでも,どこかの弱小プロダクション製のかなり以前に作られたものを掘り出してきたのかと。
 ところが,堂々とSPEが「コロンビア映画」ブランド配給する新作だという。どうなっているんだ? 既に様々な映画祭で絶賛され,「スパイダーマン映画史上,最高傑作!」との評判だそうだ。映画宣伝に付き物の誇大表現で,少し割り引いたとしても,こりゃまともに観て,しっかり紹介せざるを得ないなと思い始めたところに,ゴールデングローブ賞まで受賞してしまった。驚いた。
 意気込んで出かけた試写会では,最初の10分間でノックアウトされた。何もかもが新しい。「参りました。当初の先入観は間違いでした」と,素直に認めるしかない出来映えだった。「鮮烈」「斬新」「快適」「新鮮」「峻烈」…,ピッタリくる言葉が出て来ないが。ともかく新しい。その要点は,多数のスパイダーマンが集結するという世界観と,今まで見たことのない新感覚の画調の2点である。順を追って説明しよう。
 本作の主人公は,NYのブルックリンに住む中学生のマイルス・モラレスで,例によって毒グモに噛まれて特殊能力を得る,ヒスパニック系の血も引いているという(写真1)。あれっ,「スパイダーマン」と言えば,高校生のピーター・パーカーなのに,彼はどうした? 本作では,26歳になったピーターが早々に重症を負い,マイルスに小型メモリスティックを託して死亡する。おやおや何たることと思っている矢先に,死んだはずのピーターが,中年のオヤジ姿で再登場する。時空が歪んで,別の次元(ユニバース)からやってきたピーター・パーカー(ピーターB)だそうだ。
 
 
 
 
 
写真1 ブルックリンに住む13歳の少年マイルス・モラレス。ヒスパニックの血も混じっている。
 
 
  マイルスが真のスパイダーマンとなるため,ピーターBの指導を受けているところに,また別の次元から「スパイダー・グウェン」「スパイダーマン・ノワール」「スパイダー・ハム」「少女ペニー・パーカーが操るSP//dr」が次々とやって来る(写真2)。何やら,「帰ってきたウルトラマン」「ウルトラセブン」「ウルトラマンタロウ」等が続々と登場した「ウルトラマン」シリーズを思い出す。各スパイダーマンはそれぞれ違った特殊能力をもち,見かけも全く違う。各々は既にマーベル・コミック誌上には派生作品シリーズで登場していたキャラだが,一堂に集結させたのは本作が初めてだそうだ。それだけでもワクワクする(写真3)
 
 
 
 
 
写真2 異次元世界のスパイダーマンの集結は,本作で初めて実現。右が女性のスパイダー・グウェン。
 
 
 
 
 
写真3 右からスパイダー・ハム,スパイダーマン・ノワール,ペニー・パーカー,メイ叔母さんの順。
ペニーが登場する場面は漫画映画風に描かれている。
 
 
  各々の登場場面では,別のタッチで描かれていて,スパイダー・ハムやペニー・パーカーは,全くの漫画調の2Dアニメだ。特筆すべきは,躍動感のある動きを見せるスパイダー・グウェンで,何とその正体はグウェン・ステイシーだった。『アメイジング・スパイダーマン』シリーズの2作で,エマ・ストーンが演じたピーター・パーカーの恋人である。『アメイジング・スパイダーマン2』(14年5月号)で死なせてしまったのを筆者も悲憤慷慨していたが,別次元の世界では女スパイダーマンとして活躍していた訳である。本作でも,誰もが魅せられしまう美少女として描かれている(写真4)
 
 
 
 
 
 
 
写真4 スパイダー・グウェンのマスクの下は,あのグウェン・ステイシーで,音楽やダンスが得意な美少女
 
 
  製作総指揮として本作の基本骨格を生み出したのはフィル・ロードとクリス・ミラーのコンビで,かつてSPE製の『くもりときどきミートボール』(09年10月号) を担当し,最近は『LEGO(R)ムービー』(14年4月号)を監督・脚本担当で成功させている。製作陣の中には,これまでの実写版『スパイダーマン』シリーズ6作に関わった人物の名前が何人かあり,ファン心理も心得ているようだ。メイ叔母さん,ピーターのもう1人の恋人メリー・ジェーンをしっかり登場させているし,お馴染みの悪役のグリーンゴブリン,ドクター・オクトパス,スコーピオン等々も姿を見せる。
 さて,「新感覚」と呼んだ画調であるが,以下で当欄の視点でから解説・評価しよう。
  ■一見して,全体がこれまでに見たどのフルCGアニメとも違うタッチだと感じる。少なくとも,ピクサー流でも,ドリームワークス流,イルミネーション・スタジオ流でもない。元がポリゴンベースの3D-CG技術であることは間違いないが,手書きアニメの要素の盛り込み方が違うようだ。まだその新手法を詳しく調査・分析できていないが,新しいアルゴリズムを開発して,意図的に本作を新しいテイストで描く方針を採ったようだ。製作は,勿論Sony Pictures Animationだが,技術的にはSony Pictures Imageworks (SPIW)が支えている。前述の『くもりときどき…』の他に,『サーフズ・アップ』(07年12月号)『アーサー・クリスマスの大冒険』(11)『モンスター・ホテル』(12年10月号)等のフルCGアニメも手がけているが,本作に関しては,SPIWが元々VFXスタジオであった経験が生きているように感じる。
 ■ まず,登場人物が極端にデフォルメされることなく,演じている俳優のルックスを生かしているように見える(写真5)。といっても,実写映像を意図的に絵画調に変換するToon Shadingを使っている訳ではない。CGレンダリング結果を,アーティスト達が手書きで磨きをかけたというが,そのCGデータの大半はMotion CaptureやFacial Captureを利用して作られていることだろう。ディズニー・アニメや和製アニメの主人公とも違うし,劇画の主人公とも違う。不思議な魅力の人物描写である。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 登場人物は,これまでのCGアニメとは全く違う新鮮なタッチで描かれている
 
 
   ■人物も背景も細かい網目模様をつけてザラザラ感があるように描かれている。コミックを描く際に利用するスクリーントーンのテイストを再現しているようだ。もはや最近のCGはNYの町など実写映画の背景に使えるほどリアルに描ける実力を備えているので,このザラザラ感がなければ実写映画と違わなくなってしまう。また,CGならいくらでもパンフォーカスにできるのに,遠景をぼかし,被写界深度がかなり浅いレンズを使ったかのように見せかけている。それを背景とした赤と青のスパイダーマンの挙動が生き生きと見える(写真6)
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真6 背景はザラザラしたタッチながら,かなりリアル。その中でのスパイダーアクションが冴え渡る。
 
 
  ■ 美的には,NYの町が殊更美しい。とりわけ,照明の使い方が巧みだ(写真7)。機材のデザインでは,敵役のキングピンが異次元との扉を開くために使おうとする「加速器」の造形が優れていた。映画のテンポも良く,アクションにも躍動感があり,新感覚の画調に見事にマッチしていた。クライマックスのバトルはダイナミックであり,それでいてくど過ぎず,好感がもてた(写真8)。これは3Dで観たかったのに,マスコミ試写が2D版だったのが残念だった。アカデミー賞長編アニメ賞は確実だろう。もう実写版「スパイダーマン」シリーズは不要で,この描き方で統一した方が良いとまで思えてきた。
 
 
 
 
 
 
 
写真7 夜のNYの描写が絶品。光の使い方が見事だ。
 
 
 
 
 
写真8 クライマックスのバトルもダイナミック。これは3Dで観たかった。
 
 
    ■ 本作の成功により,実写版マーベル・シネマテイック・ユニバース作品群は,飽きられ始めたら,次々と本作の画調でのCGアニメに転じてくると予想しておこう。このテイストで筆者が最も観たいのは「スーパーマン」である。DCコミックスのヒーローなので,SPIWがそこまで勢力を拡げるのは無理だろうか。  
 
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