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O plus E誌 2006年1月号掲載
 
 
キング・コング』
(ユニバーサル映画/UIP配給)
      (C)2005 Universal Studios  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月17日より日劇1&日劇3ほか全国東宝洋画系にて公開中 ]   2005年12月12日 東京国際フォーラム [ジャパンプレミア(東京)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  感嘆!デジタル技術はここまでの映像を作るのか!  
   まさに字幕翻訳家,評論家,興行主泣かせの映画だ。『キング・コング』といえば,映画史を飾る娯楽作品で,ハリウッド映画の象徴的存在だ。それを『ロード・オブ・ザ・リング』トリロジーで映画界の頂点に立ったピーター・ジャクソンがリメイクするとあっては,本欄としては外せる訳がない。早くから届いた予告編は,一見『ジュラシック・パーク 4』かと思わせるVFX 満載で興味をかき立てた(写真 1)。ところが,公開日が決まっても一向に完成披露試写を観る機会がなく,本号に間に合うのかとヤキモキさせてくれた。  
     
 
写真1 テレビCMでお馴染のシーンは,細部も凄い
(C)2005 Universal Studios.All Rights Reserved.
 
     
 

 東京以外での試写会は一切なければ,1週間前の先行上映もないという。米国で12月14日,日本で12月17日の公開に対して,ようやく12日に東京でのジャパンプレミア開催が決定したのが,ほんの数週間前だった。まだこの時点で上映時間は未決定だった。まさにギリギリまで編集していたことが分かる。
 かつてあれほど太っていたピーター・ジャクソン監督は,この映画の準備期間に大幅減量した。貴乃花も顔負けの激ヤセぶりだ。では,映画もスリムでクールなタッチかと思えば,長さも,映像のスケールも,娯楽映画としてのサービス度も,キング・コング並みの重量級だった。上映時間は長尺の3時間8分。その中に『ロード…』以上の VFX を駆使したスペクタクルを詰め込んだのだから,見応えがない訳がない。まさに,デジタル技術はここまでの映像を作り出すのかと,感嘆する出来映えだ。
 キャストは,キング・コングに見入られるお馴染みの絶叫ヒロインのアン・ダロウに,『ザ・リング』 (02) 『21 グラム』 (03) で存在感を示したナオミ・ワッツ。彼女に献身的愛を捧げる映画脚本家ジャック・ドリスコルを『戦場のピアニスト』 (02) でオスカーを得たエイドリアン・ブロディ,野心家の映画監督カール・デナムを『スクール・オブ・ロック』 (03) でブレイクしたロック・シンガーのジャック・ブラックが演じる。大物過ぎず,かつ個性的な良いキャスティングだ。
 時代は1930年代,史上最大の冒険映画を世に送り出すことを企む無謀な映画監督が,脚本家と1人の女優を従えて,危険な航海に出る決意をする。荒れ狂う波に運ばれて,彼らがたどりついた孤島「髑髏島」では……という物語は,1933年に作られた最初の『キング・コング』を完全に踏襲したリメイクだ。
 その初代『キング・コング』は,ストップ・モーション(コマ撮り)アニメの原点であり,当時最高峰の特殊効果技術を駆使した映画史に残る名作だ。9歳の時にこの映画を観たP・ジャクソン少年が映画監督になることを志したというから,このリメイクにかける意気込みは尋常ではない。1976年製作のリメイク作品では着ぐるみや機械仕掛けのキング・コングが登場するが,今回の3代目キング・コングは,言うまでもなくデジタル技術の結晶となっている。ゴリラの生態と動きを徹底的に調べ,しかる後にMoCapスーツを着てコングの動きを演じたのは,『ロード…』のゴラムを経験済みのアンディ・サーキスだ。以下,VFXに関する見どころである。
 ■ 冒頭から1930年代のニューヨークの街が登場し,一気にタイムスリップさせてくれる。(写真 2)だけ観ると『ALWAYS 三丁目の夕日』と互角の腕に見えるが,個々の動きが格段に違う。全く何が合成だか,ほとんど区別できない。

 
     
 
 
 
写真2 さて,どれが本物のクラシック・カーか?
(C)2005 Universal Studios.All Rights Reserved.
 
     
 

 ■ キング・コングは基本的にCG製でMoCapで動きを与え,ミニチュアで作った島やNYの街と合成され,そこにアンがさらに合成される。その表情は素晴らしく,目は生きている人間のようだ。
 ■ VFXはWeta Digital担当,模型はWeta Workshopの担当だ。腕そのものはILMとそう変わらない。それでいて,構図・カメラワークで新しさを感じるのは,G ・ルーカスと P ・ジャクソンのセンスの違いだろうか。ボートが髑髏島に着いた後,壁を越えて一気に飛翔するカメラワークや,NYのシアター内でジャックを追うキング・コングを捉えるアングルは,絵作りの天才だ。
 ■ 全編スペクタクルの連続だが,前半のクライマックスは,V- レックスとコングの対決シーンだ。写真1のように1:1の対決かと思ったら,この前に数匹のV- レックスとのバトルがある。その活躍ぶりは,まるでプロレスの英雄だ。かつての力道山を彷彿とさせる。多数の恐竜に囲まれて逃げ惑う一行や崖の合成シーンも出色だ。
 ■ マンハッタンのビル57,468棟だけでなく,クィーンズ,ブルックリン等の32,839棟もCGデータとして入力された。1930年代から残る建物も屋上風景が異なっている場合は,これを全部修正した。その結果,エンパイヤ・ステート・ビルの搭上から見下ろすNYの街は驚くばかりの映像だった。思わず身震いし,足がすくむ。
 ■ この映画は長過ぎる。2時間半に収めていれば,もっと小気味いい作品になっただろう。感嘆はするが,感動はない。評価は☆☆+にしたいところだが,このVFXを見せられると,本欄は☆☆☆にせざるを得ない。

 
 
          
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