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O plus E誌 2018年3・4月号掲載
 
 
ヴァレリアン
 千の惑星の救世主』
(キノフィルムズ配給 )
      (C) 2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月30日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2018年2月21日 東映試写室(大阪)
       
   
 
purasu
レディ・プレイヤー1』

(ワーナー・ブラザース映画 )

      (C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [4月20日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2018年3月13日 丸の内ピカデリー1[完成披露試写会(東京)]
2018年3月27日 GAGA試写室(大阪)
 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  盛り沢山で,欲張り過ぎの巨匠の2作品  
  2組目も上記2本に類したアドベンチャー大作である。この組の共通項は,無名監督の抜擢ではなく,リュック・ベッソン,スティーブン・スピルバーグという巨匠の手なるSF映画だという点だ。それぞれ原作があるが,それを圧倒的なスケール,騒々しいと感じるほど盛り沢山な内容で映画化していることも共通している。そのためか,それぞれ137分,140分と上映時間が長い。欲張り過ぎなのに,巨匠となると,誰も少し切って尺を短くしろとは言えなかっただけじゃないかと想像する。  
 
  とにかく騒々しい,メモを取り切れないほどのVFX  
  まずは数々のジャンルの作品を生み出して来たL・ベッソン監督だが,最新作は「バンド・デシネ」と呼ばれるフランス製のコミック本に基づいている。1967年に原案ピエール・クリスタン,作画ジャン=クロード・メジエールで週刊誌に掲載された「ヴァレリアン」がそれだ。週刊誌廃刊後も単行本として描き下ろしで刊行され,全21巻で,発行部数は累計250万部に及ぶ。
 時代は西暦2740年,宇宙の平和を守るために銀河をパトロールしている連邦捜査官ヴァレリアンが活躍する壮大な物語だという。あの『スター・ウォーズ』(77)も影響を受けた伝説の人気コミックとの触れ込みである。なるほど,10年前に連載は始まっていたようだが,斬新で凄い作品であったのかは疑わしい。1960年代のSF小説界では「スペースオペラ」は定番のネタで,少し厭きられ始めていたし,映画では『宇宙戦争』(53)がとっくに作られていた。我が国では,手塚治虫が宇宙を舞台とした漫画を,戦後すぐの1940年代から描いて,公表していた。発行部数も,現在の日本の人気コミックなら,累計が軽く1千万部を超えることは珍しくないので,上記の数は驚くような数字ではない。
 というネガティブな反応をしてみたが,時代も違えばコミック市場の大きさも違うので,一概に否定することはない。少なくとも,自ら脚本も書いたL・ベッソン監督は,大真面目でこのSF漫画をハリウッドに対抗するタマと考え,SWシリーズやマーベル作品に負けない映画に仕上げるつもりで臨んだと思われる。もっとも,監督やスタッフはフランス人だが,登場するのはハリウッド系の俳優が大半で,セリフはすべて英語だから,あまり欧州テイストは感じられなかった。
 主人公ヴァレリアンを演じるのは『ディーン,君がいた瞬間』(15)でJ・ディーンを演じたデイン・デハーン。なるほど,ルーク・スカイウォーカーに感じは似ている。相棒の女捜査官ローレリーヌ役は人気モデルのカーラ・デルヴィーニュで,既に映画も数作品に出演している。気の強そうな女性役がよく似合う。助演陣には,クライヴ・オーウェン,イーサン・ホーク,ジョン・グッドマンらのベテラン男優人が名を連ねている。
 物語展開は何しろ賑やかだ。砂漠の惑星ギリアンにある「ビッグマーケット」への潜入,そこから脱出して「千の惑星の都市」であるアルファ宇宙ステーションへ移動,今度はその歓楽街「天国横丁」への潜入,そして最深部にある「レッドゾーン」に辿り着き,銀河の危機を救うために戦う……。という盛り沢山だが,邪悪な陰謀を未然に防ぐという筋立ては単純そのものだ。全体はB級テイストで,ゲーマー向きにチューニングされている感じもする。様々な異星人が登場するので,メモを取る手も疲れてしまった。
 以下,当欄の視点での感想と論評である。
 ■ 物語がてんこ盛りであるので,その分,CG/VFXの使い方も派手だ。宇宙船イントルーダーは形状も飛翔するスタイルもミレニアム・ファルコン号に酷似している(写真1)。コミックでは動きまでは描けていなかったはずだから,本作ではむしろSWシリーズに敬意を表して,敢えてミレニアム・ファルコン号の動きを真似たのかと想像する。1人乗りのスカイジェットもどこかで見たデザインだ。さすがに「千の惑星の都市」というだけあって,アルファ宇宙ステーションは巨大で,外観はユニークであり,その内部の描写にも手が込んでいる(写真2)。物凄いポリゴン数だ。随所で,種々の情報機器や武器も登場するが,これにはあまり目新しさは感じなかった。
 
 
 
 
 
写真1 ヴァレリアンが操縦する宇宙船イントルーダーXB982
 
 
 
 
 
 
 
写真2 巨大なアルファ宇宙ステーション(上)とその歓楽街の「天国横丁」(下)
 
 
  ■ その一方で,銀河系の多種多様な生き物を描いたクリーチャー・デザインは好い出来だった。最初に登場するミュール変換器なる小動物が頗る可愛い(写真3)。その他,戦闘アンドロイドのK-トロン,多国語を操る情報屋トリオのドーガン=ダギーズ,強欲な宇宙海賊のアイゴン・サイラス,惑星ギリアンに棲む獰猛なモンスターのメガプトール等々,数え切れない(写真4)。これらがすべて原作コミックで描かれていたのなら,『スター・ウォーズ』に影響を与えたというのも誇張ではない。本作ではエイリアンのデザインをネット上で公募したという話も伝わって来ているので,どこまでが原作の世界観なのかは不明である。いずれにしても,どれも表情の描写が素晴らしいが,これは最近の技術のお陰だ。
 
 
 
 
 
写真3 これがミュール変換器の最後の一匹
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真4 上:情報屋トリオのドーガン=ダギーズ,中:宇宙海賊のアイゴン・サイラス,
下:6本足のメガプトール
 
 
  ■ 最も印象的だったのは,惑星ミュールから来たというパール人たちの描写である(写真5)。地球人の体形に近い,細身で白塗りの人種だが,幻想的で美しい。メイクだけであの個性的な眼は描けないだろうし,何人かの長い首や縊れた胴も地球人には見えない。フルCGの肢体ではないにしても,何体かはVFX加工し,MoCapデータを当て嵌めて描いたのかと想像する。CG/VFXの主担当はWeta Digitalで,副担当はILMとRodeo FX。他にHybride, Base FX等が参加している。  
 
 
 
 
 
 
写真5 異色の存在は惑星ミュールから来たパール人たち
(C) 2017 VALERIAN S.A.S. - TF1 FILMS PRODUCTION
 
 
  最新のネタを扱う巨匠のバイタリティに脱帽  
   こちらは巨匠中の巨匠,映画の生き字引とも言われるS・スピルバーグ監督の最新作である。前作の『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(17)がアカデミー賞の作品賞,主演女優賞にノミネートされ,日本公開は来たる3月30日で,本号の短評欄で紹介しているというのに,もう次の大作の登場である。製作総指揮でなく,このペースで自らメガホンをとるバイタリティに畏れ入る。実際には,本作の方が先に撮影を終了し,ポスプロにたっぷり時間をかけてVFX処理をしている間に,お得意の早撮りで『ペンタゴン…』を撮り終え,先に公開してしまったようだ。元々硬軟取り混ぜて,何でも描ける監督だが,公開順としては,極め付きの社会派ドラマの後に,飛び切り翔んでいるエンタメ大作をリリースしていることになる。流行のバーチャルリアリティを前面に打ち出し,映画とゲームがこれほど密にクロスオーバーした映画は過去になかったと言っても過言ではない。
 原題は『Ready Player One』で,原作は2011年に発表されたアーネスト・クライン著の同名のSF小説(邦訳本は『ゲームウォーズ』)である。時代は2045年,環境破壊と気候変動から地球上はスラム化するが,ジェームズ・ハリデーが開発した仮想空間「オアシス」を体験することで,人々は平穏に暮らしていた。オアシス内では自分の好みのアバターに変身して活動でき,いつでも現実空間に戻ることができる。ところが彼が死に,その厖大な遺産は彼の作ったゲームの勝者に与えられることが判明し,3つの鍵を求めて,仮想空間と現実空間の両方を巻き込んだ死闘が始まる。
 主人公の17歳の少年ウェイド・ワッツ役は,『X-MEN』シリーズでサイクロップスを演じていたタイ・シェリダン。ヒロインのサマンサ役には,英国の若手女優オリヴィア・クックが抜擢されている。助演陣ではマーク・ライランス,サイモン・ペッグ以外,余り著名な俳優は出演していない。本作の最大の特徴は,オアシス内に他の映画,コミック,ゲームの人気キャラや乗り物等が続々と登場することらしい。それを確認し,楽しむ映画であるから,俳優は二の次なのである。
 例えば,目玉は『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)のタイムマシン・カーであるデロリアン,『機動戦士ガンダム』(79)のモビル・スーツRX-78,『ロード・オブ・ザ・リング』(02年3月号)の魔法使いガンダルフ等々であるが,原作にはない最近のゲームのキャラも取り入れているというので,それを本編中から探し出すことが興味の的となっているようだ。実際,完成披露試写会で開演前に出会った若者は,ゲーム制作会社の社員なのだろうか,上司に何と何が登場するか見て来いと言われていたようだ。その半面,原作には登場するのに,スピルバーグ監督自身が生み出した『E. T.』(82)のエイリアンやインディ・ジョーンズは出て来ないという。「自分の映画を宣伝するのは,我田引水になるので」と遠慮したそうだが,巨匠のこの謙虚さは意外だった。
 そんな予備知識をもって臨んだ本作に対して,以下が当欄の感想とコメントである。
 ■ 舞台は,米国オハイオ州コロンバス。まず真っ先に「集合住宅(スタック)」なる奇妙な町の光景が現れ,少し驚く(写真6)。トレーラーハウスを何層も重ねた奇妙かつ雑然とした住宅地域である。どう見てもスラム化しているのに,これが成熟した未来都市だという。上階からパイプをつたって降りるシーンや地上部分はどう見ても実物セットだが,遠景の大半はCG製で実写との合成だろう。終盤の爆発シーンでそのことが如実に分かる(写真7)。どう見ても未来を感じない胡散臭い町なのだが,ドローンでピザを配達している等,妙なところで近未来はこうだと主張している。
 
 
 
 
 
写真6 舞台となる2045年のコロンバス市街地はこんな風景
 
 
 
 
 
写真7 終盤の爆発シーンで,VFXでしか描けないと分かる
 
 
   ■ 本作の悪役はIOI (Innovative Online Industries)なる巨大企業で,オアシスを乗っ取り,世界制覇する陰謀をもっている。この社名は,略称からはIBMを想像するし,流行語のIoT (Internet of Things)にも似ている。業種的にはGoogle,Facebook,Microsoftに近いのだが,それに近い名前では差し障るがあるので避けたのだろう。このIOI社の外観も内部も,ぐっとモダンかつ豪華で,スタックとは大違いだ。とりわけ,経営者ソレントのオフィスや,彼がオアシスへの出入りに使う「巨大な特製チェアOIR9400」は見ものだ。ここでも実物セットとCGの合成がふんだんに使われているようだ。
 ■ VR空間オアシス内には,分身であるアバターとして入る。いかにもゲームの登場キャラらしいルックスで,顔面に人工的な皮膚だと感じさせる描き方をしている(写真8)。仮想空間とアバターの関係や描き方をちょっと整理しておこう。アバターは分身,化身の意であるが,そのものを表題としたジェームズ・キャメロン監督の『アバター』(10年2月号)では,主人公のアバターが活動する世界は仮想空間ではなく,現実空間であった。それが地球から5光年離れた惑星ナヴィであり,ナヴィ族が地球人とは体躯が異なるためにCGで描かれていただけで,想定は現実空間であり,アバターもナヴィ族も互いを実体として知覚していた。これは,ほぼ同時期に公開された『サロゲート』(10年1月号)も同様である。技術的には,操作者が自らの分身のアンドロイドをマスタースレイブ方式で制御する「テレロボティックス」もしくは「テレプレゼンス(遠隔臨場感)」と呼ぶべきものである。一方,本作や上述の『ジュマンジ/ウェルカム・トゥ・ジャングル』は,現実には存在しない電子的な仮想世界に入り込む。原理的には,多人数で参加できるネットワーク・ゲーム空間と同じだ。その空間のリアリティが高く現実世界と区別できないほどか,いかにも人工的なCG世界なのかは,本質的な問題ではない。ただし,ジュマンジ世界には思いがけず魔法の力で吸い込まれ,オアシスは自分の意志でその空間に出入りできる。これは,映画演出上の違いに過ぎない。
 
 
 
 
 
 
 
写真8 オアシス内のアバターは少し人工的な感じで登場する。
   上:ウェイドの化身のパーシヴァル,下:サマンサの化身のアルテミス。
 
 
   ■ このオアシスの機能紹介や登場人物の紹介を兼ねて。最初の1時間,現実離れしたゲーム世界の描写が延々と続く(写真9)。これには参った。正直言って,筆者にはまるで面白くなかったが,根っからのゲーマーには受けるのだろう。ところどころで既視感のある場面があったから,名のあるビデオゲームの場面やキャラが登場していたのだろう。筆者とは同い年で既に古稀を迎えているというのに,こういう映画を撮れるS・スピルバーグ監督の気の若さに感心する。脱帽だ。やがて,少し落ち着いた物語展開で約40分,そして終盤の怒濤の40分へとなだれ込む。根っからのゲーマーだというが,それを考慮してもなお,バイタリティと集中力なくして,こんな映画は撮れない。
 
 
 
 
 
写真9 こんなゲーム風の場面が続々と現れる
 
 
   ■ オアシス体験で装着するゴーグル(HMD)は,結構小型だった(写真10)。約20年前のソニー・グラストロンを思い出す。最近のVRブームで話題のOculus Riftのようなゴツイ感じはない。全員同じ種類ではなく,プレイヤー毎の別デザインの物を着用しているのが少し嬉しかった。室内で複数人が並んでオアシス体験をしている場面があったが,この光景は1990代前半に米国のゲームセンターで見かけたVRアトラクション・コーナーに酷似している(写真11)。その他の情報機器は相変わらず透明ディスプレイ一辺倒だが,種類も形状も多彩であり,デザイン的にも悪くない。
 
 
 
 
 
写真10 ウェイドのゴーグルは小型軽量(前面が透明ならVRでなく,ARのはずなのだが)
 
 
 
 
 
写真11 四半世紀前,サンフランシスコのゲームセンターで見た光景にそっくりだ
 
 
   ■ 既知の人物や事物が登場する度に会場が湧き,笑いも聞こえた。その座席位置が違うことから,観客の年齢層で知識や好みがかなり異なっていることが分かる。映画ファンでなくてもキングコングやT-レックスは誰でも分かるだろうが,S・キューブリックの『シャイニング』(80)の双子が登場する場面で大笑いできるのは,かなりの年輩のファンだろう。アニメファンは『AKIRA』(88)のバイクに,ゲームオタクは「ストリート・ファイター」のヒロイン春麗の登場に感激したようだ。筆者の場合,やはりBTTFのデロリアン(写真12)とアイアン・ジャイアント(写真13)の登場が感涙ものであったことを白状しておこう。後者は2Dセル調アニメ『アイアン・ジャイアント』(99)の主人公であるが,本作ではしっかり3D-CGで描かれていて,終盤大活躍する。原作ではウルトラマンが重要な役割で登場するが,版権の関係で起用できず,その役割もアイアン・ジャイアントが演じたようだ。
 
 
 
 
 
写真12 あの懐かしのデロリアンは少し精悍になって登場
 
 
 
 
 
写真13 終盤のアイアン・ジャイアントの活躍は感涙もの
(C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED
 
 
   ■ CG/VFXの主担当はILMで,大半をほぼ1社でこなしている。最近,この老舗スタジオの受注量に多さは目を見張るものがある。主担当に拘らず,本号でも上記の『ヴァレリアン…』や『ジュマンジ…』の副担当に名を連ねている他,その他大勢の1社として,得意なシーンだけを受注している作品も少なくない。本作で印象的だったのは,プレビズに3社も参加していることだ。ILMの分家でプレビズ専業のThird Floorの参加は当然として,何と,他の2社はDigital DomainとFramestoreであった。大手VFXスタジオがプレビズ制作にも参加するということは,それだけプレビズの重要性が増しているという証拠であり,分量的にもプレビズ専業社だけでは賄いきれず,実力ある大手スタジオにこれを依頼することになったのだろう。  
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  (上記2作品は,O plus E誌掲載分を大幅に加筆し,画像も追加しています)  
   
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