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O plus E誌 2015年1月号掲載
 
 
ホビット 決戦のゆくえ』
(ニューライン・シネマ&MGM/ ワーナー・ブラザース映画配給 )
      (C) 2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月13日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2014年12月4日 なんばパークスシネマ[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  待望の完結編は,目新しさはないが,高い完成度  
  待ち遠しかった3部作の完結編が,ようやく出来上がった。既に前売券も売り出されていたというのに,公開は7月から12月にと,約5ヶ月も延びた。同時に,題名も『ゆきて帰りし物語 (There and Back Again)』から,『決戦のゆくえ(The Battle of the Five Armies)』に変更された。何とも冴えない邦題だ。「ゆくえ」と言っても,ホビットのビルボが組みするドワーフ達が最後の決戦に勝利して,領国を取り戻すに決まっているじゃないかと思うが,野暮な言いがかりは止めておこう。
 元々は,全体を一気に撮影し,前後編2部作とする予定だったのが,1作目の完成後に3部作とすることが発表され,追加撮影も行われている。前シリーズ『ロード・オブ・ザ・リング(以下,LOTR)』3部作と合わせて計6作である。ピーター・ジャクソン監督も,5作で終わるのが惜しくなって引き伸ばしたとすると,水増し分,中身はやや薄くなっているはずだ。あるいは,思い入れのある分,納得が行くまでじっくり編集し,ポスプロでVFXを描き加えたとなると,渾身の力作のはずである。どちらであるかは,観てのお愉しみだ。
 映画史上,LOTR3部作が果たした役割は大きい。完結編のアカデミー賞獲得は11部門で,『ベン・ハー』(59)や『タイタニック』(97)と歴代タイ記録である。男女優の演技部門では受賞どころか,ノミネートもないことを指摘する声もあるが,その分,美術や技術部門での評価が高かったということだ。とりわけ,視覚効果部門で3年連続受賞していることは,特筆に値する。大軍同士の戦いの描写や,カメラを引きながら塔の周りをグルっと回す斬新なカメラワークなどは,LOTR以降,当たり前のように利用されるようになった。ファンタジー小説を重厚なスペクタクル映画化する道を拓いただけでなく,映像制作の文法までも一変させたと言える。
 もう一つ挙げるとするなら,完結編の作り方である。躍動感溢れる,急き立てるような音楽に導かれながら,多くの登場人物を集結させ,怒濤のごとく一気呵成に大団円へと向かう。この演出は,大作シリーズの完結編の「お手本」となり,同じ手法をとる作品が増えた。
 では,本作も同じような終わり方をするのかと言えば,研究熱心なP・ジャクソンゆえ,多分,そのスタイルは採らないだろうと予想した。果たせるかな,この完結編はそんな一直線に結末に向かう展開ではなかった。人間のバルド,エルフのレゴラス,タウリエル,ドワーフのトーリン,キーリなど,主要登場人物1人ずつに活躍場面を与え,見せ場を作っている。終盤は原題通り,ドワーフ,エルフ,人間の三軍が,邪悪なオーク,ワーグ連合軍と対峙する「五軍の戦い」だが,延々とバトル・シーンが続いて退屈することは避けている。
 登場人物は,過去2作とほぼ同じであり,完結編で初めて登場する重要な役柄はない。特殊メイクやCGで登場するクリーチャー類もしかりで,目新しさはないが,いずれもクオリティ高く描かれている。以下,CG/VFXを中心とした,見どころとコメントである。
 ■前作のラストは,邪竜のスマウグが湖の町エスガロスを焼き尽くすと宣言して飛び去るシーンであった。その襲撃で町が炎に包まれるところから本作は始まる(写真1)。弓の達人バルドが鐘楼に上り,スマウグと戦い,遂に黒い矢で仕留める。この10数分のオープニング・シーケンスは,3D効果抜群であり,3D映画史上に残る名場面だと思う。終盤の戦いでは,足元の岩が崩れ落ちるシーンの立体感が優れていて,こちらも好い出来映えだ。第1作目の終盤は木製の渡り橋が舞台であったから,常に新しい工夫を取り入れようとしている。
 
 
 
 
 
写真1 ドラゴンが町を焼き尽くす迫力のオープニング
 
 
  ■ 多数の兵士が入り乱れて戦う戦闘シーンは,LOTRシリーズの最も得意とするところであったが,本作では少し違った見せ方を工夫している。もの凄い数の兵士が整列し,一糸乱れずに動く姿に圧倒される(写真2)。音響効果も巧みにマッチさせ,スケール感を出している。CGで描けばいくらでも増やせると分かっていても,この数は印象的だ。スケール感といえば,斜め上から俯瞰する視点の使い方の上手さは特筆に値し,ますます磨きがかかっていると感じた(写真3)
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 大軍の兵士の数は,このアングル(上)だと余り感じないが,この構図(下)だと圧倒される
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 斜め上から見下ろす鳥瞰視点の使い方が巧みで,3D効果も上々
 
 
  ■ 味方である大鷲も敵のオークも何度も登場しているが,本作では,戦士としてのオークの強さが印象的だ(写真4)。1対1の戦いでは,見かけによらず動きは敏捷であり,手にした武器の重量感も素晴らしかった。余談だが,完成披露試写会では,映画本編の前に,本作とタイアップして作られたニュージーランド航空の機内安全ビデオが付いていた。第1作目の時も存在したが,新作である。このPVに大鷲もオークも登場し,笑わせてくれる。劇場公開でも上映されるのか不明だが,YouTubeで見られるので,ファンにとっては要点検の一作だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 PV映像に登場するオークも,本編では敵役。動きも俊敏だ。
(C) 2014 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND METRO-GOLDWYN-MAYER PICTURES INC.
 
 
  ■ 最後まで高い満足度を与えてくれる作品だが,残念なことも記しておこう。本作では,トーリンを初めとするドワーフ達が小人に見えないシーンが散見される。単に縮小して合成するだけでは駄目で,これまで様々な工夫で頭身数も調整して来たのに,時間がなく,その作業を少し手抜きしたのだろうか。もう一つ贅沢を言っておくなら,シリーズ最終作なのだから,フロドやゴラムを少しだけでも登場させて欲しかった。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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