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O plus E誌 2011年6月号掲載
 
 
 
 
『アジャストメント』
(ユニバーサル映画
/東宝東和配給)
 
 
      (C) 2011 Universal Studios.

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [5月27日よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー公開予定]   2011年3月10日 TOHOシネマズ 梅田[完成披露試写会(大阪)]    
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  完成度は低くないのだが,もっと過激でもいい  
  原作はフィリップ・K・ディックのSF短編小説で.主演はマット・デイモンというと,「またか…」という読者も少なくないだろう。きちんと数えてはいないが,この数年で最も取り上げた作品数が多い俳優の1人に違いない。大ヒットした『ボーン・アイデンティティ』とその続編(02, 04, 07)は言うまでもなく,他の主演作だけでも,『ヒア アフター』(11年2月号)『グリーン・ゾーン』(10年5月号)『インビクタス/負けざる者たち』(同2月号)『インフォーマント!』(09年12月号)『グッド・シェパード』(07年10月号)『ブラザーズ・グリム』(05年11月号)を数える。重要な共演者としては『トゥルー・グリット』(11年3月号)『ディパーテッド』(07年2月号)『シリアナ』(06年2月号)や『オーシャンズXX』シリーズ(01, 04, 07)も思い出す。当欄はいずれも高評価を与えているので,作品にも恵まれているし,俳優として脂が乗り切った時期だとも言える。
 一方のフィリップ・K・ディック作品の映画化は,『ブレード・ランナー』(82)『トータル・リコール』(90)に始まり,『クローン』(01年11月号)を経て,『マイノリティ・リポート』(02年11月号)で頂点に達した後は,『スキャナー・ダークリー』(06年11月号)があるだけだ。印象の割に作品数はそう多くない。作品の出来不出来の差も大きい。奇抜な物語設定が映画人たちの創作意欲を掻き立てるのだろうが,完成度の高い作品にするのは容易ではない。翻案・脚色の巧みさと映像化の過程での力量が揃っていることが条件のようだ。
 さて,上記のような組み合わせとなった本作は,原題が『Adjustment Bureau』で,個々人には予め定められた運命があり,それを逸脱しないようにコントロールする「運命調整局」が存在しているという設定だ。原作小説の題「Adjustment Team」よりもランクアップして,大きな組織のような印象を与える。邦題はカタカナ題名でなく,「運命操作」の方が良かったかと思う。
 監督・脚本・製作のジョージ・ノルフィーは,これが監督デビュー作となるが,脚本家歴が長く,マット・デイモン関連では『オーシャンズ12』(04)の脚本,『ボーン・アルティメイタム』(08)の共同脚本を手がけている。マット・デイモンは,上院議員候補の若く野心的な政治家デヴィッド・ノリス役で登場する。運命を共にする女性エリース役には,『プラダを着た悪魔』(06年11月号)『ヴィクトリア女王 世紀の愛』(10年1月号)のエミリー・ブラントが起用されている。こちらも今が旬の活躍振りで,好きな女優の1人なのだが,どうもこの映画のヒロインとしてはしっくりこない。ここは,もっとぐっと可愛いタイプか清楚な感じがする女優の方が,一目惚れの相手役としては似合っていると感じた。
 時代は特に未来社会という訳ではなく,現代のニューヨークが舞台で,その裏側に人間の運命を操作できる超人的な管理機構がある。管理社会に反発して行動する主人公という点では,タッチもテンポも『イーグル・アイ』(08年11月号)に似ている。逃避行や危機を煽る音楽などが似ているからだろうが,本作の音楽はちょっと定番過ぎて,新味がないと感じた。
 予定に反して愛し合うことになった2人が,運命に逆らって逃げるシーンにはすっかり感情移入してしまい,一緒に走り出したくなる。らせん階段のシーンでは,目が回りそうになった(写真1)。この階段部分は実物だろうが,下を見下ろしたところなどは,デジタル処理の産物と見て取れた。市中や建物内を手に手をとって逃げるシーンでは目まぐるしく背景も変わるから,巧みにインビジブルVFXを駆使して背景を繋いでいるのだろう。ドアを開けたら,運命調整局が管理する空間だったというパターンが何ヶ所か登場する(写真2)。ここは,当然グリーンバックでの撮影だろうと想像がつく。
 
   
 
写真1 感情移入して観ていたら,目が回った
 
   
 
 
 
写真2 「どこでもドア」でなく,これが「思わぬドア」
 
   
   SF的な味付けの小道具は,ノート状の予定行動表示装置で,移動経路や合流点の表示等はそこそこ楽しめた(写真3)。表示面そのものを示すスチル写真がないのが残念だが,これはもっと斬新な表現にして欲しかったところだ。外観をiPad系の今風のデザインにしたり,ホログラム風の3D表示を駆使する等々である。ハリウッド・メジャー作品にしては,その点が物足りない。
 
   
 
 
 
写真3 ただのノート状でなく,もっと今風で良かった
(C) 2011 Universal Studios. ALL RIGHTS RESERVED.
 
   
   筆者が好きな作品ジャンルであり,完成度は低くないが,アクションは物足りなく感じた。マット・デイモンが主人公なら,ジェイソン・ボーン並みの敏捷性かそれ以上のパワフルさを期待してしまう。もはや中毒症状に近いが,それが娯楽作品に課された宿命だ。  
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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