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O plus E誌 2010年2月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』 :原作はミステリー界屈指の傑作だ。原作者の急逝により,さらに話題性が増している。それを知らないと,副題と恐そうな女性のポスターで,この映画には食指が動かないところだ。配給会社はもう少し宣伝方法を工夫すべきだが,年末恒例のミステリー本のランキングで高順位を得たので,一気に注目が集まるだろう。なるほど,それに相応しい骨太の構成で,鼻ピアスで天才ハッカーというヒロインの破天荒な人物設定も,体当たり演技で臨む主演女優も魅力的だ。2時間33分が全く長く感じない。スウェーデン製の映画だが,ここまでの良作を作れることにも驚いた。3部作の1作目だが,残り2作が待ち遠しく,原作本も全部読破したくなる。
 ■『ゴールデンスランバー』:原作は人気作家・伊坂幸太郎の小説で,題名はビートルズの楽曲にちなんでいる。こちらは,2009年度版「このミステリーがすごい!」の第1位,本屋大賞と山本周五郎賞受賞という輝かしい実績をもつが,最近この種の作品にコクがなく,作家の筆力低下も気になる。それでも,ケネディ大統領暗殺を模した首相暗殺事件を題材にした物語は結構面白かったので,映画で化けることを期待した。邦画としては平均点以上の出来映えだったが,もう少し予算をかけてスケールアップし,緊迫感があればと惜しまれる。主演の堺雅人をはじめ,香川照之,劇団ひとり,柄本明,伊東四朗といった助演陣も卒なくこなしているが,またかと感じる顔ぶれで,日本映画界の俳優層の薄さを感じてしまう。
 ■『おとうと』 :山田洋次監督10年振りの現代劇で,『男はつらいよ』とは逆の賢姉愚弟の物語だ。破天荒だが人情味溢れる愚かな弟(笑福亭鶴瓶)に,誰しも寅さんの姿を重ねてしまうに違いない。それを計算した上で,前半は随所で笑いを誘う軽快な語りだ。後半,終末医療や民間介護施設に話が及ぶと,『学校』シリーズさながらの山田流社会派ドラマに転じる。主演は『母べえ』(08)に続いて吉永小百合で,勿論,彼女を想定して書かれた脚本だ。山田映画ファンとしては,この賢姉役を倍賞千恵子で観たかった想いもある。そう思って途中から詳細に観察したが,どのシーンも倍賞千恵子で完璧に収まったはずだと感じた。
 ■『50歳の恋愛白書』 :美男美女(キアヌ・リーヴスとロビン・ライト・ペン)の素敵なポスターと少しときめきを感じる表題に,ジュリアン・ムーア,モニカ・ベルッチ,ウィノナ・ライダーという強力な助演女優陣。アーサー・ミラーの娘で作家のレベッカ・ミラーが,自分の小説を自ら脚色し,監督として映画化した作品である。大人の恋の物語としてかなり期待したのだが,筆者には全くついて行けない作品だった。美人であるが,この主人公に全く魅力を感じない。別の脚本家を起用して,別の視点から描けば,少しは面白くなったかも知れないという想いだけが残った。この物語が大好きというファンには,全くのゴメンナサイだ。
 ■『インビクタス/負けざる者たち』:C・イーストウッド監督の最新作。南ア共和国初の黒人大統領ネルソン・マンデラとラグビーのW杯優勝という取り合わせに驚いたが,政情安定化の陰にこんな物語があったとは……。マンデラ役にモーガン・フリーマンとは,誰が見てもそのものだが,前半は彼の寛容な心に胸を打たれる。この人物の伝記を読みたくなった。中盤までは,スポーツものにしては緊迫感が薄く物足りなかったが,決勝戦はきっちりと盛り上げてくれた。結果が分かっていても,手に汗握る描写で,さすがイーストウッドだ。スタジアムを埋め尽くす大観衆は勿論デジタル処理の産物で,今や当たり前の技法だが,これだけの分量を破綻なく描いたことを褒めておきたい。
 ■『交渉人 THE MOVIE』:米倉涼子主演のTVシリーズ初の劇場版で,TV版のスタッフが作ったというから,またまた安易な企画かと想像していた。頭脳戦の面白さでは,S・L・ジャクソンの『交渉人』(98)は勿論,『交渉人 真下正義』(05)にも叶うべくもないが,ハイジャック犯と闘う航空パニックものとしては結構良くできている。VFXシーンもふんだんに登場し,邦画としては平均水準以上だった。着陸後逆噴射しなかったり,上司の陣内孝則がすぐ駆けつけたり,矛盾だらけのご都合決着だが,物語の面白さが少々の欠点を吹き飛ばしてくれる。この髪型の米倉涼子はシャーリーズ・セロンに似ていて,ちょっと嬉しくなった。
 ■『人間失格』:太宰治生誕100年を記念して各社が代表作を映画化したが,その締め括りだ。完成披露試写会はぎっしり満員だった。お目当ては,主演の生田斗真のようだ。ジャニーズJr.の1人らしいが,全くこの俳優を知らなかった。監督の荒戸源次郎も知らなかったという。演劇畑出身のこの監督は,昭和10年代を見事に再現し,太宰の世界を若者向けに分かりやすく映像化している。欠点は,分かりやす過ぎることだろうか。筆者は,この映画を観て,改めて気恥ずかしさを覚える。学生時代,なぜこのような破滅型でナルシストの作家に傾倒したのか。年を経たいま,想い出すだけで恥ずかしい。青春の1ページ,若気の至りだった。  
   
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  (上記のうち,『50歳の恋愛白書』はO plus E誌には非掲載です)  
   
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