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O plus E誌 2010年1月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『キャピタリズム~マネーは踊る~』 :米国の銃社会を痛烈に批判し,返す刀でブッシュ再選を阻まんと現職大統領を徹底的にコケにし,続いて医療保険問題に切り込んだマイケル・ムーアが,今度は世界大不況を引き起こした巨大金融資本の拝金主義を俎上に載せる。例によって,強者を徹底批判し,社会的弱者の味方をする視点は同じで,お得意の突撃取材も健在である。貴重な映像や資料を開示し,問題の本質を掘り下げるジャーナリストとしての姿勢は一級だ。その半面,ウケを狙い,笑いを誘うシーンがどんどん増えている。それが,問題の重要性のアピールに逆効果ではないかと懸念する。なるほど観ていて楽しいが,彼の作品が米国社会でどの程度の影響力を持ち得ているのかが知りたくなった。
 ■『スノープリンス 禁じられた恋のメロディ』:絵が得意で,犬と暮らす貧しい少年という設定は和風「フランダースの犬」だが,少年・少女の瑞々しい恋物語は『小さな恋のメロディ』(71)も思い出させてくれる。いくら赤貧とはいえ,昭和11, 12年なら,生きて行きようはあったと思うのに,この時代にせざるを得なかったのは,現代から回想シーンとして遡れる限界だったからだろうか。脚本は『おくりびと』の小山薫堂,監督は『東京タワー オカンとボクと,時々,オトン』の松岡錠司。コミック,ゲーム,ケータイ小説が原作の映画が横行する中で,よくぞここまで健気で無垢な心の物語を映画にしたものだ。その企画に拍手だ。
 ■『THE 4TH KIND フォース・カインド』 :予告編でも本編の冒頭でも「かなり衝撃的な映像が含まれている」と脅し,「信じるかどうかは,あなた次第」と突き放す。映画は(何らかの方法で記録された)催眠療法の映像と俳優が演じて再現した映像を併置させたり,置き換えたりして進行する。ドキュメンタリーと考えて見るならかなり衝撃的であり,ホラー映画と考えれば異色だ。すべて真実の記録を映画的に少し誇張しただけか,記録フィルムは実在するが恣意的に編集したのか,それともすべてがフェイクなのか……。それを断定できる材料はないが,それがこの映画のツボだ。
 ■『よなよなペンギン』:日仏合作映画だが,制作の一部はタイでも行われた。日本アニメ界のビッグネーム・りんたろう監督が,初のフルCG作品に挑戦している。正直,2Dで描いたキャラの顔の3D-CG化は成功しているとは言えない。髪や衣服の動きも表現できていないので,まるで人形劇だ。それでも,海外のCGアニメにはない,ほのぼのとした映像を作り上げている。これに心温まる物語がマッチすることを期待したが,結果は残念だった。これでは大人も楽しめる映画ではなく,子供にしか通用しないレベルだ。日本のアニメは,どうしてこうも観客セグメントを狭くするのだろうか。
 ■『ヴィクトリア女王 世紀の愛』:英国で最長の王位在位期間を誇るヴィクトリア女王の若き日の愛の物語だ。映画化する以上,荘厳な建物や華麗な衣装の歴史絵巻であることは分かっているので,興味の的は,エリザベス1世ほどは馴染みのないこの女王を誰がどう演じるかだ。抜擢されたのは『プラダを着た悪魔』(06)で,主人公の先輩秘書を演じていたエミリー・ブラント。なかなか凛々しく威厳のある若き女王様だ。時折見せる表情が,現エリザベス女王に少し似ているのが嬉しい。それにしても,英国の貴族や政治家達は,どの時代にも政争に明け暮れていたのかと呆れる。
 ■『釣りバカ日誌20 ファイナル』:スペシャルの2作も加えて,22年間で22作品,人気シリーズもこれで打ち止めだ。『男はつらいよ』との併映の初期は,筆者も欠かさず映画館まで足を運んだものだ。相変わらず他愛もないストーリーだが,この映画はそれでいい。ハマちゃん(西田敏行)とスーさん(三國連太郎)の名コンビの掛け合いも,スーさんが86歳の高齢とあってはさすがにキレがない。ここらが潮時だ。さて一体どんな大団円で締めるのかと思ったが,なるほどファン必見のファイナルに相応しい幕引きだ。お疲れさま。
 ■『今度は愛妻家』:自堕落で身勝手な夫・俊介(豊川悦司)と健気で献身的な妻・さくら(薬師丸ひろ子)が織りなす夫婦ドラマ。映画の中盤,さくらが離婚宣言をして家を出て行く場面で,世の亭主族は我が身を振り返って慌てるはずだ。この映画は,そこから全く予想もつかなかった驚きの展開となる。舞台劇の映画化だが,達者な脚本,見事な演出だ。サブストーリーの若い男女の恋物語もいいが,強面の石橋蓮司が演じるオカマの文ちゃんが絶品だ。エンディング前のクリスマス・ツリーとケーキのキャンドルが美しく,井上陽水の主題歌も心に滲みる。残念なのは,この映画がクリスマス前の公開でなかったことだ。  
 ■『板尾創路の脱獄王』:熱狂的ファンをもつ奇才とのことだが,これまでこの監督の名前は知らなかった。全編に登場する囚人役の主演俳優も,見たことがなかった。彼が監督・脚本の板尾創路(いたおいつじ)で,吉本系の芸人らしい。セリフは一言もなく,なぜか独房内で中村雅俊の「ふれあい」を1曲歌うだけ。これが下手くそで,全く意味不明だ。潜水艦ものと同様,脱獄ものは手に汗握る名作が多いが,この映画もそこそこ面白い。最後にすべての謎は解け,オチも笑える。  
 ■『オーシャンズ』:『コーラス』の名優ジャック・ペランが製作・監督した海洋生物の生態を描いた一大ドキュメンタリーだ。『WATARIDORI』(01)では鳥と並走する飛行撮影を見せてくれたが,今度はもっとすごい。これはホントに実写か,CGじゃないのかと疑うような,驚くべきアングルからの映像のオンパレードだ。それもそのはず,最新技術を駆使した新しい撮影システムがいくつも導入されている。通常の自然もの,動物ものにはない大胆なカット割りやカメラワークも大きな魅力だ。当欄はこの種の映像に評点が甘いと言われるが,かけた手間と入場料を払って観る価値のある映像かと考えたら,当然のことだ。
 ■『サヨナライツカ』:『私の頭の中の消しゴム』のイ・ジェハン監督の要請で12年ぶりに映画主演した中山美穂は,相変わらず美しかった。名門オリエンタル・ホテルをはじめとするバンコックの景観は,観光映画として合格点だ。あとは,ただの退屈な男女の恋物語に過ぎない。感情移入できない時,他人の目から見たら,こんな男女関係は滑稽にしか映らない。まさか,それを伝えたくて撮った映画ではないだろうが……。  
 
   
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