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O plus E誌 2010年5月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■『カケラ』 :満たされない大学生活を送る女子学生ハル(満島ひかり)と,ユニークでちょっとミステリアスなメディカルアーティストのリコ(中村映里子)の友情以上恋愛未満の微妙な関係を描く。監督・脚本は弱冠26歳の安藤モモ子で,奥田瑛二の長女だという。なるほど,この女性2人の心情は,女性監督にしか描けないヴィヴィッドな描写だ。前半の素晴らしい物語展開に,これは締め括り方が難しいぞと思って観ていたが,案の定,後半はダレた。まだ脚本の練り方が未熟だと言わざるを得ない。それでも,この監督の作品は今後要チェックだと思わせる何かがあった。見守ろう。
 ■『オーケストラ!』:中年ロシア人の元天才指揮者が,昔の楽団仲間を集めてパリ公演を成功させようと奮闘する音楽映画だ。もっと格調高い作品かと思ったら,前半は寄せ集めオーケストラが巻き起こすコメディで,音楽シーンも殆ど登場しない。中だるみ時に不覚にも睡魔に襲われかけたら,中盤に登場するヒロインのあまりの美しさに目が覚めた。『イングロリアス・バスターズ』(09年11月号) でブレイクしたメラニー・ロランだった。本作の方が格段に美しい。後半,物語は引き締まり,最後の20余分は圧巻だ。12分にアレンジしたというチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲の美しい音色が,会場一杯に響き渡る感動のフィナーレだ。
 ■『てぃだかんかん』 :サンゴの移植産卵に世界で初めて成功した金城浩二氏の実話を基にした夫婦愛の物語。実在の夫婦は知らないが,夫・健司を演じるナインティナインの岡村隆史の下品な猿顔と健気でしっかり者の妻・由莉役の松雪泰子とが,どう見ても釣り合わない。話自体は感動系の物語なのだが,あまりに薄っぺらな演技と素人の学芸会レベルのセリフには参った。この監督は,「素朴」と「幼稚」「拙劣」を取り違えているのではないか? 岡村隆史の天然ぶりを際立たせたいなら,友人や子供たちにはもう少しましな演技をさせ,脇を固めるべきだろう。これで入場料をとるなら,観客を舐めている。唯一の救いは,エンドロールに流れる山下達郎の主題歌だけだった。
 ■『プレシャス』:40以上の映画祭で受賞を果たし,アカデミー賞でも2部門でオスカーを得た話題作だ。何という悲惨な人生だ。実父と義理の父に妊娠させられ,2児を出産したという16歳の少女プレシャスが主人公である。家庭内ではろくでなしの母親から虐待を受け,さらに衝撃の宣告が彼女を待っていた……。奇跡の人間ドラマ,人生を力強く生きる希望に満ちた感動の物語というが,本当にそうか? 私はこの主人公の運命を正視できない。彼女にかける言葉はない。代替学校の教師や友人のように,彼女を見守る自信はない。ここまで苛酷な状況を描く必要はあったのか,甚だ疑問だ。
 ■『アーサーと魔王マルタザールの逆襲』:リュック・ベッソン監督によるファンタジー・アドベンチャー『アーサーとミニモイの不思議な国』(07年9月号)の続編で,3部作の2作目に当たる。体長2mmのミニモイ族をCGで描き,実写と合成するのも,まるで人形劇かと思わせる質感も前作と同じだ。独特の映像表現も2作目となると,新鮮さを感じない。とてもキュートで魅力的だった王女セレニアは,少し大人になった設定のためか,魅力が半減した。何よりもつまらないのは,安易な続編の物語だろう。ようやく面白くなりかけたところで,以下3作目の最終編へ,となってしまう。仏国製の映画のはずだが,立派にラジー賞候補だ。
 ■『運命のボタン』:原題は『The Box』で,その原作小説は「Button, Button」だが,この邦訳の方がずっといい。ボタンを押すと大金が手に入るが,他人が死ぬという選択を迫られた時,人はどう振る舞うか,興味深いテーマを描くスリラーだ。ネタバレになるので詳しくは書けないが,中盤以降,物語は予想外の展開を見せる。SFやホラーの趣きもある。異能作家リチャード・マシスンの短編小説が原作だが,結末が違っている。あまり愉快ではない,実に不条理な結末だ。主演はキャメロン・ディアスで,最近演技派として存在感を増しつつあるのが,救いというべきだろうか。
 ■『グリーン・ゾーン』:『ボーン・スプレマシー』『ボーン・アルティメイタム』のポール・グリーングラス監督が,マット・デイモンと3度目のタッグを組むサスペンス・アクション。イラク戦争開戦直後のバグダッドが舞台で,大量破壊兵器の所在を探る極秘任務がテーマだ。中東を舞台にした作戦行動の緊迫感・臨場感は『キングダム/見えざる敵』(07)や『ハート・ロッカー』(09)に匹敵し,後半の畳み込むような展開,チェイスシーンの迫力は『ボーン……』シリーズを彷彿とさせる。政治的メッセージは薄いが,エンターテインメントとしては極上の部類に入るだろう。  
 ■『パリより愛をこめて』:とにかく騒々しい映画だ。題名は『007/ロシアより愛をこめて』(63)のもじりだとすぐ分かるように,様々なスパイ映画へのオマージュがぎっしりと詰まっている。前半はやたら銃を乱射する乱暴さに辟易し,ジョン・トラヴォルタとジョナサン・リス・マイヤーズの諜報員コンビもアンバランスに感じる。ところが,感覚が麻痺してくるのか,中盤以降ぐんぐん面白くなり,名コンビに見えてくる。猛烈なカーチェイスまで,心地よく感じる。原案リュック・ベッソン,『96時間』(09)のピエール・モレル監督のコンビによるこの映画は,『TAXi』『トランスポーター』両シリーズのファンなら楽しめるはずだ。
 ■『パーマネント野ばら』:西原理恵子作の同名の恋愛漫画を映画化した作品で,大人の女性の切ない恋心をたくましく,楽しく描く。小さな海辺の町に育った男運のない3人の女性を,菅野美穂,小池栄子,池脇千鶴が演じるが,この3人の描き分けは,なかなか興味深い。彼女らを取り巻く,熟年女性たちの明け透けな会話も楽しい。人間模様の描写はよくできていると思いつつも,都会派の女性たちが無理に田舎育ちの女性を演じていると感じてしまうのが,この映画の限界だろうか。終盤からエンディングにかけて,もう少し盛り上げて欲しかったのに,その処理が少し淡泊だと感じた。
 ■『春との旅』:良くできた脚本だ。足が不自由な老人(仲代達矢)が職を失った孫娘を連れ,居候先を求めて疎遠だった親族を訪ね歩く様を,ロードムービー仕立てで描く。監督・脚本は小林政広。練りに練ったセリフの数々が,大滝秀治・淡島千景・柄本明といった名助演陣とのやり取りの中で飛び出してくる。物語に沿って順撮りした効果は,祖父と孫娘が蕎麦をすするクライマックスの名場面に繋がっている。出演俳優の名をゆっくり1人ずつ刻むエンドロールも,名場面を振り返るのに最適だ。それにしても,名優・仲代達矢と堂々と渡り合った徳永えりはすごい。18歳の素朴な田舎娘がガニ股で歩く姿が,とても印象的だった。
 ■『京都太秦物語』:山田洋次監督が客員教授を務める立命館大学の学生22名と共に創り上げた作品。かつて東洋のハリウッドと言われた京都・太秦の地への想い入れたっぷりで,「大映通り商店街」の店主たちが実名で重要な役どころを演じているのが話題だ。山田監督は,本当は柴又帝釈天参道の商店街を舞台に,これをやりたかったのではないかと想像する。教育目的ゆえに,物語は単純平易で,劇場映画としては少し物足りないが,山田作品のエッセンスは詰まっている。エンディングは,朝の京福電鉄・帷子ノ辻駅での若い2人のシーンだ。夜の柴又駅のホームで寅さんとマドンナが別れるシーンとは対照的で,明日への希望に満ちている。  
   
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