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O plus E誌 2007年10月号掲載
 
 
キングダム/
見えざる敵
(ユニバーサル映画 /UIP配給)
         
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月13日よりスバル座ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2007年8月29日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
   
 
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グッド・シェパード』
(ユニバーサル映画 /東宝東和配給)
      (C) 2007 UNIVERSAL STUDIOS  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月20日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開予定]   2007年8月30日 リサイタルホール[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  国際政治を背景にした動と静の対照的な2作品  
    国際政治上の大事件を背景にした対照的な2本を比較して紹介しよう。1本は,9.11以降の中東を巡る複雑な政治情勢の下で,サウジアラビアでテロリスト集団を追う4人のFBI特別チームの映画『キングダム/見えざる敵』で,もう一方は,1961年の米軍のピッグス湾侵攻に端を発するキューバ危機を中心として,CIAの設立に関わった男の半生を描く『グッド・シェパード』だ。前者は全編に溢れる緊張感と強烈なアクションがウリで,後者はゆったりしたドラマらしいドラマである。どちらもユニバーサル映画の作品だが,米国での公開時期も日本での配給会社も違う。まさに動と静の対比だが,それでいて大きな共通点がある。徹底したリアリズムの追求がそれだ。
 『キングダム/見えざる敵』は,『ヒート』(95)『インサイダー』(99)の社会派監督マイケル・マンが,『コラテラル』(04年11月号)『マイアミ・バイス』(06年9月号)のジェイミー・フォックスを三たび起用した意欲作というので大いに期待した。「この10年間のCNNヘッドラインニュースの裏側を見せる映画」という触れ込みである。
 サウジアラビアの首都リヤドの外国人居住区でアルカイダによる自爆テロが勃発し,死傷者は300名に及んだ。この中に米国FBI職員が含まれていたことから,FBI捜査官ロナルド・フルーリー(J・フォックス)は,4人の精鋭チームを結成して同地に乗り込み,5日間という限られた時間内で,テロの首謀者と目されるアブ・ハサムを追う……。
 実話ではないが,9.11以降の緊迫した国際関係の中で起きた複数のテロ事件を参考に構成されている。「キングダム(王国)」とは,サウジアラビアのこと。1930年代に大規模油田が発見されて以降,アメリカとは特別な関係を築いてきたイスラム世界の盟主は,オサマ・ビンラディンを生んだように,近年反米運動も盛んで,国内は極度の緊張状態にある。そんな中での他所者FBIの捜査が一筋縄では行かないことはすぐに分かるが,イスラム社会の様子,特捜チームの苛立ちがきめ細かに描かれている(実際の撮影は,アラブ首長国連邦で行なわれたらしいが)。前半は比較的淡々としていながら,政治的背景の理解と目まぐるしい状況変化に,4人の性格付けもよく分からなかった。
 中盤以降,特に最後の30分で,この映画は全く別の顔を見せる。凄まじい銃撃戦の大迫力に,前半の苛立ちも吹っ飛んでしまう。とにかく息もつかせぬ展開とはこのことだ。生死の境で敵を追う主人公に,観客が感情移入できるようにするには,これくらいの手荒な描写が必要なのだろう。マイケル・マンにしては激し過ぎると思ったら,彼は製作だけで,この映画の監督は子分のピーター・バーグだった。この監督の作品は初めてだが,マイケル・マンが選ぶだけのことはある。
 この映画のCG/VFX担当はRhythm & Hues社だが,あまり大きな役割は果たしていない。転倒と撃破を含む激しいカー・アクションの一部はVFXで強化したものだろう(写真1)。迫撃砲の砲弾が迫って来るシーンもCGだろう。それは抗争やテロの描写のリアリティの一部に過ぎない。
 全体として良くできた脚本で,人物描写のリアリティも高い。そうでありながら,4人のFBI捜査官がこんなに現地人を撃ちまくっていいのかという思いがよぎる。アルカイダ制圧は彼らの悲願なのだろうが,この一点にアメリカの身勝手さが表われている。首謀者である祖父を殺された少年の言葉に,この映画のメッセージが込められているのだと思うのだが,全面支援はできない。
 
     
  OBや専門家が絶賛する物語のリアリズム  
   もう1本の『グッド・シェパード』は,2度のオスカーに輝く名優ロバート・デ・ニーロが,13年ぶりにメガホンを取る監督第2作である。長年,CIAを実体を描く映画をと構想していたところ,『フォレスト・ガンプ/一期一会』(94)『インサイダー』(99)の名脚本家エリック・ロスの脚本に出会い,1人の諜報員の人生を通して,CIAの成り立ちと裏側を描くことになったようだ。
 主人公エドワード・ウィルソンを演じるのは,『リプリー』(00年7月号)『ディパーテッド』(07年2月号)のマット・デイモン。CIA諜報員といっても,ジャック・ライアンのようなヒーローではない。生真面目な能吏で,冷徹で有能なエリートの役にはピッタリのキャスティングだ。上院議員の娘で,エドワードとの無味乾燥な結婚生活に疲れを覚える妻クローバー役には,『トゥームレイダー』(01年9月号)『アレキサンダー』(05年2月号)のアンジェリーナ・ジョリーを配した。派手な顔立ちの彼女にしては,少し地味な役柄だ。助演陣は,ウィリアム・ハート,ジョン・タトゥーロ,アレック・ボールドウィン,マイケル・ガンボン,ジョー・ペシといった名のある脇役揃いで,デ・ニーロ監督自身もエドワードをOSS(戦略事務局)とCIAに勧誘するサリヴァン将軍役で登場する。
 物語は,1961年のピッグス湾侵攻作戦の失敗からキューバ危機を経て,米ソ本格的冷戦時代への突入の歴史を正確に刻むとともに,エドワードがイェール大学に在学中からOSSにスカウトされ,欧州に赴任,帰国後CIAに組み込まれて行く回顧シーンとが行きつ戻りつして描かれる。2時間47分の長尺だが,飽きることなく,じっくりとドラマの展開を楽しむことができる。『キングダム』とは全く対照的な描き方だ。時代も場所も全く違うのに,『ゴッド・ファーザー』三部作を思い出してしまった。製作総指揮にフランシス・コッポラの名があったためだろうか。いや,この行きつ戻りつの描き方自体が,デ・ニーロ監督が出演した『ゴッド・ファーザーPART II 』(74)の手法を意識して踏襲しているからだろう。
 この映画も後半の盛り上げ方が上手い。主人公は実在の人物ではないが,モデルは存在していて,そこに複数の人物像を加味したらしい。製作に当たっては,アメリカ国連大使やCIAのOBがアドバイザとして参加している。その彼らが「この特別な時代のまぎれもない真実をリアルに捉えている」と賞賛しているのだから,これまで知り得なかったCIAの実態が描かれているはずだ。例えば,ソ連からの亡命者の尋問,自白の強要シーンは,実に生々しかった(写真2)。実体験のある関係者の助言なしでは描けない印象的なシーンだ。そこには,CG/VFXの出番はない。せいぜい1930代や1940年代の景観を描くのにインビジブルVFXを提供する程度だ。
 この映画の米国での公開日は昨年の12月22日。年内ギリギリで,いかにもアカデミー賞狙いの公開時期である。どうしてこの作品から,いくつかの部門にノミネートされなかったのだろう? 複数あってもおかしくない出来映えだ。正統派のドラマ過ぎて,強い個性が感じかれなかったからだろうか,それともアメリカ社会を牛耳る秘密結社やCIAの実態が正確過ぎたため,話題になることを恐れて圧力がかかったのだろうか……。
 ところで,マット・デイモンの最新作は,記憶を失った秘密工作員ジェイソン・ボーンの3作目『ボーン・アルティメイタム』だ。これは来月号で紹介する。
 
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写真1 大迫力のカーアクションはVFXの産物だろう。
銃撃戦ももの凄く,ここから後の展開が目まぐるしい。
(C) 2007 UNIVERSAL STUDIOS
 
写真2 尋問シーンのリアリティの高さには目を見張る
 
   
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