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O plus E誌 2011年2月号掲載
 
 
 
 
『ヒア アフター』
(ワーナー・ブラザース映画)
 
 
      (C) 2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.

  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [2月19日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2010年12月9日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]    
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  巨匠たちが楽しんで創ったと感じる余裕作  
   誰しも,人の名前と顔が一致しない,なかなか覚えられない経験があるだろう。最初に勘違いして逆に覚えてしまった掛け違いや,別々に覚えていて同一人物と気付かないケースも多々ある。筆者にとって,本作は予告編の第一印象とかなり違った作品であり,存在は知っていながら,別の作品と思い込んでいた映画でもある。
 製作総指揮スティーヴン・スピルバーグ,監督クリント・イーストウッド,主演マット・デイモンというトリオは,『インビクタス/負けざる者たち』(10年2月号)と同じ組合せだ。この作品の成功で再度同じメンバーでということになったのか,それとも2本契約だったのだろうか。いずれにせよ,映画の達人たちの次回作を耳にした時には,大いに楽しみにした。死と向き合った3人の登場人物の物語だというから,じっくり生と死を見つめ,生きることの意味を考える作品を想像した。
 一方,『Hereafter』なるワーナー配給の映画がVFX多用作であることは,Cinefex誌の次号予告で知っていた。予告編で観た大津波のシーンは,それに値するレベルと確認できた。2月19日公開というから,しっかり当欄の2月号に仮アサインした。ただし,『2012』(09年12月号) や『TSUNAMI -ツナミ-』(10)を 観てきた目には,この津波はさほど驚きでもなかったし,「ああ,またお決まりのパニック映画か」という印象しかなかった。これが,あのイーストウッド監督の次回作とは,思いもよらなかったのである。
 実際には,津波のシーンは冒頭だけで,いわゆるパニック映画(Disaster Film)ではなかった。テーマはむしろ臨死体験である。何と,マット・デイモンが,超能力があり,死者と話せる霊媒師の役を演じる。ウーピー・ゴールドバーグや樹木希林じゃあるまいし,生真面目男かCIAエージェントしか似合わない彼に,そんな際ものの役柄を演じさせるとは……。イーストウッド監督がこんなテーマを選んだというのも,少し驚きだった。
 一方,イーストウッド作品とCG/VFXとの関わりは,そう不思議ではない。古くは『スペース カウボーイ』(00年10月号)があり,『硫黄島からの手紙』(06年12月号) 『チェンジリング』(09年2月号)や前述の 『インビクタス…』でもVFXを効果的に使っていたことは,本欄で語った通りである。いかにもCG,CGした用法よりも,さりげない視覚効果の使い方がうまい。
 本作品では,冒頭から女性が海中を漂う幻想的なシーンが登場する(写真1)。人物の大半のデジタル製だろうが,むしろ濁った水や泡の処理が巧みだ。本物の汚水とCG製の水をミックスしているようだ。続いての海からの津波(写真2)や逃げ惑う人々は勿論CG製だが,『2012』にも参加したScanline VFX社が担当なので,質的に劣ることはない。本作では,市街地で激流が押し流す人々や建物の表現の方が見事だった(写真3) 。カット毎に実写とCGを巧みに多重合成した逸品である。
 
   
 
写真1 オープニングから印象的な海中VFXシーン
 
   
 
 
 
写真2 押し寄せる津波の表現は,まずまずの出来映え
 
   
 
 
 
写真3 完成映像〔右〕は,溺れる女性(左)の素材だけでなく,建物,CG製の波,デジタル人間を多重合成
 
   
   CG/VFX系の派手なパニック・シーンはこれだけで,後は臨死時に見える漠たる死後の世界をCGで描いている程度だった(写真4)。双子の少年たちはCGの産物かと思ったら,本物の双子であり,生き残った1人を,時として2人で交互に演じていたようだ。
 
   
 
 
 
 
写真4 これが臨死体験で見る死後の世界
(C) 2010 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 
   
   物語は,上記の津波で仮死状態を大家した女性ジャーナリスト(セシル・ドゥ・フランス),双子の兄を事故でなくした少年(ジョージ&フランキー・マクラーレン),霊能力者(M・デイモン)の3人が,各々パリ,ロンドン,サンフランシスコの三都に分かれて登場し,やがて不思議な糸で結ばれたかのように交錯する。
 その出会いや結末は,詳しく述べると興醒めになるので語らないが,際ものではなかった。さりげなく,生きる意味を考えさせてくれる良作である。何より,エンディングがクールだ。功なり名遂げた巨匠たちが,マイペースの映画作りを楽しんでいるようだ。     
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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