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O plus E誌 2011年3月号掲載
 
    
 
その他の作品の短評
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
   ■ 『再会の食卓』:したたかな映画だ。内戦で台湾に逃れた国民党軍兵士が,40数年ぶりに上海に帰国し,生き別れになった元妻の家庭を訪れる。題名通り,食事風景が何度も登場し,礼を重んじる暖かみのある会話が交わされる半面,中国本土と台湾が歩んだ歴史の悲劇,現代中国の経済発展の裏にある矛盾も浮き彫りにする。たった1年間の結婚生活を送った元夫の申し出を受け入れ,40年連れ添った新しい夫との家庭を捨てようとする妻の決心に驚くが,その後の人間ドラマの演出が巧みだ。庶民生活の貧しさと上海の高層ビル群の落差が印象的だった。監督は,ワン・チュエンアン(王全安)。この監督の作品には今後も注目したい。
 ■ 『男たちの挽歌 A BETTER TOMORROW』:元は1986年製作の香港映画で,ジョン・ウー監督と主演のチョウ・ユンファの出世作となった傑作である。ジョン・ウー自身が製作総指揮に名を連ね,韓国映画としてリメイクされている。かつてレンタルビデオで観た記憶があるが,本作の試写会前に旧作のDVDを見て復習した。スローモーションを多用した終盤の銃撃戦は相当派手であったはずなのに,いま改めて観ると,こんなに大人しかったのかと感じる。勿論,その場面は現代風にかなりパワーアップしているが,何かが物足りない。主要人物4人の関係は分かっていたはずなのに,前半,誰が誰だかしばし区別がつかない。それだけ出演者が個性的でなく,物語の展開も平板だったということか。
 ■『サラエボ,希望の街角』:『サラエボの花』(06)で鮮烈なデビューを果たしたヤスミラ・ジュバニッチ監督の第2作。今回は戦争には直接関係なく,内戦の傷跡が残る街に住む愛し合う男女が主人公だ。同じイスラム教徒でありながら,現実を生きる客室乗務員の女性と,航空管制官の職を解かれ,次第にイスラム原理主義に傾倒して行く男性の対比が興味深い。小さな心の擦れ違いが,やがて修復不能になった時,訣別を告げるのは甘ったれた男ではなく,自立心をもった女性の方だ。女性監督が描くとこうなることは分かっているが,またかという感じがする。これがどうして「希望」なのか,安直な邦題の付け方に疑問を感じた。
 ■『恋とニュースの作り方』:独身女性に媚びたレディース・ムービーを作るのは簡単だが,同伴の男性や,中高年までも楽しませる作品はそうそうない。明るいヒロインが活躍する楽しい映画で,この快適なテンポは『プラダを着た悪魔』(06)を思い出した。それもそのはず,監督は違えど,脚本家が同じだった。2匹目の泥鰌狙いだが,本作はTV局が舞台で,ヒロインは朝の生番組のプロデューサーとして奮闘する。メリル・ストリープの鬼編集長に対応する偏屈なベテラン報道キャスター役は,何とあのハリソン・フォードだった。 とにかくヒロインのレイチェル・マクアダムスが愛らしく,世のオヤジ族のお気に入りとなるはずだ。
 ■『英国王のスピーチ』:本年度のアカデミー賞最多ノミネート作品と聞くと,どうしても構えて観る上に,ついついアラ探しをしてしまう。結論を先に言えば,そんな意地悪な見方をはねつける渾身の一作だった。生来の吃音に悩む英国王ジョージ6世が,数々の試練を乗り越えながら,国民に愛される王になる過程を描く堂々たる人間ドラマだ。故人とはいえ,自国の元首をこのように描く英国映画界の見識と実力に感心する。国王を演じるコリン・ファースも好演だが,スピーチ矯正士を演じるジェフリー・ラッシュの助演も素晴らしい。オスカーを得るならダブル受賞が望ましい。王妃役はヘレナ・ボナム=カーターだが,夫君のティム・バートン監督作品での怪女役とは違って,実にチャーミングだった。
 ■『悪魔を見た』:凄まじい悪漢映画だ。残虐な猟奇殺人シーンに嫌悪感を覚えるが,やがてその迫力と展開の面白さに魅了される。婚約者を殺された捜査官(イ・ビョンホン)が連続殺人鬼(チェ・ミンシク)を追うが,殺人犯の悪魔ぶりにも,捜査官の冷徹さにも驚嘆する。同じ配給会社の『完全なる報復』の「復讐の鬼と化す」という表現が生ぬるく感じる。この映画にその表題も譲るべきだった。凄惨なシーンさえ我慢できれば,満足感抜群の作品だと保証する。登場する女性達が皆かなりの美形なのも嬉しい。唯一,この映画に快感を覚えた変質者が類した事件を起こさないかが心配だ。
 ■『ツーリスト』:ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーの初共演というだけで,少しワクワクした。A・ジョリーは,国際指名手配の金融犯罪者の恋人で,警察や組織からも行動を監視される存在だ。J・デップは,少しとぼけた米国人旅行者で,彼女と知り合ったことから陰謀に巻き込まれるという展開で,トム・クルーズとキャメロン・ディアスの『ナイト&デイ』(10)の裏返しのような設定だ。題名通り,パリやベニスの美しい光景を満喫できる観光映画でもある。ところが,期待が大き過ぎたせいか,いま一つ物足りない。映画通には,結末もすぐに見えてしまう。かつて007を演じたティモシー・ダルトンが実直なロンドン警視庁の主任警部役で登場するが,その存在感が唯一の救いだった。
 ■『わさお』:主人公は実在の秋田犬で,青森県鯵ヶ沢町のイカ焼き店に住み,個性的な顔立ちで「ブサかわ犬」というそうだ。ネット上で大人気となり,既に写真集まで出ているという。その人気に便乗したタレント・ムービーだから,豪華な共演者や迫真の演技は期待できない。超スローテンポで,アクション映画を見慣れた目には相当苦痛だが,心暖まる物語というから,最後まで我慢するしかない。そう自分に言い聞かせて観ていたが,さすがに代役はなし,訓練していないので,演技もできないという犬ではつらかった。低予算映画の上に,撮影の苦労はあったのだろうが,脚本や子役の演技はもう少し何とかならなかったのか……。
 ■『さくら,さくら ─サムライ化学者 高峰譲吉の生涯─』:副題どおり,明治の科学者・高峰譲吉の業績と生涯を真正面から描いた伝記映画である。主題は,彼が米国ワシントンD.C.に寄贈した桜の苗木にちなんでいる。消化剤タカヂアスターゼの発明者として有名だが,ポトマックか河畔の見事な桜並木の立役者であったことは知らなかった。既に昨年から,出身地や映画祭を中心に限定公開されているように,低予算の文化映画である。そのため,発明・発見を支える化学実験の場面等が弱い。海外ロケもほとんどなされていないようで,その点でも迫力にかける。奇はてらわず,素直で好感がもてる作風だが,商業映画として成立するレベルではない。ならばいっそ,全5回程度のTVドラマにした方が,もっと堂々たる人生を描けたのではないかと思う。
 ■『SP 革命編』:例によって,フジテレビ系の連続ドラマを映画化し,東宝が配給するお手軽映画だが,その徹底した商業主義と話題作りには恐れ入る。TVシリーズで謎を残しておいて,昨年公開の『野望編』 (Episode V)を観たくなるように仕向け,本作『革命編』(Episode VI)が「遂に完成!」という訳だ。ご丁寧にも,公開1週間前の3月5日に『革命前日』(Prelude to Episode VI)を放映して,視聴率と興行収入の両方を狙おうという強欲さである。ここまでの企画をするなら,脚本もしっかり練り,監督も一戦級を使えばいいのに,そこはTVの延長線上の安易な路線だ。国会議事堂を完全再現した巨大セットという触れ込みだが,衆院本会議場も一部を作っただけで,残りはVFXの力を借りている。一見,大スペクタクルのように思わせているが,爆発は一度だけ,アクションも平板な格闘がダラダラ続くだけの,退屈な展開だ。おまけに,最終章と言いながら,まだ真相が曖昧なままの終わり方である。2年もしたら Episode VII 以降を平気で作る気だろう。TV局が日本映画界を駄目にした典型的な一作(いや,二作)と言える。こんなつまらない映画に,堤真一や香川照之を使ってはいけない。彼らの経歴に傷をつけるだけだ。
 ■『トゥルー・グリット』:父親を殺された少女が2人の男と犯人を追うロード・ムービーで,堂々たる西部劇だ。才気溢れて通好みの作品を作り続けたコーエン兄弟も,『ノーカントリー』(07)のオスカー受賞を機に,正統派のストーリー・テラーと化したようだ。ジェフ・ブリッジス,マット・デイモン,ジョシュ・ブローリンの好演を引き出しているが,それをまとめて圧倒するのは,14歳の少女を演じるヘイリー・スタインフェルドだ。これが長編映画初出演とは驚きだ。アカデミー賞助演女優賞の最有力候補だろう。物語的には,いかに米国が契約社会とはいえ,無法者揃いの西部開拓期に,口約束がここまで効力をもつのかと感心した。
 ■『漫才ギャング』:こちらは『ドロップ』(09)でデビューした品川ヒロシの監督第2作だ。監督自身が原作小説を書き,コミック化された後に,映画化して脚本も書くというパターンは前作と同じだ。題名通り,漫才をネタにした青春ムービーだが,監督自身が漫才コンビの1人である経験が大いに生きている。吉本興業所属のタレントがズラッと脇を固める「吉本ムービー」だが,全くの経験のない佐藤隆太と上地雄輔に,しっかりと漫才コンビを演じさせる演技指導が素晴らしい。試写会場には吉本関係者も多数いたが,プロの彼らをも抱腹絶倒させるほど,間の取り方は一級品だった。監督としての才能は紛れもないが,自分の体験以外のジャンルでも成功するかどうか,今後の成長を見守りたい。
 ■『ファンタスティックMr.FOX』:皮肉家ロアルド・ダールの児童文学を曲者監督のウェス・アンダーソンが映画化し,泥棒稼業のキツネの家族や穴熊の弁護士が登場するというだけで,ブラック・ユーモアたっぷりで,大量のスパイスを利かせた作品と想像できる。しかも選んだ表現方法が,ストップモーション(コマ撮り)アニメによる人形劇ときた。Mr. FOXがジョージ・クルーニー,Mrs. FOXがメリル・ストリープという声の出演者の豪華さにも驚く。パペットのぎこちない動きは意図的で,随所で笑いを誘う。ただし,このクセのある演出は嫌味で,筆者にはこの映画の面白さが理解できない。まだ『ダージリン急行』(07)は我慢できたものの,『ライフ・アクアティック』(05) 同様,この監督の演出はどうも肌が合わない。  
   
   
  (上記のうち,『SP 革命編』『さくら,さくら —サムライ化学者 高峰譲吉の生涯—』はO plus E誌には非掲載です)  
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