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(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています。) | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
SFとVFXのベストマッチ,本年度のベスト1 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
巨匠スティーブン・スピルバーグと人気俳優トム・クルーズの初めての顔合わせの話題作だ。評論家筋の評価はすこぶる高かったのに,公開週の週末はBox
Office No.1の座は得たものの,米国では思ったほど成績が伸びなかった。大衆の心を掴むのが上手いスピルバークも,ドリームワークスを成功させた余裕から,玄人好みの映画作りに転換したということだろうか。
本欄は興行成績にも評論家の採点にも惑わされず,素直に素晴らしい未来社会の描写とそれを支えたILMの見事な視覚効果技術のベストマッチに対してを与えよう。今年になってから9本目のだが,中でも『ロード・オブ・ザ・リング』と双璧のベスト1である。 原作は,『ブレードランナー』(82)『トータル・リコール』(90)『クローン』(01年11月号)と同じく,フィリップ・K・ディックのSF短編(邦題は「少数報告」)だ。彼の作品に何度か登場するプレコグ(予知能力者)が大きな役割を果たす一作だが,飾り気のない短編が2時間20分のコクのある映画に仕上げられている。 2054年の首都ワシントンでは犯罪予防局が設置され,プレコグが透視した未来の殺人犯は未然に逮捕され,収容所送りになっている。このシステムを全国に拡大させようかという国民投票を前に,犯罪予防局の主任ジョン・アンダートン(トム・クルーズ)は,自らが犯罪予定者と判定された予知結果を知って逃亡する。網膜IDで行動が管理された社会で追跡をかわしながら,罠か予知システムの欠陥か,真実を突き止めようとする……。という設定だ。職場を放棄し,迫り来る危機の中で自己存在証明を求めての逃避行は『クローン』に似ているが,この映画の方がずっと中身が濃い。 筆者は,この種のSF映画ではVFXの役割もさることながら,未来社会の景観,オフィスや家庭内に登場する情報機器,什器類がどのように描かれているかを注視している。前作『A.I.』もよく出来ていたが,SF時代考証や未来の意匠デザインは,この映画でさらに磨きがかかっている。全米屈指の未来学者,都市プランナー,建築家,発明家,作家などを集め,10年単位で未来社会の環境問題,医療・健康問題,社会サービス,交通機関,コンピュータ技術を3日間徹底討論して2050年代を予測したという。その中の1人,MITメディア・ラボのジョン・アンダーコフラーには国際会議で何度か出会ったことがあるが,なるほど彼クラスのハイセンスな学者たちが描く未来なら,さもありなんと納得できる。『2001年宇宙の旅』(68)以来の最高の描写力と言っていいだろう。 その描写を支えるVFXの使い方も秀逸だ。VFXスーパバイザは『メン・イン・ブラック』(97)や『A.I.』(01)も手がけたスコット・ファラールだから,それも頷ける。以下,その見どころである。 ■未来のワシントンDCの景観,マグ=レブと呼ばれる磁気浮揚方式の交通システムなどの未来社会デザインは,英語版オフィシャル・サイトにある「Futurists」の項を見れば,見事なビジュアルが堪能できる。写真1の(a)と(b)は,それをILMが映像化した結果で,VFX技術としてもハイレベルな仕上げだ。 ■未来の自動車工場の様子もよく考えられていて興味深い。そこで製造されたクルマ,真っ赤なレクサスはフルCG表現(写真1(c))が殆どだが,一部のシーンでは実物大モックアップも使われたと思われる。レクサスのLマークが何度もアップで映ったから,トヨタはこの映画のために何億円も払ったことだろう。このレクサスには負けるが,衣料品のGAP,ペプシ・コーラ,ギネス・ビール,ブルガリの時計,カワサキとコマツの産業用ロボット等が未来社会でしっかり出てくる。スピルバークは商売人だ。製作費のかなり部分をこれらCMでカバーしたことだろう。 ■個人の行動を管理する網膜IDのチェックの様子は,映像的には面白い。もちろん,こんな社会になってはたまらないという批判をこめての映像なのだろうが。 ■マグ=レブ交通システムでの多数の磁気浮揚車の縦横無尽の流れと並んで,VFX映像としては囚人達が仮死状態で眠る収容所のシーンが圧巻だ(写真1(d))。その膨大な数を表現するCG映像の精緻さは『SWエピソード1』の元老院のシーンを彷彿とさせる。何百人もの囚人が,一体ごとに異なった体形のCGデータで描かれているのにも驚く。 ■CG映像として面白いのは,犯罪者を追うスパイダー・ロボットだ(写真1(e))。金属光沢のある円盤に細い足を付けただけの代物だが,その動きの表現が実に巧みだ。効果音との相性もピッタリで楽しい。他では,犯罪予知システムの発明者ハイネマン博士の庭や部屋にある植物の動きもCGならではの表現だ。 ■犯罪予防局の警官たちの空中浮揚はワイヤーアクションで,ブルーバックで撮影され,空中戦や室内にデジタル合成されている。この映画全体でスタントマンは約90人。トム・クルーズは,例によってこうしたスタントを自分で演じたというが,その躍動感と一致した素晴らしい合成シーンが次々と続く(写真1(f))。さすがILMならではのVFXのオンパレードだ。 |
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■その他のコンピュータ,ホログラム状のデータを収録する記録媒体,警官隊が使用するパッド型のモニタ等,いずれも透明状で,未来の情報機器のデザインとしてもかなり上質だ。それに調和したキーボード,机,文具小物類も,いいデザインだ。 ■未来社会では,町中に至るところに大型ディスプレイが出現しているようだ。道路から見た建物の壁面,ショッピング・モール内の壁面にも大型映像が溢れている。壁掛け型TVならぬ壁全体がディププレイなのだ。その一方で新聞・雑誌の紙面も動画が表示できるペーパー・ディスプレイになっている。勿論,いずれも嵌め込み合成によるVFXだが。 () |
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誇張した未来の迫力ある描写 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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