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O plus E誌 2001年11月号掲載
 
 
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『クローン』
(ミラマックス&ディメンジョン・フィルム作品/ギャガ-ヒューマックス配給)
 
       
      (2001年8月23日 ギャガ試写室)  
         
     
  今は亡き伝説のSF作家の話題作  
   ミステリーは中学時代から愛読していたが,1960年代の高校から大学時代にかけてはSFをむさぼり読んでいた。創元推理文庫やハヤカワ・ポケット・ミステリを友人と交換し,月刊のSFマガジンが待ち遠しかった。
 SF史を今振り返ると,マニア向け専門雑誌の時代から,50年代に単行本市場が確立し,60年代は多様なジャンルのSFが登場するニューウェイブの時代であったらしい。高度成長,宇宙開発の最盛期だから,それも頷ける。その後,70年代の停滞の後,80年代にサイバーパンクの波が訪れ,今日に至るまで出版点数は増加の一途をたどるが,ロングセラーの多くは50〜60年代に書かれている。ロックの歴史と通じるものがあるようだ。
 フィリップ・K・ディックは,そんな時代に多数の著作を残しながら生前は不遇で,1982年に心臓発作で没した後,評価が高まった作家である。「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」,このユニークな題のSF小説は,死の直後に公開された映画『ブレードランナー』(82)の原作であり,作者の名前を一気に世界に知らしめる役目を果たした。リドリー・スコット監督のこの映画は,短編「追憶売ります」を原作とするポール・バーホーベン監督の『トータル・リコール』(90)とともに,SFX史にも残る印象的な作品だ。そして,スピルバーグ監督,トム・クルーズ主演で現在撮影中の『マイノリティ・リポート』も,この作家の短編が原作となっている。
 この映画の原題は,原作と同じ『Impostor』。これは読んでないが,1977年刊行の短編集の中の一作(邦題は「にせもの」)である。映画の邦題は,バイオ時代を意識して『クローン』と改題された。
 想定は西暦2079年,地球は異星人ケンタウリと軍事衝突を繰り返し,人類は防護シールドをめぐらしたドームの中の都市で暮らしている。天才科学者で爆弾兵器の開発責任者スペンサー(ゲイリー・シニーズ)は,地球保安局に捕らえられ,異星人によって改造されたクローン人間である容疑をかけられる。クローンなら目標に近づくと自動的に爆発し,しかも自分が人間であるとインプットされているという。執拗な追跡を逃れ,嫌疑を晴らすための証拠を探しての必死の逃亡行が続くが,果たしてスペンサーは本当に「人間」なのであろうか。
 設定は,昨年末公開の『シックス・デイ』と似ているが,自己の存在証明という点では『ブレードランナー』や『トータル・リコール』にも通じるものがある。この種の疑問は,最後に何が待っているのかが楽しみなので,これ以上は触れまい。ただし,結末は原作とは少し異なっているらしい。
 
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写真 CGならではのSF的シーン
 
     
  ワイド画面は未だ浸透せず  
 
冒頭から逃げ回るばかりで,話の前提がよく分かりませんでした。途中のセリフで補ってあって,ようやく様子がわかって来ましたが。
その不可解感と切迫感が,追われている主人公への感情移入を促進するのだと思います。一人称で書かれた小説の映画的解釈の1つということでしょう。
この映画のVFX担当はILMだというので楽しみにしていたのですが,あまり目新しく感じませんでした。
ILMの他にも,Netter Digital, Master FX社などの新興スタジオも参加していました。前半,ドームの中の未来社会を描くのにかなりCG映像が使われていました。クローン人間の検査プロセスなどもCGを多用していますが,全体の分量としては多くはなかったですね(写真)。描き方も古いSFの味を出すため,意図的にこう描いたのかと思います。
街も乗り物も,手塚治虫の漫画で見た未来というか,ステレオタイプでした。
私は,例によって家庭やオフィス内の小道具もじっくり見てました。エンド・クレジットで確かめたら,未来コンサルタントとしてDisney Imagineerng社の3名が担当していたのが目につきました。
未来の時代考証ですね(笑)。テレビ電話や医療器具など,未来っぽかったですよ。
2079年にしては調度類がイマイチでした。B級作品なので,デザインはケチったのでしょう。家庭にあったテレビやコンピュータ・モニタのアスペクト比に気がつきましたか?
え!? そんなところまでは…。
エリートのスペンサー夫妻の家庭にあった未来のテレビは,壁掛け型も卓上型も16:9のワイド型でした。ただし,番組はまだセル調の2Dアニメをやってましたね(笑)。そのくせ,市中で見かけるキオスク端末や難民の家庭は,4:3の旧来のモニタ画面でした。
80年近く経っても一向にHDTVは普及しないか,コンピュータとテレビは一体化しないという意味なのでしょうか。
ハハハ,そこまで意図して描き切ってあれば大したものですが,多分そこまで製作費も配慮も行き届かず,容易に入手できるものを使ったのだと思います。
 
   
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