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O plus E誌 2011年6月号掲載
 
 
赤ずきん』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月10日より丸の内ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2011年4月24日 角川試写室(大阪)
 
         
   
 
スカイライン ―征服―』

(松竹配給)

      (C) 2010 Black Monday Film Service, LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [6月18日より新宿バルト9ほか全国ロードショー公開予定]   2011年4月5日 松竹試写室(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  力量は疑問だが,『トワイライト』ファンにはオススメ
 
 

 先月と同様,映画としての世評はそう高くないが,VFX的に見どころがあるのではと期待した2作品を,当欄ならではの視点から論じてみよう。結論を先に言えば,この2作品の共通項は「既視感」だ。
 まずは,先月号のガリバーと同等か,それ以上に誰もが知っている「赤ずきん」を主人公にしたダークファンタジーである。原作は,「白雪姫」や「シンデレラ」と同様,「グリム童話」に収録の寓話だが,その前にフランスの「ペロー童話」にも入っていたようだ。主要登場人物は,森に住むお婆さんとお婆さんに扮した狼が考えられる。当然,狼はCG製だろうが,本当にお婆さんに変身するのか,赤ずきんを食べてしまうのか,ちょっと楽しみだった。
 幼児向けの絵本の「赤ずきんちゃん」と呼ぶことに慣れているが,この映画では「ちゃん」は付かない。それもそのはず,主人公は無邪気で幼い少女ではなく,大人になり,恋をする年齢になった美しい女性だ。丁度『アリス・イン・ワンダーランド』(10年5月号)とそっくりの設定だ。時代は不詳だが,原作通りの何百年か前の欧州の暗く怪しい森が舞台で,先月号の『ガリバー旅行記』のように現代ものに翻案してある訳ではない。
 主演は,『マンマ・ミーア!』(09年2月号)でメリル・ストリープの娘役を演じたアマンダ・サイフリッド。冒頭から明るい歌声で登場した,あの屈託のない娘である。少し大人になり,キレイになった。上目遣いの三白眼が個性的で,ホラー調ファンタジーの主人公らしい妖艶さを醸し出している。助演は,『ハリー・ポッター』シリーズの名優ゲーリー・オールドマンが魔物狩りの神父役,『トワイライト』シリーズでヒロインの父親役だったビリー・バークが本作でも赤ずきんの父として登場する。
 森のはずれの小さな村に出没する人狼が村人を襲う猟奇的殺人事件であり,誰が狼かを探るミステリー仕立てである。犯人当ての物語としては単純な方で,ミステリー映画通からは高い評価は得られまい。最初から,既視感が漂う映画だった。暗い閉ざされた村でのホラー・ミステリーという点では,まず『スリーピー・ホロウ』(99)を思い出した。男女の三角関係の様相は,『トワイライト』シリーズにも似ている。そういえば,あちらも人狼が大きな役割を占め,色調や語り口もそっくりだ。
 似ているのも当然で,監督は同シリーズのキャサリン・ハードウィックだった。彼女なら,2人の男性に想いを寄せられるという,女性に好都合な描き方にも納得が行く。監督としての力量は疑問だが,シンプルなストーリーで女性観客層にアピールするツボは心得ているようだ。一方,CG/VFXの利用は控えめで,村のセットを補うためと森や山々の遠景部分で登場する程度だ(写真1)。ヒロインのマントの鮮やかな赤が印象的だが,これはデジタル処理でカラー補正しているようだ(写真2)

   
 
写真1 VFXは最小限というが,遠景の描写には随所に
 
   
 
 
 
写真2 この鮮やかな赤は,色補正結果の賜物か
(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 
   
 

 さて,残るは狼の表現だが,これがお世辞にも褒められた描写ではなかった。この監督の要求水準が低く,CGに割く製作費を抑えているのだろう。自慢できるレベルではないのか,スチル写真すら公開されない。映画としては素直に楽しめるが,当欄としては減点評価だ。

   
  またかと思いつつも,このボリュームは立派!
 
 

 もう1本の『スカイライン ―征服―』も,意味は違えど,既視感という点ではさらに上を行く。次ページのスチル写真を少し観ただけで,またかと思うはずだ。いや,既に観た映画だと勘違いしても,全く不思議はない。予告編を観れば尚更のはずだ。宇宙から飛来した異星人の飛行物体は,どの映画も定番の表現になりがちだが,それにしてもこれは似過ぎている。言うまでもなく,昨年当欄で絶賛した『第9地区』(10年3月号)と先日の『世界侵略:ロサンゼルス決戦』(11年4月号)である。いずれもここまで堂々と露出してくると,未確認飛行物体(UFO)でなく,形状・性能ともにしっかり確認済みの巨大飛行物体だと言えるほどだ(写真3)

   
 
写真3 またかと思いつつも,アップに堪えるこの描写
 
   
 

 いやいや,後者の『世界侵略:ロサンゼルス決戦』は大震災に配慮して10月まで公開延期になったので,一般の目に触れてないはずだ。それでも,当欄では前々号のトップで大きく取り上げてしまったので,本誌の愛読者の既視感は避けられない。まずは,写真4のような誰もが知ってる大都市の光景を見せ,世界中に異星からの侵略者が飛来してきたことを知らせるが,結局のところ本作も舞台の大半はLAである。違いと言えば,主人公たちはほとんどマンションの一室に閉じこめられたままで,『世界侵略…』のようなサバイバルを賭けての戦いにはならないことくらいだ。

   
 
写真4 誰もが知っているこの場所の上空に飛来
 
   
 

 ともあれ,酷似していることばかり強調したが,物語的には,語ることはほとんどない。特筆すべきは,本作はインデペンデント系の作品で,徹底した低予算映画であるということだ。総製作費は約1千万ドルというから,通常のハリウッド・メジャー作品の1/10である。本当に,この予算でCG満載のSF映画を描けたのかと,それが本欄の最大の関心事だった。
 CG/VFXは,Hydraulx1社での担当だ。『デイ・アフター・トゥモロー』(04年7月号)『2012』(09年12月号) のVFXにも参加した中堅スタジオで,パニックものは大得意だが,ライバルの『世界侵略…』のVFX主担当でもあるから,CG表現が似ているのは当然だ。全く新たにデザインせず,コストダウンを図ったのだろう。製作・監督は,『AVP2 エイリアンズ VS. プレデター』(07)のグレッグ・ストラウスとコリン・ストラウスの兄弟だ。 それなら,Hydraulxの創業者のはずだから,VFX制作費がほぼ原価に抑えられることになる。加えて,脚本担当のジョシュア・コルデスが,第2ユニット監督,CGアニメーター,カメラマンまで務めている。なるほど,インデペンデント系の布陣であり,低予算に抑えられる訳だ。
 よって,主演級俳優はいずれも大部屋レベルの顔ぶれだし,音楽が今イチなのも理解できる。この映画のウリは,徹頭徹尾CGによる視覚表現であり,それに尽きる。写真5のような光景はまだ序の口で,終盤の徹底ぶりが凄かった。巨大宇宙船やそこから登場するエイリアンの描写が,精緻かつものすごい分量で,ここまで徹底した物量作戦には感服した。これじゃ,日本映画界のCG担当者も低予算であることを言い訳にできまい。

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写真5 1日目と3日目の代表シーンがこれ。この後延々と続く,VFXシーンのボリュームには感服。
(C) 2010 Black Monday Film Service, LLC. All rights reserved.
 
   
   
   
   
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