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O plus E誌 2006年11月号掲載
 
 
スキャナー・ダークリー』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2006年12月シネセゾン渋谷ほかにて公開予定]   [2006年9月12日 ワーナー試写室(東京)]  
         
   
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  まあ一度は,こういうNPR映像も味わって下さい  
   スチル写真を数枚観ただけで,この作品の映像のユニークさ,芸術性が分かるだろう。いや,ただのアニメかとしか思わない鈍い人物も居かねないが,それでも短い予告編を観れば,これまでのアニメでは表現できなかった味があること,CGでは表現できない種類の映像だと感じるはずだ。
 実写映像をベースにこうした絵画調の映像を作る技術をNon-Photorealistic Rendering (NPR)という。1970年代以降,ひたすら写実的表現を追求してきたCG研究の中で,意図的に非写実的表現を行って芸術性も追求しようという試みが始まった。1990年代後半以降の潮流の1つである。NPR自体は総称で,実写映像を使うことはは必須ではないが,実写を下敷きとしているゆえに手書きやフルCGでは表現できない独特の描写を得られることを特徴としている手法が多い。この作品は,そのNPRを映画全編に使った新しい試みだ。
 原作はフィリップ・K・ディックの短編SF『暗闇のスキャナー』で,麻薬おとり捜査を題材として,その捜査官の精神的破滅と皮肉な結末を描く。他の映画化作品と同様,管理化された暗い近未来社会が題材だが,どうして映画人はSFでこういう暗い物語ばかりを取り上げたがるのだろう? 監督は 『スクール・オブ・ロック』(04年4月号) のリチャード・リンクレイター。主演は『マトリックス』シリーズのキアヌ・リーブス。いくら絵画調に変換したとはいえ,すぐキアヌだと分かる(写真1)。なるほど,捜査官と麻薬常習者の2つの世界を往き来する主人公は,彼にぴったりの役柄だ。それゆえ,このSF映画の象徴のような人気俳優を起用して,本作品全体をアピールしているのだろう。
 さて,NPRによる絵画的描写手法に戻ろう。このR ・リンクレイター監督は,既に『ウェイキング・ライフ』(01)で同様な手法に挑戦していたようだ。筆者は未見だが,スチルや予告編で観る限り,ともかく実写をアニメ化したというだけで,のっぺらとした安手の漫画映画風だ。この映画とは格段に出来映えが違う。本作品では,人物のエッジ部分がデッサン画風になり,量子化誤差を巧みに活用したポップアート調の画風で芸術性を増している(写真2)。言い換えれば,最新のNPR技術を駆使して,大いに芸術性が向上したということだ。
 そのメイキング・プロセスは写真3に示す通りである。アニメーターが介在して,人物1人1人のエッジをデジタル絵筆で描き,顔や衣服の部分も丁寧にペイント操作を加えハイライト効果も表現する。キーフレームに施したこの操作が,後は半自動的に他の画像にも適用される。ここでは「デジタル・ロトスコーピング」と呼んでいるが,要するに対話的エッジ抽出とペイントをサポートし,フレーム間での追跡・内挿を容易にするツールが準備されたようだ。「画像処理」の講義で応用事例に上げたくなるような題材である。
 実写ベースであるから,フルCGでは容易で描けない味のある背景も描写できている。リップシンクが完璧なのも当然のことだ。その意味では,吹替え版でなく,絶対に字幕版で観るべきだ。「スクランブル・スーツ」と呼ばれる複数人の顔をブレンドして,絶えず変化する顔の表情もデジタル処理ならではの効果だ。
 では,この映画は最新NPR手法を駆使して成功したかといえば,かなり疑問符がつく。筆者個人の好みでいえば,この手法はもっと明るい青春映画,背景の自然が美しいロードムービーに使った方が効果的だったろう。私がプロデューサなら,きっとそうする。  
 
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写真1 絵画調にしても,誰が主演かはすぐ分かる   写真2 手書きやCGでは表現できないタッチが魅力
 
 
 
 
 
 
写真3 アニメーターが介在した絵画化のプロセス。(左上)原画像,(中上)まず人物の輪郭線をトレース,(右上)他の部分も丁寧にデジタルペインティング,(左下)これで1人分完了,(右下)完成画像。
(c)2006 Warner Bros. Entertainment Inc.
 
     
   
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