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O plus E誌 2005年11月号掲載
 
 
ブラザーズ・グリム
(ディメンジョン・フィルムズ/東芝エンタテインメント配給)
      (c)2003 Dimension Films  
  オフィシャルサイト[日本語][日本語]   2005年8月25日 梅田ブルク7[完成披露試写会(大阪)]
 
  [11月3日より丸の内ルーブル他全国松竹・東急系にて公開予定]      
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  VFXシーンの数は多いが,質は今イチで出し惜しみ  
 

 誰もが知っているグリム童話のグリム兄弟を主人公に仕立てた冒険譚であって,童話そのものが題材ではない。その点では,「ロミオとジュリエット」を執筆中の『恋におちたシェイクスピア』 (98)や「ピーターパン」誕生の背景を描く『ネバーランド』(05年1月号)と同様,名作の誕生秘話物語のジャンルに属する。ただし,「赤ずきん」「ヘンゼルとグレーテル」「シンデレラ」「白雪姫」「眠れる森の美女」等の童話の名場面を巧みに織り交ぜていて,宝探しに近い楽しみも持たせている。
 監督は『未来世紀ブラジル』 (85)『12モンキーズ』(95)のテリー・ギリアム。グリム兄弟は,現実主義者で活動的な兄ウィルを『リプリー』(99)『ボーン・アイデンティティ』(02)のマット・デイモン,ロマンティストで繊細な弟ジェイコブを『パトリオット』(00)『チョコレート』(01)のヒース・レジャーが演じる。一瞬逆でもいいかなと思うキャスティングだが,実際当初の企画とは逆になったそうだ。そして,森の奥の塔に住む鏡の女王には,『マレーナ』(00)『ミッション・クレオパトラ』(02)のモニカ・ベルッチ。こちらは妖艶な女王役にぴったりで,これ以上ないはまり役だ。
 監督と兄弟 2人はアメリカ人で,ハリウッド資本の映画だが,この映画にはヨーロッパ調のテイストが漂う。もともとドイツが舞台で,大掛かりなセットはポーランドのプラハに組み,かつ助演陣やスタッフに欧州勢を起用したためだろう。北米ではそうヒットしなかったが,本稿執筆中に訪れたウィーンやパリの街頭では,大きな看板が目につき,興行的にも好調のようだった。
 では,日本人好みかといえば,冒険譚とはいえハリウッド流軽快アクションを期待するなら外れだ。むしろ,欧州の文芸調好みの観客には合うだろう。映画のタッチとしては,『スリーピー・ホロウ』 (99)や『ジェヴォーダンの獣』(02年2月号)などのちょっとダークな雰囲気の作りに似ている。一時「本当は恐ろしいグリム童話」という本が出て,残忍さや狂気が話題になった。その忍び寄る怖さを映像としてうまく表現できているというのが編集部のY嬢の感想だ。
 さて,全 750カットというVFXの担当は,英国のピアレス・カメラ社だ。撮影終了後,1年半以上もVFX合成に時間をかけたという。その割には前半は控え目だなと思ったら,後半は続々登場のCG/VFXオンパレードだった。19世紀の村の描写,塔の周りの眺めなどの光景を作るのにVFX利用は当然だ。女の子が飲み込まれた馬の口の中と腹,石棺に群がる多数の虫,泥のような魔物,ブーメランのような動きをする斧,森の木の枝が動く様は当然デジタル技術の産物だ。蛙や多数のカラスもそうだろう。ただし,いずれもあまりデザイン・センスは良くない。1社ではこの数だと質的向上まで手は回らない。褒められるのは,最後の鏡に映った女王の顔が砕け散るシーンで,CGならではの描写でいい出来だ。
 それだけのシーンがあるのに,何1つ画像が掲載できないのは, VFX関連のスチル画像が1点も提供されないからだ。上記の鏡のシーンなどはアメリカのサイトでは頻繁に見かけるのに,日本では使用禁止だ。CGはウリじゃないというのが,日本の配給会社の方針らしい。おやおや,それでいいのかな。映画は総合芸術であり,色々な角度からの楽しみ方がある。映像クリエータ志望者なら,一般観客とは違った見方もでき,それがセンスを磨く糧ともなる。国内の配給会社の一存で,わざわざその芽を摘み取ることはないと思うのだが…。

 
          
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