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O plus E誌 非掲載
 
 
 
 
『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命(いのち)の泉』
(ウォルト・ディズニー映画)
 
 
 
      (C) Disney Enterprises, Inc.

  オフィシャルサイト[日本語][英語]  
 
  [5月20日よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー公開中]   2011年5月21日 TOHOシネマズ 二条  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  何ごとにもほどほどで,新味に乏しい人気シリーズの4作目  
   例によって日米同時公開で,6月号の締切に間に合わないことは分かっていた。ジョニー・デップ主演というだけで,若い女性中心の集客力は確実に見込め,知名度も抜群のこの人気シリーズの4作目であり,加えて3Dで登場とするとなると,本邦での大ヒットは事前に約束されていたようなものだ。となると,マスコミ各誌での評判など全く気にする必要ない訳だから,案の定,大阪では完成披露試写会もマスコミ用試写会もなかった。公開後にシネコンに足を運んで観ることは厭わないが,前作のように1ヶ月遅れでO plus E 誌に載せるつもりはなく,本作はWebでの紹介だけに留めようと思っていた。
 その理由の1つは,後には『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』『マイティ・ソー』『ハリー・ポッターと死の秘宝 PART 2』等々,夏の大作が控えているので,月遅れでまで紙幅を割く気になれなかったからである。2つ目の理由は,アドベンチャー大作でVFXは随所に使われてはいるだろうが,もはやさほど目新しい使われ方はなく,あまり語ることもないと予想したからである。CG表現をウリにした『トランスフォーマー』シリーズやフルCGアニメは別として,同じ路線を踏襲する人気シリーズの続編の場合,見かけはスケールアップするものの,あまり冒険はしないので,映像制作技術の上では斬新さがないのだと思う。本シリーズの場合,2作目『…/デッドマンズ・チェスト』(06年8月号)はテンポの良い,目の覚めるような快作であったのに,同時進行で制作された3作目『…/ワールド・エンド』(07年7月号)はとにかく長かった。後半30分の延々と続く戦いは,CG/VFXのオンパレードであったものの,大仰なだけで何の感動もなかった。
 監督は,3作目までのゴア・ヴァービンスキーから一転して,『シカゴ』(03年4月号)『SAYURI』(06年1月号)『NINE』(10年3月号)のロブ・マーシャルに変わっている。製作費はたっぷりあるとはいえ,この娯楽作品にオスカー監督を起用とは贅沢な選択だ。ところが,ブロードウェイ出身のこの監督は,音楽センスは素晴らしく,俳優の個性を活かしたドラマの演出も巧みだが,こうしたアクション・アドベンチャーに向いているのかは疑問だった。少なくとも,CG/VFXを多用した斬新な大スペクタクルに適した監督ではないと感じた。
 という前置きを長々と述べたのも,とっくに見終ったこの作品の評をなかなか書く気になれなかったからだ。結論を先に言うなら,何事にも中途半端で,ピリッとしたところがない。では,全編退屈かといえば,そうでもなく,所々に目の覚めるような素晴らしい映像が出現する。ワクワクするような展開で,一気呵成に物語が進行するかと思えば,急にペースダウンする。サービス精神が多過ぎ,大味でくどい演出に落ち着きがない。音楽も衣装もメイクも,いずれもそこそこであり,ハリウッド大作ならこれくらいは当然という出来だ。
 お目当てのジョニー・デップ演じる孤高の海賊ジャック・スパロウ船長の存在感は抜群で,その剽軽で洒脱な振る舞いには磨きがかかっている。宿敵の海賊バルボッサを演じるジェフリー・ラッシュ,父親のティーグ・スパロウ役のキース・リチャーズも続投だ。今回のテーマは,永遠の命をもたらすという伝説の「生命(いのち)の泉」で,その在り処をめぐり,スペイン王,英国王を巻き込んでの争奪戦である。これに加わるもう1人の敵役は,「悪魔の化身」言われる伝説の海賊「黒ひげ」(イアン・マクシェーン)とやらで,なるほど悪人面だが,この手の敵ならあまり新味はない(写真1)
 
   
 
写真1 これが悪役の「黒ひげ」。3Dを意識したポーズ。
 
   
   と思っていたら,ヒロイン役は嬉しい誤算だった。黒ひげの娘で,ジャックがかつて愛した女海賊アンジェリカが登場し,これがペネロペ・クルスだった。美男美女でありながら,少しくずれた役柄の方が似合うという点で,この2人は似た者同士であり,呼吸もぴったり合っていた(写真2)。このキャスティングだけは評価できる。もう1組若いカップルが登場する。「生命の泉」の鍵を握る人魚シレーナ(アストリッド・ベルジェ=フリスベ)(写真3)と彼女に恋をする宣教師フィリップ(サム・クラフリン)である。若いカップルのラブロマンスを物語のもう1つの軸として,彼らの売り出しを図るのは,1&2作目のオーランド・ブルームとキーラ・ナイトレイの場合と同じ構図だ。彼らが同じようにスター街道を歩めるかは次回作に恵まれるかによるが,人魚役のスペイン人女優は清楚で保護本能をくすぐる魅力があり,今後の活躍が期待できる。
 
   
 
写真2 この似た者同士の呼吸はピッタリだった
 
   
 
写真3 白い肌で,男心をくすぐる楚々とした魅力
 
   
   という風に,部分々々で評価が乱高下するジェットコースターのような映画だが,CG/VFXもしかりである。VFXの主担当は引続きILMで,他にMPC,Hydraulx,CIS Hollywood, Cinesite,Rising Sun Pictures等が参加している。海賊映画に相応しく,海や島のシーンが多々あり,どうみてもVFXで加工したと思しきシーンが頻出するが,あまり印象に残らない(写真4)。改めて予告編を観ると,滝への落下や爆発シーンも上質なのだが,これも当たり前のように観てしまった。そう言いながらも,注目すべき箇所が2つあるというのが,この映画の特徴だ。
 
   
 
写真4 VFXで加工した見られるシーンは多々あるが…
 
   
   まずは,瓶の中にミニチュアの帆船が入っているボトルシップのシーンだ。瓶の中で静止しているはずの船が,嵐に遭遇する光景は見ものだ。いいアイディアだ。勿論,この部分はCGだが,瓶越しのライティング技術も上々だった。
 もう1つは人魚の描写だ。誰も本物を見た訳はないが,人間の上半身の動きと魚の泳ぎをじっくり観察して組合せていると見て取れた(写真5)。注目すべきは陸に上がった人魚で,上半身との接合部の処理,鱗の反射なども違和感がなく,工夫のあとが見られた。映画全体は退屈だが,本作で最も印象に残ったのは,この人魚の出来映えだ。
 
   
 
 
 
写真5 水中も陸上も人魚の描写は見どころの1つ
(C) Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
   
   最後に3Dである。実を言うと,記録のために止むなく書いているこの時点で,この映画の3Dに関してほとんど印象に残っていない。その後,多数の3D作品を観たためもあるが,特筆すべき箇所はなかったと思う。当日のメモには,「破綻はなく,よくできている。本当にフェイク3Dか?」とあるが,後日調べてみるとリアル3Dでの撮影であった。あまり3Dを強調せず,この点では無難にまとまっていたということだろうか。  
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