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O plus E 2018年Webページ専用記事#5
 
 
スモールフット』
(ワーナー・ブラザース映画 )
      (C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月12日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開中]   2018年9月18日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  日本国内での洋画系フルCGアニメの状況  
  ワーナー・ブラザース配給のファミリー映画のフルCGアニメで,テーマはヒマラヤに棲む雪男と人間の友情物語である。短評欄の『ルイスと不思議の時計』と同様,公開日的には本誌9・10月号の守備範囲なのだが,締切に間に合わなかった作品だ。もはやフルCG作品とはいえ,余り期待しなかったので短評欄で軽く触れるつもりが,予想に反して(?)思い掛けない出来映えだったので,格上げし,画像入りで紹介することにした。
 ちょっと回り道して,フルCGアニメ事情から語り始めよう。以前にも書いたが,現在,日本国内のフルCGアニメの有力配給ルートは,圧倒的な知名度を誇るディズニー配給網とユニバーサル作品を配給する東宝東和の2社である。前者は言うまでもなく,元々Disney Animation StudiosとPixarの両強力スタジオを抱えているが,後者は『ミニオンズ』でヒットを飛ばしたIllumination Entertainmentに加え,最近,Pixarに継ぐ歴史をもつDreamworks Animation (DWA)も傘下に収めたからだ。まさにテーマパーク・ビジネスでも覇を争う両社が,フルCGアニメでも2:2のタッグマッチを展開している訳である。
 その他の洋画メジャーはどうかと言えば,世界中では大きな市場があり,製作作品もあるのに,日本国内での公開作品がぐっと少なくなっている。『アイス・エイジ』シリーズのBlue Sky Studiosを傘下にもつ20世紀フォックスは,最近はビデオスルー(劇場公開せずにいきなりDVD販売)ばかりだ。最近劇場公開されたものは,知名度がある『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』(15年12月号)くらいしか思い出せない。
 ソニー・ピクチャーズの場合も,似たようなものだ。VFXスタジオのSony PIctures Imageworks (SPIW)が単独でフルCG作品を作れる態勢がある上に,コマ撮りアニメの老舗アードマンを傘下に収めているので,実力的に十分である。実際『モンスター・ホテル』シリーズは世界的にも高評価を得ているのに,日本国内での上映は細々であり,東京以外ではマスコミ試写もない。アニメ王国の日本市場は,今でも国産の2Dのセル調アニメが席捲している,世界的にも珍しいガラパゴス状態である。そんな中で興行的に苦しいのは理解できるが,当欄としては,両社に対して「スルーばかりじゃ,残念だ」「これじゃ淋しい。もっと頑張って欲しい」と激を飛ばしておきたい。
 残るメジャーは,パラマウントとワーナーだが,CGアニメではもっと印象が薄い。パラマウントは,かつてDWA作品を配給していたので,手持ち作品数は少なくなく,『カンフー・パンダ』『マダガスカル』等の人気シリーズを抱えていた。ところが,日本国内での興行成績が奮わず,近年は20世紀フォックス同様,ビデオスルーばかりだった。もはやDWAがユニバーサル系列に入った以上,パラマウント配給網からは何も期待できない。ただし,『ボス・ベイビー』(18年3・4月号)の紹介時に述べたように,CGアニメ・ファンとしては,DWAの配給網移籍はメデタシ,メデタシだ。
 さて,映画全体ではディズニーと並ぶ最大手のワーナー・ブラザースはと言えば,子会社のWarner Bros. Animationは,「バックス・バニー」や「トムとジェリー」等のTV用2Dアニメを製作してきた伝統がある。専用の3D-CGスタジオを持たなかったのが,CGアニメに出遅れた原因だろう。思い出せば,豪州のAnimal Logic社に制作依頼した『ハッピー フィート』(07年3月号) があり,これはアカデミー賞長編アニメ賞に輝いた。ところが,これも続編1本だけで終わっている。最近では,オランダのLEGO社と組んで『LEGO(R)ムービー』シリーズを製作・公開しているが,描かれるのは独特のLEGO世界であるので,ユニークではあるが,CGアニメの本流ではない。
 もうこれが精一杯なのかと思ったところに,今回の本作の登場である。本作のCG制作担当は,何とSPIW社である。SPIWからすれば,親会社がCGアニメに熱心でないので,余力があり,ライバル社からの依頼を受けてしまったという訳なのだろうか。
 
 
  さすが大手WB作品,予想外の上質CGミュージカル  
  前置きが長くなったが,ようやく本作の内容である。ヒマラヤの山頂に雪男(イエティ)たちの集落があり,そこに住む正直者で剽軽な青年ミーゴが主人公だ。「Smallfoot」とは,彼らから見て「小さな足」をもつ生物,即ち人間のことである。ある日偶然,伝説のスモールフットを見かけたミーゴだが,村では誰にも信じてもらえず,スモールフット探しの冒険の旅に出る。一方,ミーゴと出会った人間は,TV番組の視聴率確保目的で,偽のイエティ発見のやらせ映像を撮影しに来たパーシーだった。本物のイエティのミーゴを撮影してしまい,その動画がSNSで流れてしまったため,人間社会も大騒動になる……。
 当初,チラシや予告編で一向に食指が動かなかったのは,この雪男キャラのデザインが,およそ可愛いとは言えず,精悍でもなかったからだ。全員鼻が描かれていないので,何やら間が抜けた感がある。「モジャかわ」とのことで,お子様相手に親しみやすさを打ち出そうとしたのだろうが,今見ても余り良いデザインと思えず,グッズ販売でも大きな期待はできない。
 ところが,物語の骨格はしっかりしていて,子供が見れば楽しい童話であり,大人にも含蓄のあるセリフが鏤められていた。イエティの集落は,村の数々の掟,長老の支配等々,典型的な村社会である。イエティたちにとって,伝説のスモールフットはずっと敵対関係にあった忌まわしい存在であり,長老たちはそのことを若い世代に伏せていた。そう,アメリカン・インディアン,アボリジニ,サーミ,アイヌ等の先住民族のように描かれていて,外来の侵入者の身勝手な論理を皮肉った描写がある。さらに,大騒動後の対立は,現代世界のあらゆる民族間紛争への警鐘とも受け取れるし,介護問題,移民問題への言及もある。
 そんな中で,ミーゴとパーシーが心を通わせるのは,この種の映画の定番である。『ヒックとドラゴン』(10年8月号)や『アーロと少年』(16年3月号)を彷彿とさせるし,広く捉えれば『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』(11年10月号) などもその類いだ。それでいて,対立後に人間側が滅びる形にしないのは,やはりファミリー映画でメルヘン的な世界が対象だからだろう。
 監督は,脚本家のキャリー・カークパトリックで,『チキンラン』(01年4月号)『シャーロットのおくりもの』(07年1月号) 等の脚本を書いている。声の出演はミーゴとパーシー役に,ぞれぞれチャニング・テイタムとジェームズ・コーデンを配している。ミーゴが想いを寄せるヒロインのミーチーの声にシンガー・ソングライターのゼンデイヤ,その父の最長老ストーンキーパーの声にラッパーのコモンを起用したことで,後述するように,本作をミュージカル仕立てのファンタジー映画として成功させている。
 以下,当欄の視点での評価である。
 ■ イエティは全員顔立ちも体形もかなりデフォルメされたマンガ的であり,体毛も一見ラフに見えるが,よく観るとかなりしっかり描き込まれている(写真1)。ミーゴは320万本,ミーチーは250万本,グワンゴに至っては600万本の体毛で描かれている(写真2)。長老のストーンキーパーはローブを着用してるので本数は少ないが,その分,髭が高精細に描かれ,光沢感も素晴らしい(写真3),これが全員分となると,かなりの計算量である。
 
 
 
 
 
写真1 中央が主役のミーゴ。全員毛むくじゃらで,かなりの計算量に達する。
 
 
 
 
 
写真2 右がヒロインのミーチー,中央の全身カーリーヘアがグアンゴ
 
 
 
 
 
写真3 最長老のストーンキーパーは,髭の質感表現が秀逸
 
 
  ■ 同じく計算コストがかかる雪山の描写にも力が入っている(写真4)随所で舞い上がる雪煙の表現も絶品だ。一方,スモールフット(人間)のデザインは,特に可もなく,不可もなく,シンプルなCGアニメキャラらしいのルックスである(写真5)。そう言えば,SPIW制作でソニー・ピクチャーズ配給の『くもりときどきミートボール』(09年10月号) や『アーサー・クリスマスの大冒険』(11)の登場人物も,こんな顔立ちであった。人間の街も同様で,意図的に写実性は高めずに,それでいて質感はしっかり出している。特に,夜のシーンでの光の使い方が上手いと感じた(写真6)
 
 
 
 
 
写真4 雪山のデザインも上々。3D上映での奥行き感を意識している。
 
 
 
 
 
写真5 ミーゴとパーシー。人間の顔立ちは,ソニー製のCGアニメで見慣れたルックス。
 
 
 
 
 
写真6 雪と夜のライティングが上手いと感じる
(C) 2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. ALL RIGHTS RESERVED.
 
 
  ■ 前半のイエティの村での出来事は,スラップスティック調のギャグシーンが強調されている。監督は,「トムとジェリー」のワーナーの伝統を活かしたと言う。というものの,かつての2Dアニメのキャラの動きではない。奥行き方向の移動が多く,カメラワークもそれに適したものになっている。(試写は2D上映だったが)3D上映を意識しての演出だ。最近の日本製のアニメも,複雑な背景描写の大半は3D-CGで生成したマット画を利用し,そこにセル調の人物像を合成しているが,人物の動きやカメラワークが3D空間を活かしているとは感じられない。本作に限ったことではないが,ここが洋画のCGアニメとの大きな違いだ。かつて,2D時代のアニメーターの職人技を活かすことがセールスポイントとされたが,今はむしろその呪縛から逃れ,ようやく3D-CGによる描画の自由度を手に入れ始めたと感じる。コマ割りやテンポも良い。実写映画の若手監督や撮影監督は,フルCGアニメを教本として,映像作りを学び直すべきだと思う。
 ■ 筆者が本作を一気に気に入ったのは,上記の演出ではなく,音楽だ。軽快なポップス調の曲で始まり,見事なミュージカル構成になっている。ディズニー・アニメよりも,もっとはっきりとしたミュージカル仕立てである。歌詞がセリフとしての重要な意味をもっているのは,歌唱曲の全曲を,脚本家である監督が作詞しているからだ。さりとて,舞台ミュージカルの映画化作品ほど歌が多くないので,物語部分もしっかり構成されている。代表曲の解説はサントラ盤紹介コーナーで述べることにした。
 ■ 予想外の良作,掘り出しものと感じ,ワーナーの再挑戦を褒め称えた次第だ。本稿は短評を先に書き終えていたのを,公開日に合わせて長文にした。残念ながら,大きな広報宣伝がなされていないので,やはり本邦では知名度が上がらず,ヒットしないだろう(米国では,初登場で興収第2位)。邦画製作にも熱心なワーナーは,1週早く『モンスターストライク THE MOVIE ソラノカナタ』を公開している。きっと,興行的にはこの和製アニメに大きさ差をつけられるだろうと予想しておこう。 
 
 
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