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O plus E誌 2007年1月号掲載
 
 
シャーロットのおくりもの』
(パラマウント映画
/UIP配給)
      (C)2006 by Paramount Pictures  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月23日より日比谷スカラ座他全国東宝洋画系にて公開中]   2006年12月4日 UIP試写室(東京)  
         
   
 
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エラゴン 遺志を継ぐ者』
(20世紀フォックス映画)
      (c)2006 TWENTIES CENTURY FOX  
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月16日より日劇1ほか全国東宝洋画系にて公開中]   2006年12月12日 厚生年金会館(大阪)  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  アニマルトークとフルCGの区別が全くつかない逸品  
    冬休みから正月にかけての公開らしく,今年も少年少女向き小説の映画化作品の競演だ。かたや50年余間で全世界で4,500万部を売り上げた愛すべき子ブタの物語。対するは,2003年に出版されたばかりの新進のファンタジー小説で,3部作の第1作目に当たる。スチル写真や予告編を観た読者なら,誰もが『ベイブ』(95)や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズの焼き直しだと感じたことだろう。実際,まさにその通りである。
  『シャーロットのおくりもの』は,『スチュアート・リトル』(00年6月号)の原作者であるE. B. ホワイトが1952年に著したロングセラーで,「生」と「死」のもつ意味を語る心温まる童話だ。少女ファーン(ダコタ・ファニング)に育てられた子ブタのウィルバーは,クリスマスの食卓に乗る自分の運命を知らされ驚愕する。怯えるウィルバーを母親のような愛情で励ますのは,クモのシャーロット(写真1)で,やがて彼女は奇跡を起こす……。というのが物語の骨子だが,例によって動物たちが会話を交わし,その言葉をファーンも少し理解できるという設定になっている。
 言葉を話す動物たちの口の部分をCG映像で置き換える「アニマルトーク」は,『ベイブ』以来リズム&ヒューズ社の伝統芸だ(写真2)。勿論,この映画でも同社が担当している。この種の映画では,よく訓練された動物たちの演技と機械制御のアニマトロニクスを組み合わせるのが普通で,動物たちは観客には見分けがつかない何匹かが調教されて登場する。子ブタは成長が早いから,合計何十匹にも及んだことだろう。
 冒頭から子ブタのウィルバーの演技は秀逸で,その調教ぶりには感心した。一方,もう1匹の主役,クモのシャーロットはどう見てもCGだ。クモの巣を張る様はCGの威力を存分に発揮しているが,顔の造形は今イチだった(写真3)。カラスのコンビやネズミも,派手な動きからしてCGに違いない(写真4)。特に,ネズミのテンプルトンが生卵を浴びたり,フライドポテトと戯れるシーンは抜群で,この両者はTippett Studioの担当だった。
 納屋の動物の動きが完璧に揃ったり,馬が突然真横に倒れたり,ウィルバーはバック転まで披露する。おやおや,これは相当な部分にCGが使われていて,今まで感心していた演技もそうだったのか(写真5)。どこまでがアニマルトークでどこからがCGなのか,全く見分けがつかない。 強いて言えば,後半の少し大きくなったウィルバーは,実物のブタはひねた顔なのに,CG(とおぼしき)映像の方が可愛く描かれていた。主役だから,当然といえば当然だが。
 エンドロールには動物ごとに,Rising Sun Pictures, Stan Winston Studio, Digital Dimension等の名前があった。全く区別がつかない描画力に拍手を送り,☆☆☆を進呈しよう。シャーロットの起こす奇跡は,さほどのサプライズではなかったが,いいエンディングだ。1つおいた右隣の席に映画評論家の渡辺祥子さんがいたが,彼女がテレビで語るに相応しい心優しい作品だった。

 
     
 
写真1 主役は子豚のウィルバーとクモのシャーロット   写真2 顔だけをCGに嵌め変えたアニマルトーク
 
 

写真3 CG製のシャーロット。顏が感心しないが,リップシンクはしっかりしていた。

 
 
 

写真4 これらは動きから判断してCGだろう。よくできている。

 
 
 
 
 
写真5 見事な子豚の演技。これだけがCGか?
(c)2006 by Paramount Pictures. All rights reserved.
 
   
  原作も監督も主演も未熟だが,CGのドラゴンは圧巻  
   一方,鳴り物入りで世界一斉公開される大作の『エラゴン 遺志を継ぐ者』は,原作者クリストファー・パオリーニが弱冠15歳で書き始めたファンタジー小説を両親が自主出版し,これが大手から再出版されてベストセラーとなったというもの。続編『エルデスト 宿命の赤き翼』まで刊行されているが,このドラゴンライダー3部作が未完結のうちにハリウッド・メジャーが映画化権を買い取り,早々と第1作を映画化し公開するというシンデレラ・ストーリーである。もっとも,その若さも両親かがりのプロモーションも,何やら話題作り先行の胡散臭さを感じなくもないが……。
 森と山脈に彩られた広大な帝国アラゲイジアで,人間,エルフ,ドワーフ,魔法使い,怪物が登場する物語というから,書く側も,撮る側も,観る側も『ロード…』を意識してのことなのは言うまでもない。昔ドラゴンと心を交わし,魔力を身につけた誇り高き一族ドラゴンライダーがいたが,邪悪な力に支配された一族の1人ダーザの反乱でライダー族とドラゴンは滅びる。やがて,美しいエルフの女性アーリアから託されたドラゴンの卵を孵した少年エラゴンが,かつてのライダーであったブロムの教えで期待のドラゴンライダーとなり,ダーザを操る帝国の王と対峙する……。何だこれは!? 『スター・ウォーズ』のダースベイダー,レイア姫,ルーク・スカイウォーカー,オビ=ワン・ケノービの関係を,そっくりそのまま置き換えただけじゃないか! ここまで来るとオマージュを通り越して,パクリの域に属すると感じる。
 監督は,ILMのVFX技術者出身で,これが初作品となるシュテファン・ファンマイヤー。主人公エラゴンを演じるのは,18万人の中から選ばれた新人のエド・スペリーアス。脇役陣に,ジェレミー・アイアンズ,ロバート・カーライル,ジョン・マルコヴィッチといった芸達者を配しているのは救いだが,それでも監督の演出の未熟さ,主役の大根ぶりが目立つ。全編は1時間44分。長過ぎないのは好ましいが,駆け足過ぎて,世界観も展開も飲み込めない。現代風ゲーム感覚といえばそれまでだが,もともとの世界観自体が凡庸だ。
 そんな中で,ILMとWETA Digitalが描いたCG 製ドラゴンだけは大健闘だ(写真6)。孵化直後のベビー・ドラゴンの可愛い仕草も良質ならば,大きく成長してスピード感溢れる飛翔も,1人称視点でのジェットコースター風描写も圧巻だ。実写の演技とのオクルージョンの処理,実照明との光学的整合,俳優とのからみの処理等も非の打ち所がない。雌のドラゴンという設定で,女性らしい表情の付け方も悪くない(写真7)。欠点を上げれば,その声を担当したレイチェル・ワイズとは,まるで合っていなかったことだ。『シャーロット…』でジュリア・ロバーツのクモの声がいい雰囲気を出していたのとは好対照だ。
 この作品は,映画化や公開を急ぎ過ぎた感がある。原作は稚拙でも,もっと脚色や編集やアフレコに時間をかければ,相当な作品になっていたと思う。後に引けない20世紀フォックスは,2作目以降,監督の首をすげ替えて巻き返してくるだろう。楽しみにしておこう。
 
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写真6 火を吹く牝のドラゴンとライダーのエラゴン

 
 
 
 
 
写真7 なるほど,このドラゴンは仕草も表情も女性っぽい
(C)2006 TWENTIETH CENTURY FOX.ALL RIGHTS RESERVED.
 
   
  (画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)  
   
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