head
titlehome略歴表彰学協会等委員会歴主要編著書論文・解説コンピュータイメージフロンティア
| INDEX | 年間ベスト5 | DVD/BD特典映像ガイド | SFXビデオ観賞室 | SFX/VFX映画時評 |
 
title
 
O plus E誌 2011年10月号掲載
 
 
 
 
『猿の惑星:創世記(ジェネシス)』
(20世紀フォックス映画)
 
 
      (C)2011 Twentieth Century Fox Film Corporation

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [10月7日よりTOHOシネマズ 日劇他全国ロードショー公開予定]   2011年8月8日 Scotiabank Theatre Vancouver(カナダ)
2011年8月30日 20世紀フォックス試写室(東京)
 
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  もはや特殊メイクは不要,驚くべき質感での大活劇  
  5年以上も前になるが,『キング・コング』(06年1月号)を観た時に,次はこのリメイク作が出て来ると確信した。キング・コング一匹ではあったが,着ぐるみでも顔面特殊メイクでもなく,CGであの表情と動作を描き切ったのであるから,多数のチンパンジー,オランウータン,ゴリラが入り乱れる『猿の惑星』をCG満載で再々映画化するに違いないと予想できた。実際には,期待を遥かに上回る素晴らしい映画に仕上がっていた。
 オリジナルを知らない若い読者のために,少し解説しておこう。原作はピエール・ブールが1963年に著したSF小説だが,フランクリン・J・シャフナー監督,チャールトン・ヘストン主演で1968年に映画化され,SF映画史に残る作品となった。恒星間飛行が可能となった近未来に,300光年先のベテルギウスに向かった宇宙船が不時着し,3人の宇宙飛行士たちが降りた惑星では,知性をもった猿が退化した人間を支配していた……。という筋書だが,精巧な猿の顔面メイクと原作とは異なる衝撃のエンディング・シーンが大きな話題となった。
 当時アカデミー賞にメイクアップ部門はなかったが,本作がきっかけとなって1980年代に創設され,特殊メイク担当のリック・ベイカーは,その後7度もオスカーを手にし,当該分野の第1人者となる。興行的にも成功し,多くのファンを得て,1970年代前半に続編4本が作られた。筆者が映画館で観たのは2作目までだが,その後TV放映されたものをVHSテープに録画して,シリーズ5作品を今も保存している。一方,今世紀に入って再映画化され,ティム・バートン監督版の『PLANET OF THE APES/猿の惑星』(01年8月号)が登場した。こちらの方が原作小説に近い物語だったが,鬼才T・バートンにしては凡作であった。特殊メイクは進化していたものの,CG/VFX的にも今イチの作品だった。
 本作はリメイクというより,旧シリーズ第1作以前の時代に戻り,「猿が人間を支配するようになった起源」を探るという。「創世記」の副題がついているように,流行の「ルーツ」「ビギニング」ものと言ってよい。遺伝子工学実験により,驚異的な知能をもつ一匹のチンパンジーが誕生し,やがて猿たちのリーダーとなる。彼の名は「シーザー」。旧シリーズのファンならすぐ分かるように,第4作目『猿の惑星・征服』(72)以降に登場するリーダーと同じ名であり,同作のリメイクだとも解釈できる。
 監督は,英国出身のルパート・ワイアット。これが長編2作目,ハリウッド・メジャーでのデビュー作となる。シーザーを育てる人間側の主演は,『127時間』(11年6月号)のジェームズ・フランコ,その恋人役にはフリーダ・ピントだ。『スラムドック&ミリオネア』(08)のヒロインを演じた,あの可愛いインド人女優である。そして,Mocapスーツを着てシーザーを演じるのは,アンディ・サーキス(写真1)。『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズのゴラム,前述『キング・コング』でコングをパフォーマンス・キャプチャで演じ切った経験者だから,この分野の第1人者と言える。映画終了後,クレジットロールが流れ,キャストにさしかかった時,会場が沸いた。彼の名前が先頭にあり,準主役級の猿を演じた俳優の名前が続く。J・フランコ以下,人間役の俳優はそれ以下の扱いであり,完全に猿が主役の映画だということだ。勿論,シャレのつもりだろうが……。
 
   
 
 

写真1 シーザーのメイキング過程。演じるのは,世界一のMoCap俳優アンディ・サーキス。

   
   スチル写真や予告編から想像した以上に,この猿のCG表現は凄かった。動きも表情も完璧だ。動物園の猿山などは本物かと思ったが,すべてがCG表現だ。多数の猿の登場場面では,一匹ごとに個体差がついている(写真2)。CG制作担当はWETAデジタルで,最近では珍しく,1社で全VFXシーンの大半を描いている。来年のオスカーは,本作で決まりだろう。  
  ()  
   
 
 

写真2 多数の猿も一匹ずつCGモデルが異なる

   
  表情の豊かさと演出のうまさに度肝を抜かれた  
 
久々登場の役は,5月号から本欄担当の編集者Tさんです。如何でしたか?
ビックリしました。度肝を抜かれました。本当にあの猿が全部CGなんですか? 普通の人が見たら,本物の猿を使っているとしか思えませんよ。でも,あんな演技はさせられる訳はないし,ゴリラがヘリに飛び乗ったりできませんよね(写真3)
 
   
 
 

写真3 クライマックスは,ヘリに向かってのジャンプ

   
 
そのヘリ自体もCGですよ。
えっ!? そうなんですか? でも,中に人が乗っていたし,一体どこからがCGなのか……。
スタジオ内で人をグリーンバックで撮影した映像とCGのヘリを合成すれば済むことです。パトカーもゴールデンゲートブリッジも大半はCGでしょう。
でも,何といっても凄いのは,猿の表情ですよね。家に帰れないと分かって時のシーザーの悲しそうな顔には,切なくなって,涙が出てきました。喜びや悲しみの表情だけでなく,戸惑いや,拗ねたり,脅したりまで表現できるとは驚きました(写真4)
 
   
 
 

写真4 悲しみ,怒り,戸惑い,決意等々の感情が,しっかりと描かれている

   
 
毛や顔の筋肉の表現も進化していましたが,目の動きの描写が驚くべきレベルです。これで一気に表情を作りやすくなり,演技をつけやすくなりました。
ゴリラやオランウータンなど,脇役の演技にも感心しました。ドラマとしても素晴らしいです。
沢山の猿が出て来ても,どれがシーザーだか,しっかり見分けられたでしょ。
そうです,そうです。次第にリーダーらしい,自信や威厳も顔の表情に出ていました(写真5)
 
   
 
 
 
写真5 リーダーらしい威厳が備わったシーザー(左から2番目)。脇役の描き方も見事。
(C)2011 Twentieth Century Fox Film Corporation
 
   
 
コストを考えたら,もはや動物を調教したり,特殊メイクに時間をかけるより,CG/VFXで表現した方が得策だし,深みのある映画を作れます。
この続編も作られるのでしょうか?
CGモデルは再利用できるから,当然作るでしょう。今度はもっとしゃべりますよ(笑)。
 
   
   
   
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
  Page Top  
  sen  
 
back index next
 
     
   
<>br