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O plus E誌 2012年10月号掲載
 
 
 
 
『モンスター・ホテル』
(コロンビア映画
/SPE配給)
 
 
     

  オフィシャルサイト[日本語] [英語]  
 
  [9月29日より新宿ピカデリー他全国ロードショー公開予定]   2012年9月12日 SPE試写室(東京)  
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  個性豊かなモンスターたちのギャグの連発に拍手  
  本作の原題は『Hotel Transylvania』。吸血鬼ドラキュラ伯爵の出身地とされているルーマニアのトランシルヴァニア地方が舞台である。その地にドラキュラが大ホテルを経営し,夜な夜なモンスターたちが集まるという設定とスチル写真(写真1)だけで,まだ見ぬうちから少しワクワクした作品である。
 
 
写真1 一見しただけで楽しくなる個性的な面々
 
 
   フルCGアニメで,コロンビア映画なら当然制作はSony Pictures Animation (SPA)だ。元VFXスタジオのSony Pictures Imageworks (SPIW)が,受託でロバート・ゼメキス監督のフルCG作品を手がけていた上に,アニメ会社として独立させただけあって,意欲は充分だ。SPIWの応援もあり,コマ撮りアニメの老舗アードマン・アニメーションズが系列に入ったので,人材も技術サポートも万全と言える態勢である。フルCGアニメ界は,ピクサーとドリームワークス・アニメーション(DWA)が二大勢力で,20世紀FOX,ワーナー,ユニバーサル,パラマウント等も参入して,第3勢力もしのぎを削っていることは,当欄で再三書いた。その中から頭一つ抜け出しそうな勢いである。従来,実力はあっても企画下手,広報宣伝下手のイメージが強かったDWA作品だが,前作『アーサー・クリスマスの大冒険』(11)から見違えるように垢抜けてきた。
 本作は,妻に先立たれ,男手一つで子育てをするドラキュラという発想もユニークなら,彼が経営するホテルの客が,フランケンシュタイン夫妻,狼男一家,透明人間にミイラ男等々のお馴染みのモンスター達というのが嬉しくなる。そのキャラクター造形は,まさにクリエーター達の腕の見せどころである。目に入れても痛くない一人娘が,人間の青年と恋に落ちることから起こる大騒動も,花嫁の父としての物語の落とし場所も,アニメ作品ならいかようにも描き得る題材だ。
 この好素材の監督に抜擢されたのは,これが監督デビューとなるゲンディ・タルタコフスキー。モスクワ生まれのロシア人だが,7歳で米国に移住し,名門カルアーツでアニメーションを学び,卒業後はTVアニメの世界で輝かしい実績を残してきた人物だそうだ。古今のアニメ作品には通暁しているらしく,前半のモンスター大騒動は徹底したスラップスティック調で描き,終盤の父と娘の物語はディズニー・アニメ風の心暖まるタッチで収めている。以下,見どころと感想である。
 ■ 登場キャラはかなりデフォルメしたマンガ風に描き,背景はしっかりリアルに描写するやり方は,もはや定番である。部屋内のインテリア,衣服や調度類の質感,炎や水の表現も高水準で,当欄といえども,もはや敢えて技術的に語ることもない(写真2)。当然,3D版がメインであり,随所に3Dの威力を感じさせるシーンが登場する(写真3)。極め付けは,ドラキュラが空港へ駆けつけるため,街を通り抜けるシーンだ。それでいて目は全く疲れないし,その他のシーンでは3Dメガネをかけていることすら忘れて観ていることに気付いてしまう。フルCG系は,各社とも立体感を強調せずに物語を展開するコツを覚えたようだ。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 室内装飾の質感も上質で,ライバル作に負けていない
 
 
 
写真3 眼鏡だけ描写の透明人間も,3D効果でしっかり存在感あり
 
 
   ■ モンスターの造形は,当然ピクサーの『モンスターズ・インク』(02年2月号)を相当意識していると思える。途中,ディズニーランドの「エレクトリカル・パレード」そっくりのシーンが登場するかと思えば,エンディングで勢揃いした歌謡ショーはDWAの『シュレック』シリーズのノリだ。そもそも吸血鬼の娘に人間の青年が恋をするという設定自体,若者に人気の『トワイライト』シリーズの裏返しを狙ったのかと思える。すぐに分からないパロディや日本人には分からないギャグが多数盛り込まれていると想像するが,これじゃ,テンポの早い前半部は,字幕で付いて行くのは不可能に近い。試写は,3D日本語吹替版で観たが,これは正解だったと思う。機関銃のようなドラキュラ伯爵のセリフは,天才・山寺宏一でないとこなせないだろう。字幕担当者も相当に力が入っていて,日本語ならではのジョークがたっぷり詰め込まれている。とりわけ,狼男を田舎っぺ言葉にしたのは表彰ものだ。座布団2枚に値する。
 ■ 前作『アーサー…』では,アードマン参加の好影響が出ていると書いたが,本作には参加せず,来春公開の『The Pirates! Band of Misfits』に専念しているようだ。技術が先行しがちだったSPIW&SPW組は,前作と本作で企画や演出でも自信をつけたように見える。先行2社ももはや射程圏内だ。今やCGアニメ界は有能なクリエーター達の宝庫である。最も感心したのは,エンドロールの背景で登場する水彩画風の絵画だ。これだけで画集として買いたくなる素晴らしい芸術作品である。上り坂の同社に1つ注文をつけておくならば,音楽の選曲だ。ユーロビート調,ヒップホップ等,バラエティには富んでいたが,ディズニーに追いつくには,心に残る名曲が1曲欲しかったところだ。
 
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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