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O plus E誌 2018年3・4月号掲載
 
 
リメンバー・ミー』
(ウォルト・ディズニー映画)
      (C) 2018 Disney / Pixar
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [3月16日よりTOHOシネマズ新宿他全国ロードショー公開中]   2018年1月29日 TOHOシネマズ梅田
[完成披露試写会(大阪)]
2018年3月25日 TOHOシネマズ二条[IMAX 字幕版]
       
   
 
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ボス・ベイビー』

(ユニバーサル映画 /東宝東和配給 )

      (C) 2017 Dreamworks Animation LLC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月21日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズ他全国ロードショー公開中]   2018年1月23日 TOHOシネマズ梅田
[完成披露試写会(大阪)]
 
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  春休みのフルCG作品は,ライバル2社の揃い踏み  
  3組目は,春休みのファミリー層を狙ってのフルCG作品の対決だ。長編フルCG映画の始祖とも言えるピクサー社とすぐそれを追って市場参入したDreamWorks Animation(以下,DWA)が良きライバル関係であることは,これまでに何度も書いた。最近は新興勢力に押されぎみだが,昨年秋の公開以来,この2作品が各国の映画賞争いで真正面から激突している。ゴールデングローブ賞,アカデミー賞の長編アニメ部門には両作品はノミネートされ,いずれもピクサーの『リメンバー・ミー』が受賞したが,DWAの『ボス・ベイビー』もかなりの傑作である。何よりもDWA作品が日本できちんと劇場公開され,両作品揃い踏みになったことが喜ばしい。
 
 
  見事な映像と音楽の調和で,ピクサー完全復活  
  まず『リメンバー・ミー』だが,ディズニー/ピクサー・ブランドでの長編19作目に当たる。本分野の始祖ではあるが,11作目以降は過去のヒット作の続編が半数以上で,かつてのような躍動感や創造性を感じられなくなっていた。作品の出来映えも興行収入も,本家ディズニー・アニメーションの『アナと雪の女王』(14年3月号)や『ズートピア』(16年5月号)の方が勝っている。オリジナル作品の『メリダとおそろしの森』(12年8月号)『インサイド・ヘッド』(15年7月号)はアカデミー賞を得て気を吐いたが,『アーロと少年』(16年3月号)は中身も今イチで,興行成績も冴えなかった。
 こうなると既に知名度がある続編もので稼ぎたく気持ちも分からなくはない。前々作『ファインディング・ドリー』(16年7月号)や前作『カーズ/クロスロード』(17年8月号)はまさにその路線で,本作の後に控える20作目『インクレディブル・ファミリー』,21作目『トイ・ストーリー4』も同様だ。その狭間でのオリジナル作品となると,担当スタッフも気合いが入っているはずだと思ったが,まさにその予想通りの力作であった。ライバルの『ボス・ベイビー』『ゴッホ 最期の手紙』(17)もかなりの秀作だったが,本作の試写を観た瞬間,「オスカーは,これで仕方ない」と確信した。
 監督は『トイ・ストーリー3』(10年8月号)のリー・アンクリッチ,共同監督にはエイドリアン・モリーナが抜擢されている。物語は,毎年10月末からメキシコ各地で行なわれる先祖の魂を迎える祭礼「死者の日」にヒントを得ている。ミュージシャンを夢見る少年ミゲルが「死者の国」に迷い込み,そこで自分の真の祖先を知るというハートフルドラマだ。長編アニメ賞,歌曲賞でオスカーを得たので,既にあちこちで話題になっているが,以下は当欄の視点からの感想である。
 ■ 設定としては『DESTINY 鎌倉ものがたり』(18年1月号)に酷似しているのに驚いた。「黄泉の国」に対して本作は「死者の国」,探すのは亡き両親ではなく,音楽家であった高祖父となっている。「黄泉の国」もかなり気合いが入ったデザインであったが,この「死者の国」のビジュアルは驚異的で,ただただ圧倒された。骸骨の人形が登場する陽気な「死者の日」のパレードは『007 スペクター』(15年12月号)で観たが,あのカラフルで活気に溢れた雰囲気は残し,霧を加えて幻想的なイメージを描き出している(写真1)。とりわけ,空中を走行する電車から見下ろすシーンは絶品で,嘆息する(写真2)
 
 
 
 
 
 
 
写真1 カラフルで美しく陽気な「死者の国」
 
 
 
 
 
写真2 空中からの眺めは絶景で,うっとろする
 
 
  ■ もはやCG技術的には目新しさはないが,使い方はますます洗練されてきている。「死者の国」の住人は全員骸骨顔だが,その描き分けや表情が素晴らしい(写真3)。もう1点注目すべきは,曽祖母であるココばあちゃんの頭髪や顔の皺や衣服の描写の繊細さだ(写真4)。本作の原題は『Coco』で,彼女の存在,このシーンで彼女に歌わせることが,本作のクライマックスである。歌曲賞を取った主題歌「リメンバー・ミー」は劇中で何度も使われているが,この曲の使い方の巧みさが本作の真骨頂だ。
 
 
 
 
 
写真3 住人は全員骸骨顔だが,表情は豊かだ
 
 
 
 
 
写真4 ココばあちゃんの頭髪・皺・衣服の描写が見事
(C) 2018 Disney / Pixar. All Rights Reserved.
 
 
  ■ 褒めてばかりなので,苦言も書いておこう。米国映画の定番とはいえ,本作は「家族,家族…」のセリフが多過ぎる。20回以上も聞かされると,しつこく,煩わしく,不愉快に感じる。「日本人なら,口に出さなくても分かっているよ」と言いたくなる。CG作品の場合,映像中に登場する看板や標識内の英語は,逐一各国語表記に換えられている。であれば,日本語吹替版のセリフから「家族」なる言葉を省略して欲しかったところだ。
 
 
  とにかく面白い,脚本が素晴らしい  
   もう一方の『ボス・ベイビー』は,ピクサーより多作のDWA作品の34作目に当たる。親会社がユニバーサル傘下に入ったため,本作から東宝東和の配給となった。同社には,ドル箱のイルミネーション・スタジオ作品もあるので,CGアニメだけで2系列をもつことになる。同じ社内で競合しないかと懸念するが,ミニオンズ人気でしっかり実績を上げているので,大丈夫だろう。DWA作品は,アスミック・エース,角川映画と配給会社を転々とした挙句,パラマウント時代には,評判の高い『ヒックとドラゴン2』(14)『カンフーパンダ3』(16)をビデオスルーで済ませたのだから,こうしてDWAアニメが劇場公開されるだけでも喜ぶべきことである。
 「見た目は赤ちゃん,中身はおっさん!?」というキャッチコピーは,むしろ東宝東和にぴったりだ。クマのぬいぐるみなのに,言葉を話し,下品な中年オヤジの『テッド』(13年2月号)とそっくり重なるからである。ただし,本作の主人公ボス・ベイビーは,スーツ姿で登場し,強圧的ではあるが,テッドのような下ネタは発しない。
 本作の原作はマーラ・フレイジー作の人気絵本とのことだが,DWAらしくブラックユーモアもまじえたファミリー映画に仕上げている。物語の設定では,人間の子供は異次元世界にある「ベイビー株式会社」から供給されることになっている。「ワンワン株式会社」から発売予定の新種ペットに市場を奪われることを懸念した経営陣により,実態を探るため,中間管理職のボス・ベイビーが少年ティムの家に特別派遣されてきたという訳だ。
 最初はボス・ベイビーに翻弄されるティムだが(写真5),やがて共通の利害があることが判明し,次第に協力し合うパートナーとなる。このバディ関係は,「オバケのQ太郎」のQちゃんと正太,「ドラえもん」のドラえもんとのび太の関係にそっくりだ(写真6)。ファミリーアニメの定番で,最も受け入れられやすいパターンなのだろう。その一方で,仕事一辺倒の会社人間への批判も巧みに織り交ぜ,大人の観客の目も意識している(写真7)
 
 
 
 
 
 
 
写真5 最初はスーツ姿の中年オヤジに翻弄される
 
 
 
 
 
写真6 煩わしい弟が,次第に強力なパートナーに
 
 
 
 
 
写真7 「ベイビー株式会社」のオフィスを見学に
(C) 2017 Dreamworks Animation LLC. All Rights Reserved.
 
 
   監督は,『マダガスカル』シリーズ全作を手がけたトム・マクグラスで,古今のギャグアニメに精通している。基本はスラップステック調のコメディだが,脚本が絶品で,テンポもいい。脚本の出来の良さでは,本号の7本中の中で随一だ。フルCGアニメだが,随所に懐かしい2Dアニメ調(漫画タッチ)を交えている。過去の2Dアニメへのオマージュもたっぷり盛り込まれている。
 その一方で,動きや合成は複雑になっている。アクションシーン,とりわけ2度のチェイス・シーンのデザインが秀逸だ。エンドクレジットを観ると,DWAのR&D部門のかなりの人数を投じている。目立って主張しないが,技術的な新規性も盛り込んでいたようだ。
 音楽的には,ディズニー/ピクサー作品はオリジナル歌曲で勝負するのが通常で,『リメンバー・ミー』はその最たるものだった。一方のDWAアニメは過去のヒット曲を挿入するのが得意だ。本作では,ビートルズの「ブラックバード」が歌い手を変えて何度も登場する。版権の関係か,それがサントラ盤に入っていないのが残念だ。エンドソングはMissi Haleが歌う「What the World Needs Now Is Love」で,これは心に沁みた。
 
 
  ◆付記1:『リメンバー・ミー』をIMAX 字幕版で再見  
   『リメンバー・ミー』の完成披露試写が日本語吹替版だったので,公開後に映画館で字幕版を再点検しようと決めていた。もともと出演俳優がいないフルCGアニメは,リップシンクなどないから,吹替版の方が出来がいいことも少なくない。字数に限りがある字幕版よりも,セリフを多く入れられる吹替版の方が分かりやすいのは,『インサイド・ヘッド』(2015年7月号)で実証済みだ。ところが,この映画のようなミュージカル仕立てで,しかも歌詞に大きな意味を持たせている場合は,やはり字幕版に限る。いかに歌唱力のある吹替俳優を起用していても,うまい訳詞であっても,英詞に合わせて作曲された挿入歌は味わいが違ってしまう。
 ようやく時間を見つけて,劇場と上映回を探したのは,公開後約1週間経った頃だった。週末に見ようとすると,何と英語音声の字幕版はIMAX上映しかなく,かつ夜21時前後からの1回しかないではないか! 徹底して家族の絆を訴え,ファミリー層がターゲットの映画とはいえ,字幕版の扱いが低過ぎる。字幕版に拘る観客には,IMAXで追加料金を払わせようという営業方針なのだろう。どうせIMAX画面で観るなら3D上映であって欲しかったのに,2D版しか設定されていない(シアター自体はIMAX 3D上映できる)。それでもいいから土曜の夜に行こうとしたら,終映後,地下鉄の終電に間に合わない。やむなく,20:45開映の日曜日の夜にした。さすがにこんな時間にIMAX上映で見ようという酔狂な観客は殆どないだろうと予想したが,やはり大きなIMAX用シアターに20人前後の観客しかいなかった。
 果たせるかな,この字幕版(というか,英語音声版)の歌唱曲は素晴らしかった。既にサントラ盤紹介欄で解説したように,CDで曲は何度も聴いていたのだが,想像以上の出来栄えだった。IMAXサウンドの音域の広さで,伴奏のラテン音楽は一段と華やかさが増し,メリハリのある打楽器のリズムが響き渡る。
 その半面,映像はむしろ見にくかった。大きな画面で視野角が広い中を登場人物が動き回るので,(3Dではないのに)目が疲れた。IMAX上映といっても1.43:1のフィルム・フォーマットではなく,デジタル上映の場合,1.89:1のIMAX DMRフォーマットである。それでも,横方向には大きなスクリーンをフルに使っているので没入感はあるが,視域がワイド過ぎるのも時として好ましくない現象を引き起こす好例である。
 
 
  ◆付記2:同時上映『アナと雪の女王/家族の思い出』
    ~上質で,見応え,聴き応えのある短篇ミュージカル
 
   試写会だけで満足せず,映画館まで足を運んだもう1つのお目当ては,本編の前に上映されているこの短篇フルCGアニメである。マスコミ用試写会でもセットでついていることが多いのだが,今回は外されていた。観たければ入場料を払って映画館まで来いというメッセージなのか,本作は特殊事情で外したのか不明だが,多分後者だろう。
 元々ピクサー制作の劇場用長編アニメには,ほぼ全作品にボーナス・コンテンツとして同社製作の5~6分の短編が同時上映されていて,これは後日発売のDVDにも収録されている(DVDではさらに別の短編が追加されることもある)。この短編はアカデミー賞短編アニメ部門に14回ノミネートされ,4回オスカーを得ている。長編は11回ノミネート,9回受賞で,受賞確率が圧倒的に高いが,全世界で製作されるのは圧倒的に短編アニメの方が多く,凝った作品も多いので,短編部門でのピクサーの実力と実績も相当なものである。
 そのボーナス作品として何が特殊事情かと言えば,今回はピクサー作品ではなく,あの大ヒットした『アナと雪の女王』(14年3月号)のスピンオフ作品であって,本家Walt Disney Animation Studioの作品であることだ。この組合せには驚いた。既にピクサー社がディズニー傘下に入り,「Disney/Pixar」の表記でクレジットされているのは周知の事実だが,それでもこれまでは別系列の作品群としてカウントされてきた。ところが,もはや興行的には,その境界はなくしたということだろう。ライバルも多くなり,興行成績的には少しもたつき気味のピクサー作品なので,その絶対的な自信作である『リメンバー・ミー』を失敗させる訳には行かず,『アナ雪』人気で集客しようという興行戦術であったのかと想像する。
 もう1つの特殊事情は,本作は22分という上映時間の長さである。これはもはや短編とは言えず,中編に近い尺の長さである。『アナ雪』(原題:Frozen)のスピンオフ短編としては,先に実写映画『シンデレラ』(15年5月号)の同時上映として,短編『アナと雪の女王 エルサのサプライズ』(原題:Frozen Fever,約8分)が付されていた。よって,スピンオフでは2作目であるが,22分となると,結構しっかりした物語が必要となる。
 当初,クリスマス特番用に企画されたが,かなり出来が良かったので,急遽,劇場公開することになったそうだ。なるほど,CM時間や映画の宣伝を加えればTVの30分番組になる長さである。その一方で,米国では本作の併映はわずか16日間の限定公開で終了している。一説によると,短編にしては長過ぎて全体の上映時間が長くなると,映画館サイドからの苦情があったからだという。日本では今もしっかり同時上映されているから,安心されたい。
 前置きが長くなったが,本作の原題は『Olaf's Frozen Adventure』で,雪だるまのオアフが主役である。声の出演は,元祖『アナ雪』と同じく,英語版はジョシュ・ギャッド,日本語版はピエール瀧だ。言うまでもなく,アナ(クリスティン・ベル,神田沙也加),姉のエルサ(イディナ・メンゼル,松たか子),山男のクリストフ(ジョナサン・グロフ,原慎一郎)も全く同じキャスティングである。セリフがないトナカイもスヴェンもしっかり登場する(付写真1)
 物語は,アンデール王国に平和が戻っての初めてのクリスマス,アナとエルサは王国の住民全員を城に招いてパーティーを開くが,夜になると皆帰ってしまった。各家庭に伝統があり,それぞれのクリスマスを祝うためだ。2人が「家族の伝統」がないことを悲しむので,オラフはその伝統を探す旅に出る……。
 22分に見合う冒険物語にはなっているが,ストーリー展開は単純で,またまた「家族,家族…」のオンパレードである。その意味では,本作に続く『リメンバー・ミー』まで一貫していて,立派といえば立派だ。特筆すべきは,全体がミュージカル仕立てであり,その出来映えも上々であることだ。22分で8回も歌われるのだから,ほとんどのシーンで歌っていることになる。あの『アナ雪』のイメージそのままに,同じ声での歌曲満載となれば,当時劇場で一緒に歌った熱烈ファンたちには堪らない魅力だろう。日本語,英語の両方とカラオケまで入ったサントラ盤も発売されている。
 
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付写真1 お馴染みのメンバーが,そっくり同じ歌い声で再登場
(C)2017 Disney. All Rights Reserved.
 
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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