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O plus E誌 2007年3月号掲載
 
 
ハッピー フィート』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2006 Warner Bros. Entertainment Inc. - U.S., Canada, Bahamas & Bermuda
(C) 2006 Village Roadshow Films (BVI) Limited - All Other Territories
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [3月17日より丸の内プラゼールほか全国松竹・東急系にて公開予定]   2007年1月11日 梅田ピカデリー[完成披露試写会(大阪)]  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  これがCGか! 驚嘆するこの南極の風景のリアルさ  
 

 本欄の評点は,フルCGアニメに甘く,セル調アニメに厳しいと言われる。それは自認しているが,3D-CGアニメの技術進歩を礼賛するのは,最新CG技術の粋がそこに詰まっていて,それがあらゆる分野に波及する魅力と威力を有しているからだ。実写+VFX以上にクリエータの創造力が発揮できるからでもある。ただし,もはやフルCGというだけで注目される時代ではないことは,数カ月前から力説してきた。果たせるかな,12月号で紹介した安易な企画の2本は,興行的には惨敗だった。
 以上を考慮してもなお,予告編で観たこの映画の画質は驚嘆すべきものだった。南極とペンギンたちの映像で,海や氷やペンギンは素晴らしいクオリティだった。そして,完成した本編はそれ以上の出来映えだった。
 CG製作は,豪州のAnimal Logic社である。『マトリックス』シリーズのVFXで一躍名を上げたスタジオだが,『ベイブ 都会へ行く』(98)や『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズにも参加している。実写映画でのCG/VFX経験はあったとはいえ,Pixar,PDI,Blue SkyといったCGアニメ専業スタジオを追いかけて,この会社がここまでの作品を作れることにも驚いた。当初60人だったスタッフが,4年半の製作期間のピーク時には500人に達したという。今この分野には,有能な人材が世界中から集まって来るのである。
 南極大陸に住む皇帝ペンギンを中心とした物語である。ある年に多数生まれた子供たちの中で,マンブル(声:イライジャ・ウッド)は一風変わっていた。恐ろしく音痴だったが,それでいて彼のタップダンスは一流だった(写真1)。「ペンギンらしくない」振る舞いが目立つマンブルは,伝統を重んじる長老に疎まれて追放となり,自分の「心の歌」を求めて冒険の旅に出る……。
 監督・共同脚本・製作は,『ベイブ』(95)のジョージ・ミラー。あのほのぼのとした作品とは一変して,本作品の前半は騒々しいミュージカル仕立てで押しまくる。名曲,オリジナル曲取り混ぜて多数のナンバーが使われているが,最も映像と相性が良かったのは,ビーチ・ボーイズの「恋のリバイバル (Do It Again)」のメロディに乗せて描かれる海中のシーンだ(写真2)。動きも溌剌としている。  映像は,これがCGかと思うほどの徹底したフォトリアリズムを追求している。氷山も海も多頭数のペンギンにもため息が出る(写真3)。雪原の足跡も,砂浜と波打ち際も実にリアルだ。空と雲,太陽光やオーロラは光の芸術だ(写真4)。アザラシやイルカなどの表情や動きも素晴らしい(写真5)。では,人間はどう処理しているのかと言えば,これは実写映像を合成して対応している。VFXスタジオらしい現実的な解決策である。
 南極大陸やペンギンの挙動は,ドキュメンタリー作品『皇帝ペンギン』(05年7月号)を思い出す。過酷な自然が実録映像で捉えられていたが,本物ゆえに物語を面白くできなかった恨みもある。それを踏まえつつ,本作品は,コーラスにダンスに,CGならではの自由奔放な描写を謳歌していると感じられる(写真6)。『皇帝ペンギン』を観てから,本作品を観ると一層味わい深い。
 後半少し思索的になり,その分躍動感は薄まる。これだけの描写力があるのだから,次回作には南極大陸を舞台にしたもっと素朴で感動的な物語を期待しておこう。  

 
     
 
写真1 動きはもちろんMoCapで取得
 
     
 
写真2 ビーチ・ボーイズのメロディに乗って快適に
 
     
 
 
 
写真3 雪原の足跡も氷山も,南極の光景のリアルさは圧巻だ。
多頭数のペンギンの描き込みもCGならでは。
 
     
 
 
 
写真4 太陽光やオーロラなど,光りの描写も秀逸
 
     
 
 
 
写真5 ゾウアザラシ,シャチなどが名脇役
(C)2006 Warner Bros. Entertainment Inc. - U.S., Canada, Bahamas & Bermuda
(C)2006 Village Roadshow Films (BVI) Limited - All Other Territories
 
     
  今年のアカデミー賞の予想  
 

 この号が出る前後には,今年のアカデミー賞受賞作が発表されているはずだ。長編アニメ部門のノミネートは以下の3本で,得票率は米国CG World誌読者の予想投票結果(2月12日現在)である。 
 『カーズ』(06年7月号)       49.12%
 『ハッピー フィート』(本作品)     32.46%
 『モンスター・ハウス』(07年1月号)  7.89%
 その他(非ノミネート作品)      10.53%
 個人的には『モンスター…』が最も好きだが,アカデミー会員は今や保守的と映る老舗Pixar社の『カーズ』でなく,斬新さを感じさせる本作品を選ぶのではないかと予想しておこう。
 視覚効果部門の候補作は,『パイレーツ・オブ・カリビアン/デッドマンズ・チェスト』『ポセイドン』『スーパーマン リターンズ』の3本だが,筆者は『パイレーツ…』を推す。果たして,ILM 12年ぶりのオスカー奪還となるかどうかが興味の的だ。

 
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(画像は,O plus E誌掲載分から追加してします)
   
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