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O plus E 2018年Webページ専用記事#5
 
 
search/サーチ』
(スクリーンジェムズ /SPE配給 )
     
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [10月26日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2018年9月18日 GAGA試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  SNSの威力と魅力を引き出した,まさに今観るしかない映画  
  この秋の話題作である。試写を途中まで観ただけで,「話題」を集めるだけのことはある,との「印象」を強くもった。ずばり,映画としても面白い。間違いなく,当欄の読者には「一見の価値あり」と言える逸品だ。
 何が話題かというと,「物語がすべてPC画面上で展開する」という触れ込みだ。後述するように,厳密に言えばそうではないのだが,様々な工夫を凝らして,そう感じさせる作りになっている。似たような手口は,映画学校の学生作品でとっくに何度も使われているはずだ。それを堂々と劇場用映画でやってのけたのである。同じキャッチコピーは何度も使えないので,その意味では,これが一発勝負だ。それに相応しい仕上がりになっている。
 どのような「印象」だったかと言えば,ぴったりする形容表現が浮かんで来ない。「新鮮」「ユニーク」「風変わり」は外れてはいないが,そんな簡単な言葉ではない。「異色の」「興味深い」じゃ平凡過ぎる。「鮮烈」と言うほどではないし,いずれもちょっと違う……。筆者のボキャブラリー内では,うまく表現できない。
 SNSを介した会話やTVニュース映像(風の)シーンが頻出するが,ドキュメンタリー映画ではない。行方不明の娘の所在を追う父親と担当刑事のやりとりを中心に構成されるサスペンス・スリラーであり,純然たるフィクションだ。それでも,実時間進行している出来事の記録映画であるかのような感覚に浸っている内に,終盤は意外な展開になり,ラストでなるほどと満足する構成になっている。それでいて,後でじっくり考えるとこのプロットはサスペンス映画,謎解き映画によくある平凡なパターンだと気付く。ストーリー自体に特別なものはないが,PC画面,ネット利用のパワーを感じさせる演出ゆえに,面白さも倍増する仕掛けの映画なのである。
 監督は,インド系米国人のアニーシュ・チャガンティ。現在27歳の若手で,勿論これが劇場用長編映画の監督デビュー作である。南カリフォルニア大学映画学部の出身で,23歳の時,グーグル・グラス(片目の軽量AR用眼鏡型ディスプレイ)だけを使って撮影した2分半に短編映画『Seeds』が,YouTube投稿で爆発的に視聴され,評判になったそうだ。即ち,伝統ある映画エリート養成校で正統派の映画制作術を学んだ上で,新しい手法での映画作りに挑戦する意欲的な若手監督なのである。
 主演の父親デビッド・キム役は,中国人俳優のジョン・チョー。リブート版『スター・トレック』シリーズのエンタープライズ号の操舵手ヒカル・スールーとして,お馴染みの顔だ。他は,デビッドの娘マーゴットや弟ピーターも中国系の俳優で,担当女性捜査官役はデブラ・メッシングだが,いずれも無名に近い助演陣だ。全くの低予算映画で,米国では僅か9館での公開からスタートし,観客の支持により,その後1,207館にまで拡大されたという出世作品である。
 ともあれ,100%がPC画面上で展開するというのがミソであり,実際にネット社会でのSNS高度利用が堪能できる。それが理解できない観客層には,全く理解不能であり,面白くも何ともないかも知れない。以下,当欄の視点からの論評である。
 ■ 映画が始まって驚いたのは,その画面の美しさ,精細さである。「すべてPC画面上で展開」という言葉で,勝手に勘違いしていた。「全編PC画面を撮影して作った映画」ではない(写真1)。かつて「すべて手持ちのハンディカメラで撮影した映画」が新しさを強調していた。カメラワークの自由度,登場人物の1人称視点の印象を与えるため。今では普通の映画の一部で当たり前に使われる手法だが,昔のハンディカメラは解像度も悪く,手ぶれだらけで,観るのが不愉快であった。その先入観からか,画質が悪い映像を想像していたが,全く違った。PC画面を構成する(あるいは,そう考えてもおかしくない)ディジタル・データで映画のシーンを作り,PC画面を介さず,デジタル・プロジェクターに直接与えれば,シャープな映像を投影できるのは当然のことだった。
 
 
 
 
 
写真1 全編PC画面上という設定だが,画面を撮影している訳ではない
 
 
  ■ では,大型のPC画面を直接見ているのと同様かと言えば,それも違う。意図的に劣化させているシーンを除いては,それよりも鮮やかであり,通常の実写映画よりもクリアだと感じた。映画用のプロジェクターは,ダイナミック・レンジ,階調特性,解像度,光量のいずれとっても,PCやタブレット端末の液晶/有機EL画面,講演会場レベルのプロジェクターより高性能である。ましてや,暗いシアターで観るなら,尚更美しく感じる。最終的には2Kレベルに統一するのでも,CG素材はいくらでも解像度を上げられるし,実写パートも4Kカメラで撮影して,それをウィンドウの一部に嵌め込むのなら,普通の実写映画よりも高精細に感じてしまう。
 ■ そうでありながら,まるで主人公が自分のPCや疾走した娘のノートPCを操作しているように感じるのは,演出上のテクニックである。まず,オープニング・シーケンスが絶妙だ。主人公一家の過去に出来事を,日程表への入力,娘キムの誕生風景,スマホで撮影した家族の幸せな日々,その後の母親の死,父と娘の確執等々を,スマホで撮影した動画やビデオチャット記録で綴って見せている。これがすべてPCのファイルから読み出されたと思わせる仕掛けだ。加えて,本編の製作者ティムール・ベクマンベトフが考案した「スクリーン・ライフ」なる手法が使われている。画面上に開いているウィンドウの数,カーソルの動き,キーボード入力の頻度,背景画面の使い方には,各個人の個性,その時点での感情が反映されているという考え方だ。この手法に基づき,各シーンの画面構成や動きを選んでいるのだから,PC画面を操作しているように思えてしまう訳である。
 ■ 前半は主人公がPCに向かうシーンが多い(写真2)。それでは,彼は画面に向かったままで,全く歩き回ることが出来ない。そこで,ビデオチャットの相手が見る画面という想定を使って,室内移動や外出するシーンを演出している。加えて,第3者の出来事や世の中の状勢は,TVのニュース映像をPC上で確認しているというやり方だ。即ち,普通の映画撮影方法で演技を撮り,それをニュース扱いするだけである。主人公が事件現場に立ち会ったり,インタビューを受けるシーンもこの手口で切り抜けている(写真3)。物語の肝は,Twitter,Instagram,Facebook, Facetime,YouTube,Youcast等,多彩なSNSを縦横に駆使し,その中の記録映像を辿って,娘の失踪原因を辿るという展開であり,「唯一の手がかりは24億8千万人のSNSの中にある」いうコピー文句が生きている。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 上:PCカメラに写らない範囲で演技指導する監督(左),下:撮影中の演技をタブレット端末で確認
 
 
 
 
 
 
 
写真3 屋外シーンは普通に撮影し,ニュース映像として扱っている
 
 
  ■ このやり方を認めるにしても,少しやり過ぎだ,変だなと感じる場面がある。担当女性刑事が父親に捜査状況を報告して来るのに,直接訪問せず,殆どビデオチャットで済ませるというのは,まだまだ不自然だろう。さらに,主人公が頭と肩で携帯電話を挟みながら,相手と会話するシーンが何度かある。昔の電話器ならいざしらず,両手を使いたい場面ならば,今はiPhoneのスピーカーホン機能を使い,机上に置いたまま会話するのが普通だろう。PC経由でなく,電話回線での通話だと言いたかったのだろうが,これも不自然極まりない。
 ■ この映画の試写は1ヶ月以上前に観て,本稿の大半もかなり前に書いていたのだが,Web専用記事としてアップするのは,10月26日の一般公開まで待つことにした。この異色作品を,他の批評家や一般観客がどう評価するかを確認したかったからである。海外では,IMDbの評点(一般観客)は7.9,Rotten Tomatoes(批評家)は93%で,筆者と同様,いずれもかなりの高評価である。それに対して,我が国内の評論家たちの評点はおしなべて高くない。全くの平凡な評点で,中には「視覚的に窮屈」「えんえん主人公の顔をみせつけられる」等の辛口コメントも目立つ。一方,一般観客の最新作の評点ランキングは,KENENOT,Filmarksともに(10/28現在で)堂々の1位である。予想通りであり,納得である。とりわけ,国内の文芸系の映画好きの評論家たちは,最初から毛嫌いをしているか,SNSの効用が理解できないのであろう。好意的な評では,「奇抜な“インターネット映画”では終わっていない」(wired),「映画の未来を見た」(Forbes),「デスクトップに潜む多くの伏線に驚き,引き込まれる」(ASCII)等の表現があった。好みに差が出るタイプの映画ではあるが,これまで当欄の評価と好みがあう読者なら,観て損はない。もっとも,5年後,10年後に見たら,古くさく,感激も新鮮さもないだろうから,賞味期限は短い。「観るなら,今でしょう」なる少し古い流行語を添えて締めくくるとしよう。
 
 
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