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plus E誌 2015年12月号掲載 |
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『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』
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(20世紀フォックス映画) |
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(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation.
Peanuts (C) Peanuts Worldwide LLC..
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オフィシャルサイト[日本語][英語] |
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[12月4日よりTOHOシネマズ スカラ座他全国ロードショー公開予定] |
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2015年11月9 & 20日 GAGA試写室(大阪)
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(注:本映画時評の評点は,上から,,,の順で,その中間にをつけています。) |
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実績を忘れ,一からスヌーピーの3D-CG化に邁進 |
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| 007はアクション映画No.1の人気キャラだが,ここからの3本には,コミックや童話で馴染み深い著名キャラが登場する。そのトップバッターは,米国代表の「スヌーピー」だ。知名度は全世界で99%,日本で97%というから,世界屈指の著名犬である。コミックの題名は「ピーナッツ」で,短編コミックは1950年から,作者チャールズ・M・シュルツの死去までの約50年間,新聞掲載された。TV用短編アニメは多数,劇場公開用長編アニメも1968年から何作か作られている。
今回改めて長編アニメが作られるからには,当然フルCGで描かれ,3D版も作られると予想できた。昨年,日本の人気キャラ「ドラえもん」は,一足先に『STAND BY ME ドラえもん』(14)で3D-CG化されているので,その意味で当然の流れだ。それでも一抹の不安を感じたのは, C・M・シュルツが描くスヌーピーは,肉筆感が表に出ていて,それが人気の的であるから,3D-CG化して違和感が漂わないかである。その点,真ん丸顔のドラえもんやチャーリー・ブラウンよりも幾何モデル化には不向きで,根底的に難しさが違う。
その懸念は,今年の夏,SIGGRAPH 2015の特別セッションで,メイキング講演を聴いて吹っ飛んだ。映画公開前にメイキングを語るとは,よほど自信があったのだろう。以下,その受け売りが大半になるが,CG化対策の概要と本編を観ての感想を述べる。
■ CG担当は,いつものように20世紀フォックス社と提携関係にあるブルー・スカイ・スタジオだ。既に劇場用長編アニメを9本制作しているが,内4本を占める『アイス・エイジ』シリーズでの知名度が高い。この伝統あるCGスタジオが,『The Peanuts Movie』を制作するに当たり,人気コミックの味を出すため,ライティングやカメラのフォーカスから,キャラの動きまで,すべて一からやり直したという。このため,ピクサー流のフルCGでもなければ,レイトレーシング法を多用したこれまでのブルー・スカイ流とも違うテイストのCGアニメが出来上がった。
■ 横顔の多いスヌーピーは,顔の片側に両目が配されている。その目や眉も独特の手書きであり,1つの形状モデルでは表現できない。顔のアングル毎にCGモデルを作り,その間も不自然でない動きで繋がるよう工夫している。一見丸顔で単純に思えるチャーリーも,横顔と正面顔では鼻や髪の毛の位置が違うそうだ。その他,どの登場人物もチャーリーと同様,多数のアングルでの形状モデルを作り,それを変形できるツールが新規開発されている。顔のテクスチャーも均一ではなく,ゾーンに分けてマッピングするよう工夫されている。
■ 身体の動きも滑らかさより,コミック感覚を重視している。見慣れた静止ポーズを頻出させ,その間をうまく繋いでいる。ピッグペン少年の象徴である埃は,意図的にドットや線を描き加える方法が採用された。その結果,登場人物に関してはほぼ違和感がなく,カラフルでゴージャスなCG製の「ピーナッツ」が出来上がった(写真1)。その半面,背景部分は3D-CGの魅力全開で,特に雪の表現が絶妙だ(写真2)。水面表現の上手さ,女の子たちの髪や洋服の質感の高さも3D-CGならではの魅力である。
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写真1 イメージ通りのチャーリー・ブラウンの仲間たち |
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写真2 背景の雪の描写は3D-CGの威力を存分に発揮
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| ■ 「ピーナッツ」はあくまでチャーリーが主役なので,スヌーピーの出番はそう多くない。その点「ドラえもん」とは少し違う。と思ったのだが,後半,スヌーピーが活躍する場面がしっかり用意されていた。撃墜王気取りで,ゴーグル付き飛行帽を着用するのが大好きだが,その凛々しい姿が登場する(写真3)。首のマフラーがたなびく様も上々だ(写真4)。スヌーピーが戦う空中戦の模様は,本作の一番の見どころで,後述する『リトルプリンス』の複葉機の離陸シーンと好一対である。 | |
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写真4 アップで見ると,マフラーもゴーグルも結構な質感
(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Peanuts (C) Peanuts Worldwide LLC.
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| ■ かく左様に,このフルCG化は成功の部類だと思う。残念なのは,本稿の締切までに2D版しか観られなかったことだ。後日,Webページ上だけになるが,3D版で各キャラがどう見えたかを報告したい。
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絵本や縫いぐるみよりも,ぐっと可愛いCG製のクマ |
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米国製のスヌーピー対するは,英国が生んだ愛すべき子グマだ。その名はパディントン。原作は1958年に出版されたマイケル・ボンド作の児童文学「くまのパディントン」で,シリーズ計12作の売り上げは全世界で3,500万部に及ぶという。知名度では「スヌーピー」には劣るものの,絵本でも人気を博し,人形アニメやセル調アニメも作られている。むしろ,一番の人気は縫いぐるみ人形で,筆者も英国出張した際,随所でその姿を見かけた。赤い帽子と青のダッフルコート(即ち,英国旗ユニオンジャックの配色)というコスチュームが個性的で,普通のテディ・ベアとは一線を画している。
劇場用映画は今回が初作品だが,実写映画でCG製のパディントンが登場する。待ち遠しかった一作だ。英仏の合作で欧州では2014年のクリスマスに,米国でも年明けに公開され,大ヒットとなっている。注目すべきは,Rotten TomatoesのTomatometer 98%というハイスコアだった。ファミリー・ムービーは高得点になりがちだが,それにしてもこの満足度は相当に高い。どんな映画は大いに愉しみだったのに,一向に日本で公開されない。もうないのかと諦めかけたところに,ようやく2016年1月15日公開が案内された。喜ばしい限りである。それなら,次号(1月号)の紹介でも時間的には十分なのだが,やはり『I LOVE スヌーピー』と比べて論じたかったので,今号に押し込んだ次第である。
監督・脚本は,ポール・キング。TVドラマやCF出身の若手のようだ。駅で出会った子グマを居候させるブラウン夫妻役にヒュー・ボネヴィルとサリー・ホーキンス。ジム・ブロードベント,ジュリー・ウォルターズといった『ハリー・ポッター』シリーズでも見かけた個性派も脇を固めている。そして,パディントンを剥製にしようと狙う悪役ミリセントを,ニコール・キッドマンが演じている。今年48歳とは思えぬ美しさだ。
ペルーの山奥からロンドンやって来て,人間の言葉を話せる子グマは,下品な中年オヤジのテッドとは違って,ぐっと紳士的だ(写真5)。それでも慣れない大都会生活で引き起こす騒動は,楽しく,微笑ましい。良く練られた脚本で,笑いを誘うのが上手い。そして,何よりも満足度98%に相応しいのは,パディントンの表情や仕草の愛らしさだ。以下,当欄の視点での評価である。
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写真5 パディントン駅でブラウン一家と遭遇。なるほど,テディより紳士的だ。 |
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| ■ CG/VFXの主担当はFramestore,副担当はDouble Negativeの強力英国勢だ。One of Us,NVisible等も参加している。一部アニマトロニクスも使われたようだが,勿論大半のシーンでCG製のパディントンが登場する。このキャラ・デザインが素晴らしい。『キング・コング』(06年1月号)や『テッド』シリーズを持ち出すまでもなく,最近のCG技術ならクマを描くことなど,さほど難しくはないはずだが,この愛くるしさは特筆ものだ。一目で,若い性格のいいクマだと分かる(写真6)。絵本や既存の縫いぐるみに似せることをせず,この映画ならではのルックスにしたのが正解だと思う。他に何匹クマが登場しても,パディントンだと識別できる。今後,縫いぐるみ側がこの顔立ちに似せてくることだろう。
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写真6 原作よりもずっと可愛いCG製のパディントン |
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■ ブラウン家のバスルーム(写真7)や地下鉄駅構内でのギャグが素晴らしい。階段の手すりを駆け上がる動き(写真8),鳩と戯れる様など,動きの表現も子グマらしさを醸し出している。質感では,水に濡れた毛の表現にこだわりが感じられる。何よりも,英国の家庭や夜のロンドンの街に溶け込んだ描写が秀逸だ。
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写真8 驚くべき動きで,階段を上がる
(C) 2014 STUDIOCANAL S.A. TF1 FILMS PRODUCTION S.A.S Paddington Bear TM, Paddington TM AND PB TM are trademarks of Paddington and Company Limited
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付記:『I LOVE スヌーピー THE PEANUTS MOVIE』3D&日本語吹替版の感想 |
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飛出し感を誇張せず,繊細に調整された絶品の3D |
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O plus E誌上の本文で約束した通り,締切後に改めて3D&日本語吹替版を観たので,その評価を記しておこう。
ズバリ言って,この3D版は絶品だ。SIGGRAPH 2015のメイキング・セッションでは,3D版への対策に関しての言及はなかったが,スヌーピーやチャーリーのルック作りのきめ細かな配慮からして,3D化にも相当な工夫をしていると想像できた。その想像通り,いやそれ以上の出来映えだった。
まず冒頭の雪のシーン。この雪が舞う様の立体感だけで嬉しくなってしまう。面倒なメガネをかけて観るだけの価値はあると感じる。雪の積雪感も3Dだとぐっとリアルに見える(写真9)。女の子の髪の毛の質感もしかりである(写真10)。ピッグペンの埃も,3D版でCG表現の絶妙さを感じさせてくれる。
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写真9 陰影をつけた積雪のリアルさは,3D版で一層映える
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写真10 髪の毛の質感も3D用に調節されている
(C) 2015 Twentieth Century Fox Film Corporation. All Rights Reserved. Peanuts (C) Peanuts Worldwide LLC.
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| スヌーピーのレッド・バロンとの空中戦が最大限に3D効果を強調してあるが,それ以外はむしろ大人しく,背景映像の立体感は抑えめであり,前景のキャラを際立たせるよう配慮されている。極端な立体感,飛出し感で,観客を驚かせることはない。そうでありながら,所々にワンポイント,3Dを意識させる小物(木,コップ,ゴミ箱等々)が左右の手前に配されていて,なるほどこれは3D版だったのなと再認識させてくれる。ともあれ,至るところで細やかな配慮がなされている。
それ以上に,感心したのが日本語吹替版の質の良さだ。フルCGアニメであるから,元の俳優は意識することなく,各国すべて吹替版であると言える。それでも,チャーリーとその仲間たちの会話は,絶対に英語じゃないと感じが出ないと思っていた。ところが,英語音声での字幕版をしっかり観た後で,この日本語吹替版を観て,完全に考えを改めた。見事に「ピーナッツ」の子供たちの世界が,日本語音声で表現されているではないか。全く違和感はない。とりわけ素晴らしいのは,チャーリーの声を担当する「鈴木福」の吹替えだ。11歳の子役タレントだが,過去のTVアニメ版を担当していた訳ではなく,チャーリーの声はこれが初めてのようだ。日本語声優のキャスティング担当者に座布団2枚進呈しておこう。
もはや特別な理由がない限り,フルCGアニメは,面倒な字幕を観る必要のない日本語吹替版に限ると決めつけて好いかと思う。
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(画像は,O plus E誌掲載分に追加しています) |
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