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O plus E誌 非掲載
 
 
ハッピーフィート2 踊るペンギンレスキュー隊』
(ワーナー・ブラザース映画)
      (C) 2011 Warner Bros. Ent.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月26日より新宿ピカデリーほか全国ロードショー公開中]   2011年11月17日 なんばパークスシネマ[完成披露試写会(大阪)]
         
   
 
アーサー・クリスマスの大冒険』

(コロンビア映画/SPE配給)

       
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [11月23日より丸の内ルーブルほか全国ロードショー公開中]   2011年11月23日 TOHOシネマズ 二条  
         
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  進化するフルCGアニメにも2つの潮流が
 
 

 12月号の本誌に間に合わなかったCGアニメ2本である。いずれも当然3D上映を前提として作られている。間に合っていれば,『タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密』と3本並べて語るところであった。それにしても,フルCGアニメが増えたなと感じる。当欄で取り上げたのは,一昨年,昨年が9本,今年10本であるから,微増に過ぎないが,メイン欄で取り上げず,短評に回したり,こうしてWebページ専用で取り上げる作品が増えているゆえの印象だろうか。いや,「フルCGだからといって,もはや特別視しない」と宣言してから数年経ち,紹介しない作品も増えたのに,今でもこの数をキープしているのだから,気合いが入った話題作が多いことも事実だ。
 多いと感じる原因の1つは,制作プロダクションも配給ルートも多様化しているからだろう。長編フルCGアニメは,Disney/Pixarが『トイ・ストーリー』(95)が映画生誕100年目に新時代の幕開けを飾って以降,業界を牽引し,続いてDreamWorks/PDIが『アンツ』(98)でこれに続き,『シュレック』シリーズ等の量産で2大勢力となったことは何度も書いた。3番手として,Blue Sky Studiosが20世紀 FOX傘下に入り,『アイス・エイジ』シリーズのヒットを飛ばしたことまでは覚えているが,もうその後は資料を見直さないと分からない。ソニー・ピクチャーズ,ワーナー・ブラザーズ,ユニバーサル,パラマウントといったメジャーが,確実にファミリー層を集客できるこの美味しい市場を見逃すはずがなく,その後,次々と参入して来たからである。フランスや日本からの参入も続いた。
 Pixar, PDI, Blue Skyまでは,CG史を支えてきた専業スタジオであったが,それだけでは足りず,別業界からの転身組も目立つ。まずは,2Dのセル調アニメーションから3D-CGへの宗旨替えである。伝統あるDisney Feature Animation(Pixarではない)や日本のいくつかのアニメ・スタジオが,この範疇に入る。そして最近目立つのが,実写映画のVFXスタジオのフルCG作品への取り組みである。CG映像表現は技術的には全く問題はないが,要望に応じた部分請負と作品丸ごとの企画・製作に関わるのとでは,制作チームの態勢も意欲も相当違うと想像できる。Sony Pictures Imageworks (SPIW)は,いち早くロバート・ゼメキス監督の『ポーラー・エクスプレス』(04年12月号) 『ベオウルフ/呪われし勇者』(07年12月号) を手がけて来たので実績は十分だが,11月号の『ランゴ』で老舗ILMが,そして前述の『タンタンの冒険』ではWeta DigitalがフルCGへの参入を果たした。
 ここまで書くと,もうお分かりだろう。映画そのものの作り方がかなり違うのである。両作品の監督もゴア・ヴァービンスキー,御大スティーブン・スピルバーグであるから,脚本の手直し,演出,構図やカメラワークも実写映画に近い。CGのカメラアングルはいかようにも制御できるが,お子様向きマンガ映画の系譜である古典的アニメの動きやカメラワークとは異なり,実写映画のテイストで作られているのである。もっと言うなら,登場人物の動きが,古典的なアニメの手法でつけられているか,最新のパフォーマンス・キャプチャ装置で取得され,現場でリアルタイム・プレビズしているかの違いがある。今後,当欄ではこれを「アニメ系」と「パフォーマンス系」と分けて語ることにしよう。一口にフルCGアニメと分類してしまわずに,こうした制作方法も考慮しないと,作品の性格を読み取れない時代になっている。

   
  続編は難しいの典型例。絵と音に物語が負けている
 
 

 前置きが長くなったが,上記のような観点から最新の2本を語ろう。まずは,2007年(2006年度公開作品が対象)のオスカー(長編アニメーション部門)を獲得した『ハッピー フィート』(07年3月号)の続編である。当然のことながら3D化しての再登場であり,予告編だけ見ても思いっきり製作費をかけてパワーアップしていることが分かる。メジャー中のメジャー,ワーナー・ブラザーズ傘下での看板CGアニメであり,前作のオスカーのご褒美なら当然だ。
 CG制作担当は,オーストラリアのAnimal Logic社。前作でもその履歴を紹介したが,『ベイブ』(95)や『マトリックス』(99年9月号)等の実写映画のVFXで実績を残しているが,前作でCGアニメに進出して大成功を収めた。3D作品は,既に『ガフールの伝説』(10年10月号)で経験済みである。本シリーズは『マッド・マックス』(79)のジョージ・ミラーが監督・脚本,『ガフール…』は『300<スリーハンドレッド>』(07年6月号)のザック・スナイダーが監督だったから,元来は「パフォーマンス系」の素養があった上で,動物が主人公で「アニメ系」のテイストを盛り込んでいると言える。『ハッピー フィート』は,この両者の巧みな融合の先駆者だった。試写を観たとたんに「今年のオスカーは,これで決まりだ!」と感じさせるものがあったのは,実にこの融合による新しさだった。
 さて,同監督,同スタッフによる続編は,同じく南極を舞台にした物語であり,主人公の皇帝ペンギン・マンブルとグローリアの間に生まれたエリックが,本作では主役級の働きをする。巨大な氷山に衝突され,多数のペンギンたちが棲む皇帝ランドが孤立する危機とその救出がテーマの物語である。
 個々のペンギンのますます個性的な描写になるかと思えば,全体の数がもの凄い(写真1)。恐ろしいほどの数であり,CGの威力ここに有りと感じるシーンが続出する。背景となる氷山,雪渓,雪洞,オーロラの描写も精緻を極め,美しい(写真2)。随所に3Dならではと感じるシーンが存在する。ゾウアザラシの皮膚のリアリティも一段と向上している(写真3)。こと映像に関して言えば,思わず「いいね!」のクリック・ボタンを押したくなるシーンが次々に登場する。

   
 
写真1 ペンギンたちは個々の描写も秀逸だが,その数にも圧倒される
 
   
 
 
 
 
 
写真2 雪洞もオーロラも美しく,3D上映で映える
 
   
 
写真3 ゾウアザラシの質感もさらに向上
 
   
 

 副題に「踊るペンギン」が出て来るように,ペンギン全員のダンス・シーン,歌声がウリである。前作も前半はミュージカル仕立てであったが,2作目はそれがエスカレートしている。軽やかなタップダンスに似合った音楽が,激しいストリートダンスとラップ,かなり重厚で仰々しいミュージカルの様相を呈して来て,ファミリー映画にはやり過ぎと思えるほどだ。敢えて言えば,ミュージカル・ファンですら騒々しいと感じるほどだ。
 声優陣の豪華さは出色だ。前作のイライジャ・ウッド,ロビン・ウィリアムズ,ヒューゴ・ウィービングに加えて,道化役のオキアミのコンビ,ウィルとビルの声を,何とブラッド・ピットとマット・デイモンが演じている(写真4)。それを考えれば,本作は日本語吹替版でなく絶対に字幕版で観るべきだ。

   
 
 
 
写真4 オキアミのウィルとビルの声は,何とブラッド・ピットとマット・デイモン!
 
   
 

 という風に,各パートはそれぞれにパワーアップしているのだが,全体としてはバランスが悪く,今一つ乗れない映画だった。道化役,狂言回しは,オキアミだけでいいのに,空飛ぶペンギンのスヴェン(写真5)にもそれをやらせるから,まとまりが悪くなる。絵と音楽に物語が負けている。南極のペンギンだけの世界では,物語の展開が難しいのだろう。大ヒット作の続編は難しいという典型例だと感じた一作であった。

   
 
 
 
写真5 こちらがもう一方の道化役,空飛ぶペンギンのスヴェン
(C) 2011 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved
 
   
  さすがアードマンと感心する質感とギャグ
 
 

 もう1本は,Sony Pictures Animation (SPA)製のCGアニメで,こちらは単独のオリジナル作品である。「アーサー・クリスマス」というのはサンタクロースを父にもつ少年の名前で,文字通りのクリスマスものだ。イブからは1ヶ月以上も前の11月23日に日米同時公開で,本編が直前まで届かないため,大阪での試写会はなかった。止むなく公開初日にの夕刻,3Dメガネ持参で京都のシネコンに出向いた。周りは小中学生と母親のファミリー層ばかりで,中年以上の男性はほとんどいない。子供連れの中に父親は見当たらない。では,全く女子供対象の童話風映画かといえば,ジャンル的にはその通りだ。ところが,これが実に良くできていて,凛々しく,テンポよく,ワクワクするものがある。映画として最も肝心なことをわきまえている。SPA作品として,これまでのベスト1だろう。
 Disney & Pixar,Dreamworks Animationに対抗して,ソニー・ピクチャーズは傘下にSPAを設立し,フルCGアニメ市場への本格参入を図った。既に劇場公開作品としては,『オープン・シーズン』(06年12月号)『サーフズ・アップ』(07年12月号)『くもりときどきミートボール』(09年10月号) を生み出していて,こちらも既に『くもりときどき…』で3D作品制作を経験済みである。CGキャラクターデザインやエフェクト等は,系列のVFXスタジオSPIWが担当しているが,作風は全くアニメ系であり,作品の対象年齢層は低い。堅実にアニメの王道たるディズニー映画市場を狙っていると感じられる。
 監督・脚本は,オックスフォード大学出身の英国人女性監督のサラ・スミス。BBCラジオ,BBCテレビでのキャリアはあるが,長編アニメの監督はこれが初作品だ。なぜこういう人物を起用するのかと思うだろうが,現職はコマ撮りのアニメの老舗アードマン・アニメーションの長編部門のクリエイティブ・ディレクターであり,本作品の企画を立ち上げ,自ら監督・脚本を担当することになったとのことだ。驚いたのは,名作『ウォレスとグルミット』シリーズ,『チキンラン』(01年4月号)で知られるアードマンが,何とフルCGアニメである本作の制作に全面的に参加していることである。時代だなと感じる反面,本作のあちこちで,さすがアードマンと思わせる巧みなシーンが登場することに嬉しくなってしまった。
 中身は,世界中の子供たちにプレゼントを届けるサンタクロース一家の物語で,世襲制のサンタの親子3世代が登場する。こちらの舞台は北極で,地下に超ハイテク・オペレーション基地があり,20億人の子供たちの要望に応え得る態勢がとられているという設定となっている。この基地の指揮官はサンタの長男のスティーブだが,現役サンタの父親は100万人のエルフを率い,高速宇宙船型ソリで移動し,時差を利用してプレゼントを一晩で配る。ところが,些細なミスから1人の少女のプレゼントが配達されていないことが判明し,これを看過できない心優しい次男坊のアーサーが,お爺サンタと一緒に旧式ソリを使って緊急出動し,プレゼント届けようとする……。
 主題歌は,ジャスティン・ビーバーが歌う「サンタが街にやってくる(Santa Claus Is Coming To Town)」で,映画の前にそのミュージック・ビデオ(写真6)が流れる。これが,実に軽快で,躍動感に溢れていた。今年17歳になるカナダの人気少年だが,この曲もアルバム全体も今年発売のクリスマス・ソングの中でも出色の出来だと思う。その勢いのまま本編に入ると,アーサー少年がJ・ビーバーと重なってしまう。それも計算の内だろう。

   
 
写真6 主題歌を歌うジャスティン・ビーバーのミュージック・ビデオ
 
   
 

 冒頭の映像はアーサーの部屋(写真7)だが,この室内の描写とセーターの質感に圧倒されてしまう。いやはや,文句なしに素晴らしい。3D効果も悪くない。悪くないどころか,絶品だ。冒頭だけでなく,全編を通じて本作の3Dは見やすく,何気ないシーンにも適度の3Dの飛び出し感,奥行き感が見事に演出されている(写真8) 。『アバター』(10年2月号)を別格とすれば,その後登場した数ある3D作品の中で,最も3Dで観る価値ある映画だと評価しておこう。

   
 
写真7 まず冒頭から,アーサーの部屋の描写とセーターの質感に感心する
 
   
 
写真8 何気ないシーンの中にも微妙な3D効果があり,実に見やすい
 
   
 

 オペレーション基地の管制室内のデザイン(写真9)は楽しいし,旧式ソリも,ボートの質感も素晴らしい。これらはすべて,アードマンの参加によるものだろうか? 実のところ,良く分からない。CGアブジェクトの質感表現,照明,構図,カメラワーク等々が違うのだろうか? 随所にこれは一味違うなと感じることしきりであったが,厳密にはどこがどう違うのか,細部を記憶・記録し尽くせなかった。BD/DVDを購入してから,もう一度じっくり分析したい。

   
 
写真9 サンタのオペレーション基地のハイテク描写も悪くない
 
   
 

 いずれにせよ,アニメ系の作品が,パフォーマス・キャプチャに走ることなく,ストップモーション(コマ撮り)アニメの手法を取り入れたことが大正解であったことは確実だ。映像の質だけでなく,テンポも良く,ジョークもクライマックスの盛り上げ方も冴えていた。日本の映画市場の中では,そう大きなヒットは見込めないのだろうが,多くの人々に楽しんでもらいたい映画だ。

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