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O plus E誌 2001年4月号掲載
 
 
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『チキンラン』
(ドリームワークス映画/シネカノン&アミューズピクチャーズ配給)
 
       
      (2001/3/6 東宝本社試写室)  
         
     
  名人芸と興行師が生んだ極上エンターテインメント  
 こちらも,別の意味で待ち望んでいた映画のようやくの登場である。人形を少しずつ動かしてコマ撮りする方式の長編アニメで,ストップ・モーションともクレイ・アニメーションとも呼ばれるこの方式は,膨大な制作時間と伝統的職人芸を要するため,劇場用長編映画は珍しい。全編85分のこの『Chicken Run』は,その代表作として語り継がれるに違いない作品である。
 アカデミー賞を獲得した短編『ウォレスとグルミット』は,グリコのCMでもお馴染みだ。その名人芸を誇るクリエイト集団アードマン・アニメーションズと最近絶好調のドリームワークスが組んだプロジェクトというので,大いに期待していた。
 米国では2000年の6月20日に公開され,興収1億ドルを突破,英国では興収記録を塗り替えるヒットとなったのに,日本では一向に公開されなかった。一旦,『チキン・チキン・ラン・ラン』という題でUIPから年内に公開される予定だったのに,これが延び延びになったのは,日本では当らないと踏んだためだろうか。 原題に忠実な『チキンラン』に戻して,シネカノン配給で公開される運びになったのは,とても喜ばしい。
 ストーリーは,英国の養鶏場に飼われている雌鳥たちの大脱走劇である。強欲な女経営者ミス・トゥイーディーが,不採算の養鶏場経営に見切りをつけ雌鳥を全部チキンパイにしてしまおうとする。その企てを察知した雌鳥ジンジャーが,紛れ込んできたヤンキー雄鳥ロッキーの助けを借り,仲間達と脱走計画を練るという物語である。
 勧善懲悪の単純なストーリーではあるが,実に良く出来ている。先月紹介した『102』にも通じるところがあり,ストーリー運びの巧みさは『トイ・ストーリー2』にも引けを取らない。当初は,ストップ・モーション特有のぎこちなさを感じるが,これはすぐ慣れてしまう。後半は見事に感情移入してしまう。隣の女性ライター達は,感動して涙していたくらいだ。
 実写で,ストップ・モーション専用のレンズ,シャッター速度を採用しているだけに,何と言っても映像が抜群にキレイだ。VFXは,CGが背景の一部とディジタル処理によるワイヤー消しに使われている程度である。金属光沢と影,炎,どれをとっても実写ならでは極上の画質である。この味はCGでは絶対に出ない。ビデオでも価値は半減するだろうから,本欄の読者なら,是非劇場で観るべき作品である。
 セルアニメと同様,キャラクターごとに4〜8人のアニメーターがついている。セリフと合わせるための何種類もの口の形と,驚きや喜びの表情ごとに首をすげ替えて撮影される。1日3秒分撮るのがやっとというから,並行処理をしたとしても,85分の長編映画は大プロジェクトである。他の映画以上に綿密な計画が必要な分,背景セットの作り込み,構図,色彩感覚は,まさに名人芸を感じさせてくれた(写真1)。ディズニー流のセルアニメ,ピクサーのフルCGアニメもいいが,たまにはこういうクレイアニメも味わってみるべきだ。
 
写真1 多数の鶏たちや養鶏小屋はすべて手作り.構図も照明も周到な計画を立てて撮影される. 写真2 スティーブ・マックィーンを思い出させるジャンプシーン
 
 スピルバーグ率いるドリームワークスだけあって,アクション・シーンはインディ・ジョーンズ張り,エンディングの躍動感は『E.T.』を彷彿とさせる。ただし,全体として意識しているのは,何といってもジョン・スタージェス監督の『大脱走』(63)だ。メル・ギブソンが声を演じるロッキーの鉄条網ジャンプ・シーン(写真2)は,往年のファンならスティープ・マックイーンのバイクでのジャンプを思い出す。他にも,曰くありげなセリフやパロディが入っているのだろう。家族連れにも映画好きにも受ける逸品である。 
   
   
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