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O plus E 2018年Webページ専用記事#1
 
第90回アカデミー賞候補作について
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
 
「予想」でなく,「感想」「願望」として

(2018年2月28日記)

 
  昨年の予想記事,授賞式後の追記の最後に「語る価値がなくなってきた。来年からスッパリやめるか,【長編アニメ賞】【視覚効果賞】の2部門だけの予想にしようかと思案し始めている」と書いてしまった。最も注目を集める「作品賞」は,何年も続けて,皆が予想する大本命をことごとく外してくることに嫌気がさしたからである。前哨戦の地方都市や小国の批評家協会の賞ならば,一風変わった作品を選ぶのも理解できるが,天下の耳目を集める「アカデミー賞」なら,ましてや自らが授賞式を一大イベントとして喧伝するからには,世界の映画業界の最も権威ある賞として,まっとうな選択をして欲しいと願うのは,筆者だけではないはずである。実際,80年以上の歴史の中で,玄人が選ぶ作品の質の評価だけでなく,映画制作技術にとっての革新性,映画産業にとっての商業的価値,時代風俗を象徴するような登場人物等々,映画芸術を総合的な視点から考えての選奨であったはずだ。それが,最近のアカデミー会員の投票意識は,競馬新聞の穴狙い評論家並みか,と言いたかったのである。
 とは言うものの,毎年のように外れるから,むくれているだけじゃないかと言われれば,全くその通りだ。「祭りだから」「お遊びだから」と言い訳をしながら書いてきた記事ではあるが,読んで下さる読者がおられるからには,それなりに真面目に考えて予想したものなので,少し恨みを言いたかっただけである。
 そうこうする内に,今年もこの祭り騒ぎのシーズンになってきた。既に映画雑誌や映画サイトでは,各々の予想記事が並んでいる。長年の愛読者である知人から,「まあまあ,そう言わずに今年も書きなさいよ。そんなに真剣に考えずに,皆さんそれなりに楽しみにしているのだから…」と言われて,振り上げた拳を少し降ろすことにした。図らずも,O plus E誌が隔月刊になり,3月号として掲載することができなくなったので,今年からはWeb専用記事でしか公表できない。それなら,貴重な紙幅を拙い予想で穢すことにはならないので,安心して変節できるという訳である。
 とはいえ,大真面目に「予想」して,ひねくれ会員に外されるのは不愉快だから,候補作に関する「感想」や「願望」を述べることにした。ただし,「長編アニメ賞」「視覚効果賞」は,予告通り,まっとうな「予想」として書くことにした。
 ●作品賞部門:候補作9本中,既に7本を観終えている。未見なのは『ファントム・スレッド』(5月27日公開)『レディ・バード』(6月公開)の2本だけである。大方の予想は,最多13部門にノミネートの『シェイプ・オブ・ウォーター』と,6部門ノミネートの『スリー・ビルボード』の一騎打ちとのことだが,筆者も全く同意見だ。ともに女性が主人公で,製作・配給会社も同じFox Searchlightである。当欄では,ともに評価で,サントラ盤コーナーでも取り上げている。今年は,この2本が頭1つ抜けていると感じる。配給会社が同じなので,事前運動の量の差で,受賞作が左右されることもないだろう。筆者の願望は,どちらでもいいのだが,強いて言えば『スリー・ビルボード』の方に獲らせたい。
 ●監督賞部門:対象5作品はすべて観ている。なぜか『スリー…』のマーティン・マクドナー監督がノミネートされなかったので,当然『シェイプ…』のギレルモ・デル・トロが大本命だ。当欄の常連監督だが,キワモノ扱いされていたのか,これまで作品賞にも監督賞にも無縁だった。その意味では,是非今年獲って欲しい。同じ理由から,8部門ノミネートの『ダンケルク』のクリストファー・ノーランも同様だ。彼の監督作品では『ダークナイト』(08)が7部門,『インセプション』(10)が8部門,『インターステラー』(14)が5部門にノミネートされていたが,監督賞の候補となるのは初めてだ。その意味では,彼にもこの賞を獲らせたい。
 ●主演男優賞部門:ここは『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーを世界から救った男』のゲイリー・オールドマンしかないだろう。顔面の特殊メイクもさることながら,これぞプロの俳優の演技だ。作品紹介は次号に掲載する。
 ●主演女優賞部門:作品賞と同じで,それぞれの主演女優(サリー・ホーキンスとフランシス・マクドーマンド)の一騎打ちだと思う。筆者の好みは,当然作品賞と同じで『スリー…』のF・マクダーマンドだ。
 ●助演男優賞部門:『スリー…』の試写を観終った瞬間から,他作品がどうであれ,警察署長役のウディ・ハレルソンと暴力警官役のサム・ロックウェルの2人がオスカー最有力候補だと感じた。ゴールデングローブ賞では後者だけが候補になり,受賞している。アカデミー賞で同作品から2人がノミネートされたことは,素直に嬉しい。この部門に関しては,アカデミー会員の眼力を称賛したい。2人ともに獲らせたいが,そうは行かないから,やはりラストが印象深かったS・ロックウェルを推しておきたい。
 ●助演女優賞部門:候補作全部は観ていないのだが,『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』のアリソン・ジャニーを推す。本作も次号で紹介する。あの強烈な鬼母役の演技なしには,作品は成立していない。強いてマイナス要因を探せば,3年前の第87回で,『セッション』(15)の鬼教師役で助演男優賞を得たJ・K・シモンズの印象に酷似していることだ。それでも,似た役柄で2匹目の泥鰌はいると思う。
 ●衣装デザイン賞部門:『美女と野獣』と『シェイプ…』の2本が有力だが,『美女と野獣』のベルが着た,あの黄色のドレスに惚れ込んだ。半魚人も印象的だが,やはりあのドレスの方が正統派のオスカー受賞作だと思う。
 ●美術賞部門:ここも上記の2本が有力だが,美的センスのトータルな評価では,少し異色な『シェイプ…』を推しておきたい。
 ●撮影賞部門,編集賞部門:作品賞,監督賞は苦戦するだろうから,この2部門は『ダンケルク』に獲らせたい。
 ●主題歌賞部門:『リメンバー・ミー』のエンドソングが,頭1つ以上抜けている。曲自体は4年前の「Let It Go」の方が名曲だと思うが,映画内で何度も登場し,その使われ方が見事で,群を抜いている。
 
 
 
当欄にとっての主要2部門の予想

(2018年3月1日記)

 
  ●長編アニメ賞部門:候補作は5本だが,『The Breadwinner』『Ferdinand』の2本は日本公開の予定がない。従って,『ゴッホ~最期の手紙~』『ボス・ベイビー』『リメンバー・ミー』の3本だけを比べるが,いずれもかなりの秀作だ。個人的には『ボス・ベイビー』が一番好きだ。当欄の視点からすると,異色の意欲作『ゴッホ~最期の手紙~』に獲らせたい。例年なら,このいずれでもオスカーに値すると思うが,『リメンバー・ミー』という最強の敵が同年にいたのが不運だった。ディズニー・アニメーションと同族のピクサーばかりが受賞しているので,今年は別会社にも脚光が当たって欲しかったのだが,『リメンバー・ミー』の大本命は揺るがないと思う。
 ●視覚効果賞部門:候補の5作品全部観ていて,この部門は当てなければいけないのだが,全く予測が立たない。例年なら1,2作推したい作品があるのだが,どれもドングリの背比べで,特に推したい作品がない。SFやアメコミ作品での大量,良質のVFX利用が当たり前になり,特に目立った使い方を見出せなくなっているためだ。個人的には,『猿の惑星:聖戦記』の技術レベルが最も高いと思うが,新シリーズの3作目であり,急に使われ方が変わった訳ではないから,票を集め難いだろう。その意味では,『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:リミックス』も『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』も新シリーズの2作目であり,前作からの大きな差分値はない。残る2作の内,『キングコング:髑髏島の巨神』も目新しさは何もなかったし,それなら今年こそ『猿の惑星:聖戦記』に与えるべきだと思う。こういう風に消去法で考えてくると,筆者が最も評価しない『ブレードランナー 2049』が残ってしまう。CG/VFXの量では5作の中で最も少なく,斬新でもないが,案外これが受賞してしまうのかも知れない。35年前の前作の特撮に比べると,視覚効果的には最も変化が大きいから(当たり前だ!),それを理由にすれば,最も映像の質を向上させたと言えなくもない。
 
 
 
追記:思わず笑ってしまった今年の結果

(2018年3月6日記)

 
  昨日,受賞曲が出揃ったところで,その一覧と上記の自らの願望(予想)を見比べて,笑いを禁じ得なかった。特に「作品賞」と「視覚効果賞」の結果についてである。
 「結構,当たってるじゃないか」と早速メールを寄越したのは,上記の「まあまあ,そう言わずに今年も…」と言ってくれた友人(愛読者)である。戦績は10勝3敗なので一見好成績に思えるが,さほど威張れるほどのものでもない。今年は主要部門で意外な受賞作はなく,ほぼ順当だっただけで,他の映画サイトの予想結果も似たようなものである。さらにじっくり見れば,当欄が挙げたのは,ゴールデングローブ賞のドラマ部門受賞作と全く同じだったのである。
 この時期,各種メディアからは否が応でもが有力作品の情報が入ってくる。それでも,上記のような記事を書く時には,他の予想記事は見ず,ノミネート作の一覧だけを見て,自らの視点で選んでいる。その結果,大半がゴールデングローブ賞受賞作になってしまうのは。筆者の眼力が「凡庸」「平均的」「個性なし」なのか,それとも「比較的まとも」と考えるべきなのか…。それでいて,予想が見事に外れる年があるのは,やはりアカデミー会員側が「ひねくれ者」なのかと思う。
 最大の話題の「作品賞」は,「どちらでもいい」と言いながら,「強いて言えば『スリー・ビルボード』の方に獲らせたい。」と記した。実は,続けて「でも,アカデミー会員はその逆で,きっとGG賞受賞作を外し,『シェイプ…』の方を選ぶに違いない。」と結んでいたのだが,少し考えて,この一文を削除した。これでは穿った見方の「予想」であり,「願望」だけを書くという方針に反するからである。結果はご存知の通りで,やっぱり……と笑った次第である。こと「作品賞」に関しては,最初から「GG賞受賞作の本命は,アカデミー賞を取れない」と考えた方が的中率は上がりそうだ(笑)。
 もっと笑えたのは「視覚効果賞」で,こちらは「まっとうな予想」として,消去法で『ブレードランナー 2049』を残していたからである。これが正に的中だったから,筆者にはもはやアカデミー会員の性癖や嗜好を読み通す力があるのかと,笑えてきた訳である。
 「監督賞」や4つの主要演技賞,「長編アニメ賞」は的中だったが,比較的まともな予想が当たる技術賞関連で,「撮影賞」と「衣装デザイン賞」が外れた。後者は未見の『ファントム・スレッド』が受賞したのだから,これは止むを得ないところだ。
 応援する『ダンケルク』が「編集賞」を得たのは願望通りで,嬉しかった。同作は「録音賞」「音響効果賞」でもオスカーを得ている。音響は専門でないのと,小さな試写室では本格的な音響効果を比較する自信がないので,例年これらの部門は「願望」も「予想」も書いていない。それでも,『ダンケルク』の紹介記事(17年9月号)では,「ハンス・ジマーが最も得意とする緊迫感を煽る音楽も,IMAXシアターの低音と見事にマッチしていた」と書いていた。大きな劇場での試写の場合,しっかりその音響効果の出来の良さを聴き取っていたのだと,自画自賛しておきたい。
 「外国語映画賞」の受賞作は『ナチュラルウーマン』だった。5本中2本しか観ていなかったので同部門も予想しなかったのだが,『ナチュラルウーマン』にはを与え,もう1本の『ザ・スクエア 思いやりの聖域』(次号掲載予定)にはしか与えていない。こちらも眼力があったかと少しいい気分だ。
 さて,「予想(邪推)能力」が備わってきたなら,来年はどうするかと言えば……。その時期になって考えることにしよう。
 
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