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O plus E誌 2018年9・10月号掲載
 
 
プーと大人になった僕』
(ウォルト・ディズニー映画 )
      (C) 2018 Disney Enterprises, Inc.
 
  オフィシャルサイト[日本語]    
  [9月14日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開中]   2018年8月16日 TOHOシネマズ梅田[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  よく出来た物語だが,CG入りの実写化は不満が残る  
  原題が『Christopher Robin』。主人公のフルネームを表題にするのは洋画の定番だが,これでは何の映画か分かりにくいので,内容に即した邦題となっている。それでも「プー」だけでは,世界的な人気キャラの「クマのプーさん」のことと気付かない人も少なくないようだ。その「プーさん」を描いた初の実写映画である。
 すっかりウォルト・ディズニーが生み出したキャラのように思われているが,原典は1926年に出版されたA・A・ミルン作の「くまのプーさん(Winnie-the-Pooh)」で,息子のために書いた童話集である。この息子のクリストファー・ロビンも,彼のもっていた動物の縫いぐるみ達とともに物語に登場する。即ち,スヌーピーにとってのチャーリー・ブラウン,ドラえもんにとっての野比のび太に相当する存在である(写真1)。正式にはChristopher Robin Milneだが,作品内ではミドルネームまでが使われ,フルネームのように扱われている。
 
 
 
 
 
(C)The Trustees of the Pooh Properties 2016
 
 
 
 
 
 
(C) Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.
 
 
写真1 (上)絵本の挿画,(中)セル調のディズニーアニメ,(下)ディズニー製のCGアニメ,
いずれも少年クリストファー・ロビンが登場するが,ルックスはかなり違う。
 
 
  実写映画で,大人のクリストファー・ロビンが登場するというので,原作者と息子のハートフル物語,あるいは人気キャラの誕生秘話かと思ったが,そうではなかった。時代設定は1920年代,主役は成長してロンドン在住のビジネスマンになったクリストファー・ロビンで,既に妻と娘と暮らしている。多忙な生活を送る彼の前に,突如,子供の頃に大親友であったプーが現れ,「森の仲間たちが見つからない。一緒に探してほしい」と頼む。魔法の扉が消えてしまったため,プーは森に戻れなくなり,クリストファーが森まで送り届けることになる……。
 プーや仲間たちは,当然言葉を話す。その一方でロンドンのビジネス社会も描かれているから,全くの架空の物語である。原作の児童小説の続編として存在する訳ではなく,原作者やその息子の実話でもない。「くまのプーさん」をドル箱として扱うディズニー・エンタープライズが,この独自設定の物語をどのような位置づけで描くのかが見ものであった。
 監督は,アフリカ系アメリカ人のマーク・フォスター。『007/慰めの報酬』(09年1月号)や『ワールド・ウォーZ』(13年8月号)のような大作でCG/VFXも経験済みだが,本作はピーター・パン生誕の裏話である『ネバーランド』(05年1月号)に近いタッチで描くことが予想された。主演は,『トレインスポッティング』シリーズのユアン・マクレガー。そして,建築家の妻イヴリン役はヘイリー・アトウェル,プーの声はお馴染みの声優ジム・カミングスが演じている。
 冒頭から,仕事一筋のクリストファー・ロビンは家庭を顧みない実に嫌味な男だ。これは大人の会社人間への警鐘であり,再び森に戻って,子供時代の心を取り戻す物語だとすぐ分かる。その意味では,いかにもディズニー的で,ファミリー映画として高評価を得るだろうが,当欄としては,以下のような不満が残った。
 ■ プーや他の動物たちは,勿論CG製であるが,完全に縫いぐるみらしく描かれている。絵本やアニメでは普通の動物キャラ描画であるから,これは意図的なデザイン方針だ。ディズニー・アニメに慣れた目には,プーの毛色も赤いシャツも鮮やかさがなく,違和感を感じる(写真2)。その種の縫いぐるみも存在するが,やはり従来のディズニー流プーさん色が好ましい。ただし,毛並みの質感描写は完璧で,実物とCGの区別はつかない。これはイーヨーやピグレットたちも同様だ(写真3)
 
 
 
 
 
写真2 この鮮やかさに欠ける色はプーさんらしくない
 
 
 
 
 
 
 
写真3 毛並みの質感が高く,人形なのかCG描写なのか,全く区別できない
 
 
  ■ 縫いぐるみだとしても,『テッド』(13年2月号)や『パディントン』(15年12月号)に比べて,プーは表情に乏しい。テッドほど眉は明確でなく,口が小さいから,デザイン的に無理がある。これだけ無表情だと,聖人君子のようで面白みがない(写真4)。アニメ版に比べても存在感が薄い。いっそ,パディントンのように絵本と実写映画でデザインを変えれば良かったと思う。その点では,この実写映画化は失敗の部類だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 これだけ無表情だと,陰気で面白みがない
 
 
  ■ CG/VFXの主担当は英国のFramestoreだから,1920年代のロンドンの描写は全く問題がない。「100エーカーの森」もロケなのかCGなのか区別はつかない。縫いぐるみたちは自然の風景に馴染んでいる(写真5)。他にMethod Studios, Iloula VFX, Lola VFX等が参加し,プレビズ担当は最大手のThird Floorだ。  
 
 
 
 
写真5 全て縫いぐるみ風だが背景には馴染んでいる
(C) 2018 Disney Enterprises, Inc.
 
 
    
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
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