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O plus E誌 2013年12月号掲載
 
 
ゼロ・グラビティ』
(ワーナー・ブラザーズ映画)
      (C) 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [12月13日より丸の内ルーブル他全国ロードショー公開予定]   2013年10月15日 なんばパークスシネマ[完成披露試写会(大阪)]
2013年11月8日 松竹試写室(大阪)
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  宇宙空間,宇宙船内の描写が傑出した最高のCG大作  
  こうした映画評を毎月書いていると,しばしば知人達から「最近オススメの映画は,何?」と尋ねられる。当欄(か,せめてWebサイト)をじっくり読んでくれよと言いたいところだが,それぞれ好みもあるだろうから,なかなか1本だけを挙げにくい。それでも今年の初めは,万人受けする秀作として,『ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日』(13年2月号)を勧めてきた。そしてこの年末には,自信をもって本作を推薦できる。
 ジャンル的には,SF,パニック系サバイバル映画に属するのだろうが,エイリアンやUFOは登場しないから,SFが好きでない女性群にも勧められる。強いて言えば,『アポロ13』(95)に最も近いが,こちらは実話ではなく,あくまでフィクションだ。正確に描写された科学技術ものでありながら,主人公の心の葛藤と成長を描いた人間讃歌のドラマでもある。
 地表から600kmの宇宙でミッション遂行中のスペースシャトルが,ロシアの衛星の爆破の2次災害により,飛来した破片の衝突で大破する。生き残ったのは,船外で作業中のメディカルエンジニアのライアン・ストーン博士(サンドラ・ブロック)とベテラン宇宙飛行士マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)だけだった。無重力空間に取り残された2人は,国際宇宙ステーション(ISS)まで移動し(写真1),さらに中国のステーションの宇宙船を利用しての地球への帰還を計画するが……。
 
 
 
 
 
写真1 シャトル破壊後,生き残りをかけてISSへと向かう
 
 
  原題は単なる『Gravity』。無重力を意味する邦題の方が優れている。監督は,『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』(04年7月号) 『トゥモロー・ワールド』(06年12月号) のアルフォンソ・キュアロン。脚本・編集も共同で担当している。さすが,ハリポタ・シリーズ中の最高作を生み出しただけのことはある力量だ。出演者は,上記の2大俳優だけで,後は数人の声の出演者だけだ。企画段階では,主演女優として,アンジェリーナ・ジョリー,マリオン・コティヤール,スカーレット・ヨハンソン,ナタリー・ポートマンらも候補だったそうだが,これは絶対にS・ブロックで大正解だったと思う。M・コティヤールやS・ヨハンソンでは,強い意志をもった知的な女性科学者らしくないし,心に傷をもった女性の悲しみを描くには,A・ジョリーでは情熱的過ぎる。一方の男優はロバート・ダウニー・Jr.が最有力だったというが,なるほど軽妙な会話を交わすこの役は,彼に似合っていたと思う,もっとも,突然宇宙でアイアンマンに変身されても困るが(笑)。
 S・ブロックの演技は絶賛されていて,アカデミー賞の有力候補だそうだ。本作は,作品賞,監督賞,撮影賞,編集賞,視覚効果賞,音響賞,音響効果賞にもノミネートされるだろうと,今から予想しておこう。
 ヒューマン・ドラマとしての本作の価値は,他誌で散々語られるだろうから,当欄では映像と音響の素晴らしさだけを解説することにしよう。
 ■ 地球上での前置きや打ち上げシーンはなく,いきなり宇宙空間での作業シーンから始まる。この監督好みの長回しのシーケンスが,冒頭から10分以上も続いただろうか。登場人物やミッションの説明方々,カメラが宇宙空間を縦横無尽に動き回るが,言うまでもなく大半がCGで描かれているゆえの産物である。その意味では,宇宙空間より,CG空間と言った方が正確かも知れない。全編を通して,この空間で徹底的にプレビズし,素晴らしい構図やカメラワークを見せてくれる。
 ■ 宇宙空間での照明効果が素晴らしく,シャトル,ISS,宇宙飛行士の陰影付けが秀逸だ(写真2)。ハッブル望遠鏡等の機材描写も極めてリアルで,バックに登場する地球も日の出の光景も美しい。筆者は,NASA製作の宇宙探査のIMAX映像を何本も観ているが,本物そっくりで感嘆する。さらに,立体効果も抜群なので,この映画は絶対に大スクリーンの3D上映で観るべきだ。日本では上映館は少ないが,IMAXがベストだ。
 
 
 
 
 
 
 
 
写真2 宇宙空間(実はCG空間)内でのカメラワーク,照明効果,3Dの立体感が見事。バックの地球も美しい。
 
 
 
  ■ 大半はグリーンバックで撮影し,シーン中の事物の大部分をCGで描き込んでいる。宇宙服姿の2人の身体も殆どCGだろう。ヘルメット内の顔だけ合成したり,あるいは素顔で撮影してCG製のヘルメットを被せている(写真3)。ヘルメットへの映り込みや息での曇りを正確に描き込んでいることは言うまでもない。CG/VFXの主担当はFramestoreで,Rising Sun Pictures,Prime Focus VFXが副担当である。USCのP. Debevec博士も参加し,もの凄い新技術が結集している。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
写真3 身体はCG製で顔だけ嵌め込む場合もあれば,素顔で演技して前面のバイザーのみCGで描き加えることも
 
 
  ■ 宇宙空間での無重力(写真4)も宇宙船内の挙動(写真5)も極めて自然だった。単純なMoCapでは表現できないから,回転リグを使ってのMoCapや手付けアニメーション,頭部だけの合成等,1シーンごとに,様々な工夫を凝らしていると思われる。
 
 
 
 
 
写真4 宇宙空間での遊泳の様子は本物そっくり
 
 
 
 
 
写真5 宇宙船内の無重力状態の描写も極めて自然
 
 
  ■ もう1つ言及しておくべきなのが音響効果だ。宇宙空間は当然無音だが,それでは味気ないから,衝突,爆発,機材操作の音等を巧みに入れている(写真6)。残響感はなく,乾いた音だが,無響室で録音したのではなく,当然コンピュータでの合成音だろう。所々に配されている無音状態の静寂が効果的で,素晴らしい演出だ。
 
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写真6 衝突や爆発に合わせて,それらしい音が入れられている
(C) 2013 WARNER BROS.ENTERTAINMENT INC.
 
 
  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
   
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