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O plus E誌 2019年1・2月号掲載
 
 
ファースト・マン』
(ユニバーサル映画 東宝東和配給 )
      (C)Universal Pictures
 
  オフィシャルサイト[日本語][英語]    
  [2月8日よりTOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー公開予定]   2018年11月19日 TOHOシネマズなんば[完成披露試写会(大阪)]
       
  (注:本映画時評の評点は,上からの順で,その中間にをつけています。)  
   
  NASAの全面協力で描く,半世紀前の人類初の大偉業  
  本号はハイレベルの作品が多いが,今年のトップバッターは表題通り,この映画で行こう。正月以来,中国による月の裏側への着陸計画のニュースが流れていたが,本作は50年前の快挙,人類で初めて月面に降り立ったニール・アームストロング船長の物語だ。
 予告編を観ただけで品質の高さが窺え,大いに期待した。嬉しいことに,完成披露試写はIMAXの大型画面での上映だった。過去に筆者が観た最高の映像は,フロリダのNASA宇宙センターで見たIMAX記録映画2本である。劇映画でありながら,それに匹敵する出来映えで,そこに絶妙な立体音響が付されていた。これだけの大型作品でありながら3D映画でないのは,NASA提供の記録映像の大半が2Dであり,それを擬似3D変換しても正しい奥行き情報を表現できないと判断したからだろう。謙虚かつ正しく賢明な製作姿勢である。
 監督は『ラ・ラ・ランド』(17年3月号)で史上最年少オスカー監督となったデイミアン・チャゼル。『セッション』(15年4月号)で注目され,オスカー受賞後すぐにこうした大作を手がけるというのは,まさにハリウッドドリームだ。主演のN・アームストロング役には前作同様,ライアン・ゴズリングを起用している。
 前置きはこれくらいにして,早速本題に入ろう。
 ■ 映画のオープニングシーンは,X-15高高度極超音速実験機のシーンであった(写真1)。1960年のこの時点では,主人公は空軍のパイロットであり,宇宙飛行士候補にはなっていなかった。本作は,表題も含めてノンフィクション作家ジェームズ・R・ハンセンによる彼の伝記に基づいているから,アポロ計画以前の出来事もたっぷり含まれている。これは嬉しい誤算だった。
 
 
 
 
 
 
 
写真1 映画はX-15高高度極超音速実験機のシーンで始まる。
まだこの時点では,主人公は空軍のパイロット。
 
 
  ■ マーキュリー計画とアポロ計画の間にあったジェミニ計画の描写にも多くの時間が割かれている(写真2)。見どころは,宇宙船のドッキング成功後,回転異常を起こす緊急事態シーンだ。それを捉えるカメラの揺れの再現が素晴らしい。大スクリーンの前にジンバルを置いて撮影したこのシーケンスの迫力と緊迫感は特筆ものだ。CG/VFXの主担当はDNEGで,既にVFXのメイキングシーンがYouTube上で公開されている(写真3)。月面着陸を模しての砂漠でのテスト風景の撮影も際立っている。アポロ計画以前にこうした苦労があったことを伝えるのに,本作は大きな役割を果たしている。
 
 
 
 
 
 
 
写真2 ジェミニ8号は大型模型をスクリーン投影した地球の映像に合成
 
 
 
 
 
写真3 効率的な合成のため,各種素材映像をマルチ画面で管理できるツールも活用
 
 
   ■ いよいよアポロ11号の打上げに移り,CG/VFXのレベルも最高域に達する。サターンVロケットも月面着陸船も精巧なミニチュアであるが,前者はNASAの記録フィルムに近い画質に調整し(写真4),後者は月面の実写画像と合成するため,着陸船に違和感のない照明を付与している(写真5)。惚れ惚れする画像だ。宇宙船内も宇宙服もヒューストンの管制室も,NASAの全面協力を得て忠実に描いてあるのだろう。宇宙から見た地球,太陽のフレア等の描写も完璧だ。
 
 
 
 
 
 
 
写真4 スタジオ内に置かれた高さ3m弱のサターンVロケットの模型(上)。
NASAの記録フィルム(下左)を基に,打上げシーンを再現(下右)。
 
 
 
 
 
 
 
写真5 月着陸船の1/6模型と月面実写映像の合成
 
 
   ■ 白眉は,月面での歩行や作業風景だ。空気のない月面の鮮やかさに息を飲む。実際は地球上で撮影した画像をVFX加工しているのだから,記録映像に近くなるよう画像鮮鋭化処理を施しているのだろう。最初の一歩の足跡もそっくりで,よくぞこれだけ正確に踏み込めたなと感心したが,良く考えれば,実際の写真を合成すれば済むことだった(笑)。宇宙飛行士のヘルメットに映る光景を正面から捉えている(写真6)。当然,そこには撮影カメラも写ってしまうはずなのだが,これは巧みに後処理で消去しているのだろう。当時TVで報道されたのは画質の悪いモノクロ映像であったが,まるでこの映像を観ていたかのような錯覚に陥った。
 
 
 
 
 
 
 
写真6 上:正面からの撮影でカメラがヘルメットに映り込む
下:VFX処理でカメラを消去した完成映像
(C)Universal Pictures
 
 
   かく左様に,CG/VFXとしては,文句なしの最高点を与えるべき作品である。ただし,劇映画としての出来映えは85点程度で,以下のような個人的不満が残った。
 ■ 伝記映画であるから,生い立ちや私生活も描きたくなるのは理解できるが,夫人(クレア・フォイ)の存在が煩わしく,夫婦間のいざこざが余計だった。人類初の偉業に向かう夫の緊張感に対して,我が侭な夫人のあの態度は何だ。「私なら,帰還後に離婚してやるぞ」と思いながら観ていたが,実際にこの夫婦は離婚したようだ。監督は「これまで描かれなかった物語」と言うが,あんな不愉快な夫婦間のエピソードは要らない!
 ■ 上記を入れるくらいなら,もっとアポロ11号打上げから月面着陸までに時間を割き,ドキュメンタリー風に描いて欲しかった。アポロ13号のような緊迫感はなくても,地球との交信,宇宙船内の様子を長くして,臨場感を高めることは出来たはずだ。当時の筆者は大学4年生で,深夜にレポートを書きながら,実況映像を眺めていた。西山千氏の同時通訳によるヒューストンとアポロ11号の交信を克明に憶えている。その様子を豪華な映像つきで眺めることを本作に期待した観客は,世界中に多数いるはずだ。帰還後に大学教授となった主人公の姿もエンドロールで付して欲しかった。以上2点で減点2なのだが,VFX映像は5つに値するので,やはり最高点評価であることには変わりない。
 
    
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  (画像は,O plus E誌掲載分に追加しています)  
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